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第1章 異世界武者修行編
第114話 愚者
しおりを挟む2082年9月1日 0時14分 夏休み終了まで残り1日
オルト帝国首都ハーリア 《皇玉殿》大門前
「待ってたぜぇ! キョウヤ・クスノキぃ!!」
僕の前に2メートルもある長い金色の髪の大男が立ち塞がる。一言で言えば金髪獅子、いや、金髪ゴリラというところか。
全身真っ白な服装。此奴が《ロイヤルガード》なのだろう。
解析をかけてみるが失敗する。皇帝に解析無効化の魔術道具でも貰ったか。
まあ解析できないのは相手も同じ。僕のステータスはこの大男にはレベル150前後に見えている。神級の刀剣を生み出す特殊能力を持つことを警戒はされていようが、その程度しか僕については知らぬはずだ。
ならまずは様子見。
「…………」
無言でルインを鞘から抜き剣先を金髪ゴリラに向ける。
金髪の大男も口端を上げながら3メートルを超える巨大な剣の先を僕に向けてくる。
この剣は伝説級レベル7。警戒するほどの武具ではない。
「簡単には殺さねぇ。どこから切られたい? 腕かぁ? 脚かぁ? それとも耳ぃ? 鼻? 首はダメだぞぉ。死んじまうからなぁ~」
強者だと思い気合を入れて来たってのに……興ざめだ。ただの快楽殺人野郎か。この手の戦闘を舐めている馬鹿は僕が最も嫌いな人種だ。
「御託はいい。殺してやるから雑魚は雑魚らしくとっととかかってこいよ」
「貴様ぁぁ!!」
人差し指一本で手招きすると、金髪ゴリラは額に青筋を張らせて突進してくる。
(ど素人が! その程度の安い挑発に乗るんじゃねぇよ! 動きが単調過ぎて欠伸が出る)
太刀筋は確かに速いが動きが直線的で剣の軌跡がまるわかりだ。これではいくら威力があろうが意味はない。
ルインで受け止め力を流す。力を殺してもこの重圧。確かに恐るべき膂力だ。真面に受ければ僕でも体勢くらい崩すだろう。あくまで真面にくらえばの話だが。
ギイイィィンッ!
縦切りを横に弾く。横薙ぎを上に撥ね上げる。袈裟懸けを下方へ流す。金髪ゴリラの斬撃の全てを受け止めその力を流し、殺す。
僕が受けの一手であるからか、いつの間にか金髪ゴリラの怒りは僕を蹂躙することへの愉悦に変わっていた。ここまで単純だと、益々やる気が失せる。
だがおかげでここの金髪ゴリラの大凡の強さは把握した。レベル300台。平均ステータス7万前後。ただし筋力だけは10万を超える。剣術系のスキルは所持していない。
この程度なら今の僕の脅威にはなりえない。
「どうしたぁ!! 防戦一方じゃねぇかぁ?」
「…………」
(此奴、マジで救えない。それだけ何度も攻撃して一度もクリーンヒットしていないんだ。もう少し焦れよ!)
そろそろいいだろう。
爆風を纏って迫る剣の軌跡を分析する。
僕の右前腕部を狙い力任せに垂直に振り下ろしてくる斬撃。
(相手の力量もわからない。いや、わかろうとしない。
しかも、いたぶるために急所を外す。どこまでも闘いを汚してくれる奴だ)
身体の重心を左へ移動し最小の動きで大剣を躱す。僕の身体が霞み、金髪ゴリラの大剣が空を切る。次いで右腕の関節を狙って斬撃を繰り出す。
ズンッ!
金髪ゴリラの大剣を持つ上腕が切断の衝撃で空に舞い上がり鮮血で周囲を赤く染め上げる。
「ぐおおぉぉぉぉ!!」
血液が噴水のように噴き出る右腕の断面を左手で押さえて呻く金髪ゴリラ。
僕は膝をつき呻いている金髪ゴリラをやる気なく見下ろす。
(喚く暇あるなら少しは反撃しろ! 全てにおいて期待外れだ)
「よ、よくも俺の腕を!!」
(テンプレ発言! ご馳走さん。
だからさ。口を動かす前に距離をとるなり、攻撃するなりしろよ。これだから戦闘のど素人は……)
「僕も忙しい。君のような素人に構っている暇はないんだ。だからさ、とっとと逃げなよ。今なら追わないから。君程度の雑魚なら逃しても大して僕らのギルドの脅威にはならないだろうし」
怒りで顔を真っ赤に充血させる。さらに額の血管が膨れ上がり、一部が破裂した。
(怒りで血管破裂ってホントにあるんだ……漫画みたいだ)
呑気な感想を抱いていると、金髪ゴリラは空を仰ぎ咆哮を上げる。
『グウオオオオオォォォォンッ!!』
咆哮により大気がビリビリと振動し、急速に大気中の魔力が金髪ゴリラの口の中へ吸い込まれていく。
金髪のゴリラの全身の筋肉が盛り上がり、白服を内側から破裂させる。体毛が生え、人非ざる者に変わっていく。見たところゴリラではなく大型の虎というところか。
どうやら正真正銘人間を止めていたようだ。なら益々遠慮はいらないだろう。
『小僧、貴様は引き裂き生きたまま内臓を引きずり――』
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
僕は大きなため息を吐き出し、ゆっくりとルインの剣先を大型虎化しているバケモノへ向け、有りっ丈の魔力弾を虎のバケモノへと発射する。
ルインの改良は麻酔、睡眠等の敵不動化能力の付加と攻撃力の大幅増加だ。通常の魔力弾の1.5倍もの威力を可能にした。この虎モドキならあっと言う間に粉々の肉片だろう。
『よ、よせ! まだ魔人化が――ぐがぁ!!』
無数の魔力弾は高速回転し、バケモノの身体に次々に衝突する。バケモノの身体は爆ぜ、抉られ、高熱で燃える。瞬きをする間もなくバケモノは首だけになっていた。
頭部だけとなった大虎のバケモノは僕を見上げる。その目には強烈な怯えの色がある。
(へ~、頭部だけでも生きてるのか? 実にバケモノらしくしく生き汚い)
『ぎ、ぎざまぁ~、ひぎょうだぞ~!』
「卑怯? 頭大丈夫? これは戦闘だよ。君の変身が完了するまで敵の僕が指を銜えて待っているわけないだろう? 大体、変身に時間がかかるなら最初から変身してきなよ。そうすりゃもう少しましな戦いができた。
でもまあ、君のような力なき雑魚でも戦士として扱ってやったんだ。感謝して欲しいな」
『ふざげるなぁぁぁ!!』
「ウザい」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
細かな肉片となるまで大虎の顔面に魔力弾を撃ち続ける。
原型もなくなったのを確認しルインを鞘に納める。
まさか現れる敵全て此奴のノリなのだろうか。流石にそれだけは勘弁願いたい。
ドゥンッ!
ルインの魔力弾で《皇玉殿》大門を破壊し僕は中へ入った。
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