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第1章 異世界武者修行編
第61話 主従の誓い
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2082年8月13日(木曜日) 22時13分 血城西区
金髪の修道服の男――マティアと青髪の修道服の女はおそらく人生最後となる逃亡劇を演じるため姿を消す。
気絶したスキンヘッドや白色ドレスの女達の処理は全員思金神に任せることとした。今回の事件で思金神は怒髪天を衝く状態だ。奴に任せればスキンヘッド達は碌な事にはなるまい。僕には時間がない事だしそれが一番良い。
今一番の問題はピカピカ女の動向だ。《神の遊戯》によりこの血城中に偽装を施している。ピカピカ女が今見ている内容は僕がマティア達に善戦している内容となっているはずだ。だからこそ奴は今まで介入してこなかったのだろう。だがそろそろ不自然さに気付くはずだ。介入してくるのも時間の問題だろう。
しかしそれは寧ろ好都合。奴はこの楽しいゲームの大切な主賓だ。精々楽しんでもらう事にする。
僕は蹲っている銀髪の少女に近づく。
金髪の修道服の男の槍で何度も刺されたはずの腹部は完全に癒えていた。思金神の仕業だろう。
それに身体の至る所に幻術の残滓が見られる。僕の《神の遊戯》で幻術系の魔術・スキル・魔道具の類は全て効力を失っている。確かに彼女は中性的で一見して男女の区別はつかない。それに加えて幻術までしていては女性と気づく者などほとんどいないだろう。姿すら偽るとはこの子にも事情があると見える。
僕の気配を察知した銀髪の少女は赤髪の女の生首モドキを強く抱き締めつつ顔面蒼白の顔を僕に向けて来る。
地べたにペタンと腰を付けてガチガチと歯を鳴らせて僕を見上げる様子からも完璧に恐怖の対象として認識されてしまったようだ。まあむしろ好都合だ。
僕はしゃがみ込み彼女に視線を合わせる。
「君の名は? 大丈夫。僕は君の敵じゃない」
まあ味方といえるかは甚だ疑問だがね。破滅の使者といった方が正解かもしれない。
「ブラド……ライガ」
なるほどこの柱がこの血の吐息の王か。悪魔(天族)に魂を売ってやる的な発現をした直後の僕の出現だ。彼女の立場からすればこの怯えも当然の反応か。
時間もない。さっさと用を済ませることにしよう。
「君は彼奴等の破滅を望んだ。僕はそれを叶える。契約内容からすれば君の全ては僕のものだ」
銀髪の少女――ブラドはビクッと身を竦ませる。構わず僕は続ける。
「だけど僕は傀儡などいらない。だからこの場で選択しろ。君に彼奴等を圧倒できる力と現在の困難を打破する力をくれてやる。代わりに僕の目的に付き合ってもらう。
ただし慎重に決めろよ。僕の目的は今回の彼奴等の打倒など御飯事に思えるようなことだ」
事実だ。いつもの僕も偶然にも同じ目的を持っている。だが僕といつもの僕が持つ認識の間にはマリアナ海溝以上の大きな溝が横たわっている。
ブラドは強烈な不安の色をその目の中に光らせながら僕に尋ねてくる。
「その目的……とは?」
ブラドの声は消え入りそうな声を発する。
「僕の目的は――」
……
…………
………………
「貴方は……正気か? そんな事ができるとでも?」
僕の言葉にブラドは雷に打たれたような呆気にとられた不思議な顔をしていた。
「できる。い~や。やるんだ。だけど僕だけでそれを達成できると考える程自惚れちゃいない。僕の目的を成し遂げるためには信頼できる仲間が必要だ。安心して僕の背中を預けられる仲間が」
いつのまにか思金神が胸に右手を当てて片膝をついている。相変わらずこの手の演出が好きな奴だ。だが今は思金神の行為に乗っかるとする。
「これが最後だ。僕との契約を受けるか?」
僕の目的の達成は過酷なのだ。これで迷うような奴なら僕にはいらない。
「契約すれば奴らを圧倒できるのか? 私達吸血種がこんな地獄を見ることがない社会を構築できるのか?」
まったく頓珍漢な事を尋ねてくるものだ。他者から与えられるものなど結局きっかけに過ぎない。最終的に目的を達するのは自分自身の行為だ。
「僕は神ではないよ。だからそれを可能とする力を与えるだけ。後は君次第だ」
ブラドの目の中から恐怖と不安の色が消え、眉の辺りに強烈な決意の色を浮かべる。もう聞かなくても答えはわかる。やはり僕の見立ては正しかった。
「お受けしよう。私は今から貴方のものだ」
自然に口角が上がる。それはそうだ。僕の目的はいわば破滅の行進。それを知りそれでも付き合う大馬鹿者にはそう出会えるものではない。
もう言葉はいらない。
僕は《神王軍化》の《神軍化》を発動し、ブラドの右腕に《妖精の森》のギルドマークを刻み使徒化する。
次いで《使徒進化》を発動する。
仮にも《進化》の名を冠するのだ。《使徒高位進化》は同時に使う事はおそらくはできまい。それに金髪の修道服の男を屠るのにそんな危険を冒す必要はない。
ブラドの身体に光が満ちると同時にブラドは意識を失い糸の切れた人形のように地面に倒れ込む。地面に衝突する前にそのブラドの身体を右腕で受け止める。
ブラドは高位吸血種。1段階の進化により最高位吸血種へと存在を変える。
ブラドが最高位吸血種になれば吸血種の力を常に100%扱えるようになる。即ち、覚醒などしなくてもレベル203になるというわけだ。
さらに僕の《超越進化》で全ステータス2.5倍になる。即ち最高位吸血種のステータス限界――8万にまで上昇する。これは、凡そレベル330のステータスに匹敵する。もっとも、進化したばかりでは本来の力を発揮するには数日は要するだろうが、それでもレベル250に相当する能力値は見込めるはずだ。
マティアは覚醒してレベル242。互角以上の闘いが出来る。とは言え《混沌》第6階梯のスキル・魔術を持つマティアには至高第5階梯を有するに過ぎないブラドでは本来太刀打ちが出来ない。それほどまでに《至高》と《混沌》の力の差は隔絶している。
しかし《神王軍化》により《虚無》第9階梯以下の魔術・スキルをブラドは保有し得るようになった。レベル的にも保有スキル・魔術的にも力は埋まるどころか完璧に逆転する。
これでお膳立ては全て揃った。
ゲームの開始だ!
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お読みいただきありがとうございます。
金髪の修道服の男――マティアと青髪の修道服の女はおそらく人生最後となる逃亡劇を演じるため姿を消す。
気絶したスキンヘッドや白色ドレスの女達の処理は全員思金神に任せることとした。今回の事件で思金神は怒髪天を衝く状態だ。奴に任せればスキンヘッド達は碌な事にはなるまい。僕には時間がない事だしそれが一番良い。
今一番の問題はピカピカ女の動向だ。《神の遊戯》によりこの血城中に偽装を施している。ピカピカ女が今見ている内容は僕がマティア達に善戦している内容となっているはずだ。だからこそ奴は今まで介入してこなかったのだろう。だがそろそろ不自然さに気付くはずだ。介入してくるのも時間の問題だろう。
しかしそれは寧ろ好都合。奴はこの楽しいゲームの大切な主賓だ。精々楽しんでもらう事にする。
僕は蹲っている銀髪の少女に近づく。
金髪の修道服の男の槍で何度も刺されたはずの腹部は完全に癒えていた。思金神の仕業だろう。
それに身体の至る所に幻術の残滓が見られる。僕の《神の遊戯》で幻術系の魔術・スキル・魔道具の類は全て効力を失っている。確かに彼女は中性的で一見して男女の区別はつかない。それに加えて幻術までしていては女性と気づく者などほとんどいないだろう。姿すら偽るとはこの子にも事情があると見える。
僕の気配を察知した銀髪の少女は赤髪の女の生首モドキを強く抱き締めつつ顔面蒼白の顔を僕に向けて来る。
地べたにペタンと腰を付けてガチガチと歯を鳴らせて僕を見上げる様子からも完璧に恐怖の対象として認識されてしまったようだ。まあむしろ好都合だ。
僕はしゃがみ込み彼女に視線を合わせる。
「君の名は? 大丈夫。僕は君の敵じゃない」
まあ味方といえるかは甚だ疑問だがね。破滅の使者といった方が正解かもしれない。
「ブラド……ライガ」
なるほどこの柱がこの血の吐息の王か。悪魔(天族)に魂を売ってやる的な発現をした直後の僕の出現だ。彼女の立場からすればこの怯えも当然の反応か。
時間もない。さっさと用を済ませることにしよう。
「君は彼奴等の破滅を望んだ。僕はそれを叶える。契約内容からすれば君の全ては僕のものだ」
銀髪の少女――ブラドはビクッと身を竦ませる。構わず僕は続ける。
「だけど僕は傀儡などいらない。だからこの場で選択しろ。君に彼奴等を圧倒できる力と現在の困難を打破する力をくれてやる。代わりに僕の目的に付き合ってもらう。
ただし慎重に決めろよ。僕の目的は今回の彼奴等の打倒など御飯事に思えるようなことだ」
事実だ。いつもの僕も偶然にも同じ目的を持っている。だが僕といつもの僕が持つ認識の間にはマリアナ海溝以上の大きな溝が横たわっている。
ブラドは強烈な不安の色をその目の中に光らせながら僕に尋ねてくる。
「その目的……とは?」
ブラドの声は消え入りそうな声を発する。
「僕の目的は――」
……
…………
………………
「貴方は……正気か? そんな事ができるとでも?」
僕の言葉にブラドは雷に打たれたような呆気にとられた不思議な顔をしていた。
「できる。い~や。やるんだ。だけど僕だけでそれを達成できると考える程自惚れちゃいない。僕の目的を成し遂げるためには信頼できる仲間が必要だ。安心して僕の背中を預けられる仲間が」
いつのまにか思金神が胸に右手を当てて片膝をついている。相変わらずこの手の演出が好きな奴だ。だが今は思金神の行為に乗っかるとする。
「これが最後だ。僕との契約を受けるか?」
僕の目的の達成は過酷なのだ。これで迷うような奴なら僕にはいらない。
「契約すれば奴らを圧倒できるのか? 私達吸血種がこんな地獄を見ることがない社会を構築できるのか?」
まったく頓珍漢な事を尋ねてくるものだ。他者から与えられるものなど結局きっかけに過ぎない。最終的に目的を達するのは自分自身の行為だ。
「僕は神ではないよ。だからそれを可能とする力を与えるだけ。後は君次第だ」
ブラドの目の中から恐怖と不安の色が消え、眉の辺りに強烈な決意の色を浮かべる。もう聞かなくても答えはわかる。やはり僕の見立ては正しかった。
「お受けしよう。私は今から貴方のものだ」
自然に口角が上がる。それはそうだ。僕の目的はいわば破滅の行進。それを知りそれでも付き合う大馬鹿者にはそう出会えるものではない。
もう言葉はいらない。
僕は《神王軍化》の《神軍化》を発動し、ブラドの右腕に《妖精の森》のギルドマークを刻み使徒化する。
次いで《使徒進化》を発動する。
仮にも《進化》の名を冠するのだ。《使徒高位進化》は同時に使う事はおそらくはできまい。それに金髪の修道服の男を屠るのにそんな危険を冒す必要はない。
ブラドの身体に光が満ちると同時にブラドは意識を失い糸の切れた人形のように地面に倒れ込む。地面に衝突する前にそのブラドの身体を右腕で受け止める。
ブラドは高位吸血種。1段階の進化により最高位吸血種へと存在を変える。
ブラドが最高位吸血種になれば吸血種の力を常に100%扱えるようになる。即ち、覚醒などしなくてもレベル203になるというわけだ。
さらに僕の《超越進化》で全ステータス2.5倍になる。即ち最高位吸血種のステータス限界――8万にまで上昇する。これは、凡そレベル330のステータスに匹敵する。もっとも、進化したばかりでは本来の力を発揮するには数日は要するだろうが、それでもレベル250に相当する能力値は見込めるはずだ。
マティアは覚醒してレベル242。互角以上の闘いが出来る。とは言え《混沌》第6階梯のスキル・魔術を持つマティアには至高第5階梯を有するに過ぎないブラドでは本来太刀打ちが出来ない。それほどまでに《至高》と《混沌》の力の差は隔絶している。
しかし《神王軍化》により《虚無》第9階梯以下の魔術・スキルをブラドは保有し得るようになった。レベル的にも保有スキル・魔術的にも力は埋まるどころか完璧に逆転する。
これでお膳立ては全て揃った。
ゲームの開始だ!
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