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4章:変化する日常

2:あの日の夢

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 目を開けると、家の玄関の前にいた。家の中に入ってきている光は夕方の光。
 目の前には父さんがいる。スーツ姿で、大きな、書類のたくさん詰まった鞄を持って。出かける直前、という雰囲気の姿。俺が父さんを見上げている。中学時代には父さんと同じくらいの身長にはなっていたから、これは夢なんだな、と思った。

 今の自分の状況を認識すると同時に思う。ああ、またあの夢を見ているのか。何度目か分からないほど見た夢を、また、見てしまっている。

この夢を見る時のほとんどが疲れている時とか体調が悪い時に見る夢。悪夢、と言い表してしまってもいいのかもしれない。そういう時に見る夢でよく聞くのはお化けや妖怪が出てくる怖い夢とか、得体の知れない何かに追いかけられる悪夢とか、そういうのじゃない。 

決まってあの日の追体験。

 夢の中の俺は小学生。だから父さんよりも背が低くて、父さんを見上げている。これは、母さんが死んで少し経った後。父さんが、俺の分の食事を作ってくれて、そして再び仕事場へ向かう、というところ。あの頃は、父さんの仕事も忙しくて、俺のこともしなければいけなくて、父さんもパンク寸前だったと思う。

 父さんは不器用だけれど優しい人だ。今でもそう。忙しい中でも、たびたび連絡をしてくれたり、俺のことを気遣ってくれているし、金銭面でも苦労をさせないようにしてくれている。俺のことを愛してくれるのはちゃんとわかっている。

「ねえ、父さん……!   」

 それでもどうしてもわがままを言ってしまった。父さんと一緒にいたくて。わがままの部分は、俺が心の中で蓋をしているのか、夢の中では再生されなかった。
 俺がわがままを言ってしまった瞬間、父さんの表情が曇る。

「お願いだ。章太郎」

 父さんの顔が、だんだんと泣きそうな顔に変わっていく。

「そんなわがまま、言わないでくれ」

いつもきりっとした顔をしていた父さんが、泣き出す寸前の子供のような顔をしていた。あの時の父さんの顔は未だに忘れられない。

 父さんも、いっぱいいっぱいだったんだと思う。

 実際のあの日の記憶は、どうだったのかきちんと覚えていない。多分、俺が謝って、父さんはそのまま仕事に行ってしまったんだと思う。
 でも、夢の中では、そこで、時が止まってしまったように、父さんの悲しい顔を、眺めていることしかできなかった。まるで、夢の中で金縛りにあっているかのように動けなくなってしまう。
 俺ができることは、夢の中で、ずっと長い時間を、目が覚めるまで待っているだけ。

――そんなわがまま、言わないでくれ。
 ずっと、今でも、父さんの、あの言葉を引きずってしまっている。
 あの日から、あのわがままは、父さんにも、誰にも言えないままだ。

 いつもだったら、夢の中で、長い時間を過ごしている。けれど、今日は違った。

「……!」

声が聞こえてくる。

「章太郎!」
 
 それを、俺の名前を呼ぶ声だと認識した瞬間、意識が浮上す。
目を開けると、今まで見たことがないくらいに焦った表情のガレットがいた。
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