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3章:学校生活

5:校舎内での二人

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 校舎にたどり着く。学校に通い始めてから二ヶ月は経ったというのに、今までとは桁違いで緊張している。下手したら入学式よりも緊張しているかもしれない。

「あ、あの……そろそろ、手、離してもらっても、いいか……?」

 校舎に入る直前、俺は、ガレットと手を繋ぎっぱなしだったことに気づく。心地よさと手の温度になじんでいた事もあって、ついつい手を繋いでいたことを忘れてしまっていた。

「その、あの、もう、大丈夫、だから……」

 正直言うとあまり大丈夫ではない。ただ、手を繋いで校舎の中に入るのは少し気恥ずかしさがあった。
 ガレットは、俺の言葉を聞くと、そんな俺の気持ちを察してか、ふわり、と笑って、ゆっくりと手を離す。

「分かったよ。もしまた不安になったらいつでも言って欲しい」
「……ああ」

 俺とガレットは一度手を離した。手が離れる時に、隣同士だというのに、なんだか少し名残惜しい気がしてしまった。
 
 校舎の中に入り、ガレットと隣同士で歩く。俺達に向けられる視線は強くなるばかりだった。「“あの”古谷章太郎」と見られている目線とは違った視線。別の意味で注目を浴びている。

 声が聞こえてくる。
詳しい会話の内容は聞き取れないけれど、見慣れない美形の転校生と悪評が経っている俺がどうして一緒にいるのか。そして謎の転校生の正体は誰なのか。といったところだろう。同時に、女子生徒達の、密やかに沸き立つ声が聞こえてくる。その視線はガレットの方に向いていた。

今の自分の状況を客観的に脳裏に浮かべると、スマートフォンを眺めていた時に流れてきた漫画の広告CMを思い出してしまった。少女漫画の広告CM。あまり目立たない女子生徒である主人公がひょんなことから学園で凄まじい権力を持つ生徒会長に見初められて注目を浴びるというシーンがピックアップされていた。
 その少女漫画の主人公と俺は立場も性別も全く違うけれど、なんだかその気持ちを追体験しているような感覚になってしまった。そしてまさか自分がそういう状況になるとは思っていなかった。

「やはり見慣れない生徒がいると注目を浴びてしまうものなんだね」
「……そうかも、しれないな」

 ガレットの言葉に、目線を合わせずに答える。つい言葉を濁してしまった。ガレットには俺に悪評が立っている、ということを言ってはいないから。言ったらなんだか幻滅されてしまいそうで。

「それでは、ワタシは一度職員室に向かってから教室に行くよ」
「あ、ああ……」

 ガレットが俺に手を振って、俺も小さく手を振り返した。
魔法を使ったとは言え、ガレットは「転校生」という位置づけだ。多分手続きとか先生と話すこととかあるのだろう。一度ガレットと別れて、俺は一人、クラスへと向かう。

 恐る恐る、俺は教室の扉を開けた。
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