【完結】孤独の青年と寂しい魔法使いに無二の愛を ~贄になるために異世界に転移させられたはずなのに、穏やかな日々を過ごしています~

雨宮ロミ

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第一章 魔法界

第三話 迷信のような魔法

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「俺を、殺して、魔力を、得る……?」

 夜空は目の前のヴァートの言葉を繰り返す。口にしても、その言葉を飲み込むことはできなかった。
いきなり、想像でしか考えたことのなかった場所に来て、不思議な恰好をした全く知らない人物に、いきなり殺される、と宣言されたのだ。

「ど、どういうことですか……? 俺は、魔力なんてないですし……」

 夜空の声は、動揺でひどく震えている。自身がここにいるのは、ヴァートが夜空を呼び出したため。その目的は、夜空を殺して魔力を得るため。
しかし、夜空はただの人間で、魔力もないし、魔法だって使うこともできない。それこそ、創作でよくある「選ばれし者」でも「不思議な力を秘めた人間」でもなんでもない。先ほど唱えたあの「愛の魔法」だって、今まで何度も何度も唱えたことがあったのに、今日以外は何も起こらなかった。「愛の魔法」の呪文のせいでここに来たわけではないはずだ。ただの偶然のはず。
だから、余計に、どうして自分がここにいるのかがわからなかった。

「それはこれから話す」

 ヴァートは、黙っていろ、とばかりに夜空を睨み付けた。強い圧を感じる。冷ややかな、殺気にも似た圧。夜空はびくりと身体を震わせた。

「す、すみません……」

夜空が謝罪し、言葉を止めると、ヴァートの圧が少し薄まった。ヴァートは、じっと夜空に視線を向けて話し始めた。ヴァートの瞳から、感情は読み取れなかった。

「ここ、魔法界は、お前達、人間の住んでいる人間界とは似て非なる場所だ。人間界で空想上の存在である“魔法使い”がこの世界の住人であり、この世界の住人は、皆魔法が使える」
「はい…………」

夜空はこの事実を飲み込むようにして頷いた。まだ、ヴァートの言うことを飲み込むことは出来ていないけれど、目の前の彼は嘘をついている様子ではなかったし、辺りを見る限り、この場所は本当に、作り物の中だけだと思っていた、魔法使いがいる世界なのだ。
そんな、非現実的な場所に夜空は来てしまったのだ。夜空の中に、じわじわと実感が湧いてくる。

「魔法使いは生まれつき持っている魔力を使い、魔法を使う。持っている魔力が多いほど強力な魔法を使うことが出来るのだ。魔力が多ければ多いほど、出来ることも、やれることも増えていく。そして、魔力の量は生まれつき決まっている。一生かかっても使い切れないほど多くの魔力を持つものもいれば、すぐに底が尽きてしまう者もいる」
「……」

 夜空は今までの人生の中で触れたファンタジーの創作物の記憶や知識をかき集めながら、ヴァートの話を聞いていた。

この魔法界にいる人々は、魔法を使うことが出来る魔法使いである。そして、この世界の魔法使いは、持っている魔力量に個人差はあれど、自分が持っている魔力を少しずつ削るような形で魔法を使うようだ。

今まで夜空が触れてきた魔法使いの創作の多くは、魔力さえもっていれば魔法がなんでも使えるようなイメージがあったから、それとは違うのだな、ということを感じていた。

「私は、生まれつき持っている魔力が少なく、いつ魔力が底を尽きるかどうかわからない状態であった。だから、私は、魔法使いながらも、まともな魔法を使うことができなかったのだ。そのおかげで、今まで凄まじい苦しみを味わってきた」

 ヴァートは俯き、そしてぐ、と拳を握る。長めの髪が顔を覆い隠し、表情は見えなかったものの、ヴァートが、魔力が少なくてつらい思いをしてきた、というのは夜空にも伝わってきた。先ほどの冷ややかな雰囲気とは違う、生々しい怒りの感情であった。

「だから、魔力を得たいと強く願い、ある魔法にたどり着いたのだ」

 視線は再び夜空に向けられた。やはり、感情の読み取りにくい、冷えた瞳だった。

「 “魔力を望む者は、人間界から器としての人間を呼び寄せ、25日目に自身の魔力を注ぎ込め。魔力を注いだ人間を満月の日に殺せば、膨大な魔力が手に入る”」

呪文を唱えるような口調で、ヴァートは口にする。夜空は、この魔法を使うために魔法界に呼び出されたのだ。

「そんな、迷信のような魔法がある。この魔法を使った人間は今まで聞いたことも見たこともない。もちろん、成功した、という話もだ」
「……」
「魔力の多い者であれば、もっとたくさんの選択肢があっただろう。実際に、強力な魔法を使ってさらに魔力を得る者もいた。だが、そういった魔法は、魔力の少ない私が使うことができない。私は、この魔法しか使うことが出来なかったのだ。迷信のような魔法だが、私はそれに縋り、賭けるしかなかった……」

 一瞬、ヴァートの表情がひどく苦しげな表情に変わる。望みが叶う魔法を知った、というよりも、もう、こうするしかない、と苦渋の決断をするよう表情だった。
 しかし、その苦しみを悟られまい、とその表情は消え、代わりに、ひどく冷えた視線が夜空に向けられた。

「満月の晩は30日後。その日、私は人間であるお前を殺し、多くの魔力を得るのだ」

 言い終えると、ヴァートは一つ息を吐く。そして、夜空から視線をそらし、どこか遠くを見つめるような視線へと変わる。そこには、先ほど夜空に向けていたような冷たい視線とはまた別の激情があった。夜空には知りうることのできないような過去がそこにあった。

「そして、私は、レーヴェ家の者たちに、復讐をするのだ……」

 レーヴェ家、と言った瞬間に、ヴァートの表情が歪んだのが分かった。その表情は、ヴァートに関してほとんど何も知らない夜空ですら、胸が苦しくなるような表情だった。
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