人類は仮想世界に移住しました。最強のアバターを手にいれたので、無双します

新人賞落選置き場にすることにしました

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最終決戦

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「あんたたち、そこ退かないと、またぶっ飛ばすけど」
 2次選考のときに、アルファとベェタには勝っている。目の前に立たれても、べつに脅威とは感じなかった。


「敵が私たちだけだと思うな。私はあくまでサポートだよ。てめェをぶっ壊すのは、うちの大将だ」


「大将?」


 チン。
 エレベーターが上がってくる音が鳴った。


 誰か来たようだ。扉が左右に開く。紫色の神と目。青い肩当に、白い軍服みたいな服。女王は腰に佩していた細身の剣を抜いた。
 そして姿を消した。
 いや。身をかがめて、疾駆しているのだ。
 アルファとベェタのあいだをすり抜けて、ノウノに迫っていた。
 剣先が突き出される。
 ノウノは首を傾けてかわした。わずかに頬をかすめた。


 目の前――。
 アメジストのような女王の双眸が、ノウノのことを見つめていた。
 ノウノもその目を見つめ返した。


 あのときは、一発KOだった。
 今なら、この目を見返すだけの余裕がある。


「ここでやる気?」
「それが、ロジクさまの意思」
 と、女王は恬淡と答えた。


 声の抑揚が乏しい。
 まるで定数ヘルツでしゃべっているかのようだ。


「どうせ戦うなら、決勝まで待てば良いのに」


「ここなら、負けても配信されることはない。私は、あんたみたいな得体のしれないVDOOLなんかに、負ける気はしないけど」
 と、女王は剣をゆっくりと引っ込めた。


 ノウノのなかに昂ぶるものがあった。ついにこの世界最強と対峙する機会にめぐり合えた。フォロワーがうんぬんとかではなくて、自分の能力が、どこまで通用するのか試してみたいと思った。
 いや。ノウノだけじゃない。ノウノとエダのふたりの能力である。


「こんなオシャレな場所で、暴れても良いわけ?」
 と、ノウノはカウンターテーブルに腰かけているロジクにそう尋ねた。


 カウンター席ではなくて、足を組んでテーブルに腰かけている。
 王たる威厳が剥げ落ちて、どこか荒んだ雰囲気を放っていた。


「安心したまえ。この場所の数値は、外部から影響を受けて変動することはない」
 と、ロジクは持っていたグラスを、床に投げつけた。


 床もグラスも、ノイズを走らせるだけで、それ以上の被害を起こすことはなかった。


「なるほど」


「じきに、うちの増援部隊がやって来る。さすがに君でも、ロジカルン製のVDOOLの大群相手では、どう仕様もあるまい」


「増援だかなんだか知らないけど、さっさと女王をぶっ飛ばせば良いんでしょ」


 目の前に立っている女王。その顔面に拳を叩き込んだ。ノウノの拳が女王の顔面に入る感触があった。
 しかし同時に、ノウノの顔面にも痛みが走った。


 女王の拳も同時に、ノウノの顔に入ったのだった。まるで反発する磁石のように、ノウノと女王は弾き飛ばされた。


 ノウノは貝殻の形をしたテーブルの上に倒れた。ジジジ……。ノイズが走る。まわりにいる魚たちが、ビックリしたように逃げ回っていた。


「痛つつっ」


 このアバターになって、はじめてマトモなダメージをくらった。自分の顔が崩れていないか心配だ。


「私たちのことも忘れたら、あかんでぇ」


 ベェタは青い刀身の大剣を、大上段に振り上げたまま、ノウノの跳びかかってきた。それと同時に、「ぶっ殺すぞ。ボケッ」と赤い槍を構えたアルファが突っ込んで来る。


「うわ、やばっ」
 あわてて跳ね起きようとした。


 が――。
 突如として横から、赤い光線が撃ち放たれた。


 光線はベェタの大剣の刀身と、アルファの槍の柄に直撃した。


 剣と槍が宙を舞って、床に落っこちた。何の光線か……。光線の発射された場所に視線を向けた。クロが立っていた。


「そっちの2人は、俺に任せろ。姫は、女王との戦いに決着をつけると良い。俺は勝ったほうを、嫁にもらう」


「あー、はいはい。そりゃどうも」


 助けてくれたのは恰好良かったのに、最後の一言で台無しである。ノウノはクロと結婚するつもりは毛頭ないし、女王だってそれは同じだろう。だが、信用はできる。


 2次選考のときに、クロと戦っている。クロならば、アルファとベェタの二人を抑え込むことが出来るだろう。


 ノウノは立ち上がる。
 女王もよろめくように立ち上がった。


 今、ロジカルンのほうから手を出して来たのだ。これはあきらかに違法なことである。この状況を記録して、世間にさらせば、ロジカルンの信用は失墜する。ロジカルンをここまで追い込んだエダとノウノの勝ちである。


「あんたは、何のために女王やってるわけ? 望んでトップに立ってるの?」


「そうよ。私の居場所は、誰にも奪わさせやしない」


「プレッシャーを感じたりしないわけ? こんなに多くのフォロワーを抱えてさ」


「私は女王。民を導く使命がある。フォロワーがいるから、私は生きていられる」 


「ふぅん」


 バイナリー・ワールドをひとつの国として考えるならば、指導者というのは、必要なのかもしれない。わからない。政治について、ノウノはあまり知識がない。


 女王がおもむろに1歩を踏み出した。2歩目、3歩目……と、すこしずつ足早になり、そして勢いのある疾駆となった。
 あっという間に距離を詰められる。


 女王が剣を突き出した。ノウノは近くにあったテーブルをひっくり返して、盾として使った。
 剣先を受け止めたテーブルは、激しいノイズを発した。机を蹴り飛ばして、女王はノウノの喉元に剣を突き付けてきた。


「あなたも、ここまで上り詰めて来たのなら、わかるはず。あの感覚。大衆に認められるエクスタシーを」


 ノウノが「ESTEEM」と名付けた、あの悦楽のことだろう。
 たしかにフォロワーが増えるたびに、エクスタシーを感じている時もあった。ノウノの中にあった「ESTEEM」が、女王の中にもあったのだ。そう思うと、まるで朋友を得たような気分だった。


「それが私の戦う意義。負けられない意味」
 と、女王は噛みしめるように言った。


「でも、数が多いと、プレッシャーだわ」


「それは、あなたに王たる資格がないから。資格のない者が、私の居場所を奪うな」


 ノドもと。剣が突き出される。ノウノは後ろに下がって、それをかわした。しかし、女王はその動きを読んでいたのだろう。ノウノの顔面を蹴りつけてきた。顔を腕でかばったが、勢いを殺し切れない。ノウノはロジクの座っている、カウンターテーブルまで吹き飛ばされた。


 ロジクが言う。


「彼女の意識モデルは、運動神経だけじゃない。プレッシャーや緊張にも強い。君とは違う。彼女が、女王、である理由だよ」


「たしかに、私よりメンタルは強そう」


 メンタルが強そうというよりも、鈍感そうに見える。表情はいつも気だるげで、声の抑揚もとぼしい。まるで人工知能みたいだ。ただ、鈍感そうと口にするのは少し失礼な気がしたので、メンタルが強そうという言葉に置き換えたのだった。


「300万オーバーのフォロワーを維持できるほどの能力が、君にはないということだ。しかし、いまさら女王戦を辞退すると言っても遅いがね。君をここで破壊して、そのアバターは、ロジカルンで回収させてもらう。君の意識も垢BANさせてもらう」


「エルシノア嬢を、そうしたようにですか?」


「……」


 エルシノア嬢の名前を聞いたとき、ロジクの眉はぴくりと動いた。が、返答はしなかった。返答する気がないというよりも、言葉に詰まったようにも見えた。


「私も最初はフォロワーが欲しいと思ってたけど、今はべつの目的があるんですよ」


「別の目的?」


「エルシノア嬢を不正にBANした、ロジカルンを失墜させる。この状況をSNSにアップしたら、ロジカルンは炎上しますよ」


「そんなことはさせはしない。SNSはすべて、ロジカルンが監視している。都合の悪いことは、拡散させはしない」


 技術的にロジカルンには、それが出来るのだろう。2次選考のバトルの配信にも、都合の悪い会話にはノイズがかかっていたと聞いている。


 ためしに配信してみようとしたが、エラーが発生して出来なかった。技術的に封じられているのだろう。


 記録をとって、そのデータをエダに渡せば、どうにかしてくれるかもしれない。


「まあ、私が女王を倒せば、いずれにせよロジカルンは終わりでしょう」


 ノウノがそう言うと、ロジクは微笑した。


「見ているかぎり、私の女王は君を圧倒しているようだがね」


「女王がこの世界の王に作られたアバターなら、私は神に創られたアバターです。証明してみせますよ。性能の差ってヤツを」
 と、ノウノは立ち上がった。
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