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王と魔女
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ノウノが学園に来てから1週間。学園を出るのが、ずいぶんと久しぶりなことのような気がした。
学園の外にある森には、パトカーが止まっていた。
ノウノは、そのパトカーに、入れられることになった。
エダとは別の車両である。
ノウノは左右を、顔のない黒ずくめの男に挟まれていた。運転しているのも、黒子である。不気味だった。
パトカーが走り出す。森から抜けて、いつの間にかビル群へと入り込んでいた。パスを遷移したのだろう。
右にも背の高いビル。
左にも背の高いビル。
アスファルトの道路を走って行く先には、セキュリティ会社の本社があった。
セキュリティ会社は、拳の模様をロゴにしており、そのロゴが会社の前面に、おおきく描かれていた。
駐車場に入り、パトカーからノウノは、引っ張り出された。その拳のロゴが描かれた建物のなかに、ノウノは連れ込まれることになった。
エダは無事だろうか――とあたりを見渡したのだが、エダの姿は確認できなかった。エダは身体が弱いのだ。来年まで身体が保つかどうかわからない、とすら言っていた。あまり乱暴な扱いを受けるのは、良くないように思う。しかし今は、エダのことよりも、自分のことを心配するべきかもしれない。
建物の中。RGB255の無機質な通路が続いていた。左右には、いくつもの扉がある。そのうちのひとつに、ノウノは押し込まれた。
個室。
真っ白な部屋に、真っ白な椅子と机が置かれていた。
誰もいなかった。勝手に座っても良いのだろうか? なんだかドッと疲労感が押し寄せてきて、ノウノは椅子に座りこんだ。
椅子というか、スツールである。座るところがやけに小さくて、すこしサディスティックだった。
その椅子の座り心地の悪さが、これから起きる苦難を意味しているような気がした。
心臓がバクバクと音を立てていた。緊張ゆえか、恐怖ゆえかは、わからなかった。何がなんだか、理解が追い付かない。何かしらの疑惑がかけられて、セキュリティ会社に連れて来られたのだということだけ理解できていた。
扉が開く。
個室に入ってきたのは、黒いタキシードに身をつつんだ男だった。
ブロンドの髪をオールバックに撫で付け、緑がかった聡明な瞳をしている。無機物のような白い肌をしていた。タキシードは黒いのに、肌はあまりに白いため、なんだか色彩がバグっているように感じた。
その男は周波数の低い声音で「やあ」と、気さくに声をかけてきた。素晴らしいモデルだ。凡人ではないということが、そのアバターから判断できた。
「ども」
と、ノウノは座ったまま、小さく会釈した。
男は、ノウノの正面に座る。
ディスプレイを投影させて、ノウノの顔とそのディスプレイを見比べていた。
「ノウノ・キャロット。なるほど、なるほど。ノウノ・エイシンクとノウノ・フレデリカの娘か」
「はい」
いちおう両親の顔と、名前はデータで見たことがある。両親のアバターに、人工知能を搭載して、両親の代わりを作るサービスなどもあると聞くが、ノウノはべつに両親にたいしては、べつに強いこだわりはなかった。データとして知っている、というだけだ。
「VDOOLになりたくて、24社に応募してるが不採用。25社目でロー・ミートに拾われた、と」
「はい」
24社から弾かれたことまで、知られているのか。黒歴史を掘り返されたような羞恥心をおぼえた。
「失礼。そういえば名乗り遅れた。私は、独立行政法人ロジカルンの総裁。ロジクだ」
「総裁ってことは、社長ですか?」
「社長とはまた違うが、まあ、似たようなものだと考えてくれて結構」
この男が――。
ロジカルンの総裁。
ロジクと名乗った男の風貌を、あらためて見てみると、たしかに社長らしい貫禄があるようにも感じられた。
「ってことは、女王の属してる企業の代表ってことですよね?」
「そうなるね」
ノウノにとってのエダがいるのと同じだ。
女王にとっては、この男だということだ。
女王のアバターを開発して、バックアップを行っているわけだ。いちおうノウノにとっては、敵、ということになる。
単刀直入に聞こう――と、ロジクは前のめりに切り出した。
「君は、エルシノア嬢か?」
緑がかった瞳が、まるでノウノの心の奥まで見透かすかのように、見つめていた。ちょっとドキドキする。
「違います」
「まあ、本人だったとしても、素直にそうだとは言わないだろうね」
「だから、違いますって」
「君は、どうして、ここに連れて来られたか、わかっているかね?」
「ハッキリとは……」
と、ノウノはかぶりを振った。
そのとき机の上に、黒い染みができているのが見えた。べつに何か意味のある染みではない。たぶん、ただの汚れだ。しかし、部屋があまりに白いため、その汚点がヤケに気になった。
「君が、エルシノア嬢ではないかという疑いがあるためだ」
ドキッとした。
ノウノではない。
エダが、そうなのだ。
ふと、エダの言葉を思い出した。何があっても、エルシノア嬢のことは、知らぬふりをしておけと言っていた。
「エルシノア嬢は、垢BANされているはずです」
「記録のうえではそうなっている。エルシノア嬢の意識モデルは、牢獄データベースに格納されているはずだ」
「だったら、私がエルシノア嬢であるはずないです」
「エルシノア嬢ほどの魔女なら、誰にも知られず、牢獄データベースから脱獄することも容易なことだ」
「魔女?」
そうだ、とロジクはうなずいた。
「そう。エルシノア嬢のことだ。あの女は、データベースに封印しておかなければならない。どんなセキュリティも突破してしまう魔女だ」
エルシノアという名前から、今ではエダと改名しており、ロジクからは魔女と呼ばれている。名前が多いことだ。
それにしても。
女王と魔女、か。
なんだか面白い対比だな、と思った。
女王のバックアップを行っているロジクは、さしずめ王といったところか。
「ロジクさんは、第1世代の人ですか?」
「私? いいや。私はそんなに古い世代の人間ではない。第1世代の人間など、もうほとんど残っていないはずだが、それがどうかしたのかね?」
「いえ」
このバイナリー・ワールドの創造に携わっているのは、第1世代と呼ばれる人だ。エダもその1人である。
エダは魔女などではない。神なのだ。王ごときが勝てる相手ではない。
そう思うと、目の前にいるロジクのアバターも、ガラクタめいて見えた。
エダの創り上げた、ノウノのアバターには、足元にも及ばない。
「私は第1世代ではないが、この世界を愛しているよ。これほど美しい世界はないだろうと思う」
と、ロジクは天をあおいだ。
ノウノも、天井を見上げてみた。べつに何かあるわけではない。ただの白い空間である。
「ええ」
「だから、私はロジカルンの総裁として、この世界に危険を及ぼすものは排除しなくてはならない」
「エルシノア嬢は、危険な人物なんかではないですよ」
「エルシノア嬢がどういう思想の持ち主かは、関係のないことだ。ただひとつ言えるのは、あの魔女には、この世界を破壊する知恵と技術があるということだ。野放しにしておくわけにはいかん。しかし、確定しているのだ。彼女が脱獄していることは」
「脱獄が?」
「これを見たまえ」
ロジクはそう言うと、ノウノの前にディスプレイを表示させて見せた。そこには表形式らしき細かいマス目のデータが記載されていた。
マス目のなかには、小さな文字が記述されている。よく見てみると、そこには人名やら、その人の特徴が記述されているようだった。
「何かのデータですか?」
「これは、牢獄データベースの名簿だよ。今まで垢BANしてきた人物の名前が記録されているのだ」
「私に見せても良いんですか?」
と、尋ねたのだが、その質問は無視された。
「ここを見たまえ」
と、ディスプレイの一部を、ロジクは拡大して見せた。「エルシノア」と名前が記載されていた。
「エルシノアの名前?」
「そうだ。名前だけでない。彼女のデータそのものが、ここに記述されている。ここに記述されているということは、牢獄に入っているはずなのだ。これはただの名簿なんかではない。我らはこの世界で生きている以上、データとして生きている。データがアバターという形を得ているのだ。この名簿はつまり、牢獄そのものなのだ」
「はあ」
「つまり、ここに記述されているということは、魔女は牢獄に入っているはずなのだ」
「だったら、牢獄にいるんじゃないですか?」
「ならば、どうして、あの魔女のアカウントが動き出した! あのアカウントを動かせるのは、ヤツしかいないのだ!」
ロジクの言葉は、だんだんと熱を帯びたものになっていた。
何が言いたいのか、ノウノには良くわからない。わからないのだが、ロジクが焦っているということだけは伝わってきた。
何をそんなに怯えているのだろうか。ロジクは、エルシノア嬢のことが、そんなに怖いのだろうか?
いや。たぶん、エルシノアの凄さを、ロジクは誰よりも良くわかっているのだ。
天才は、天才にしか、理解されないと聞く。
ロジクは、実質、この世界でもっとも技術を持っている男だ。女王のバックアップを務めるとは、そういうことだ。ロジク自身も自覚していることだろう。
しかしある日、自分をはるかに越える謎の人物が現れた。王が空を見上げれば、魔神が見下ろしていたのだ。
そりゃまぁ、怖ろしくもなるだろう。
「でも、私はエルシノア嬢じゃないですから」
「たしかめる方法がある」
「どうすれば良いんですか?」
「君の記憶データを見せてもらう。君がもしも魔女ではないと言うのならば、記憶を見られても問題はないはずだ。むしろ君も、己の潔白を証明できる良い機会だろう」
「記憶を……」
と、ノウノは、はじめて狼狽えた。
べつにノウノ自身は、いくら探られても痛くはない。自分はエルシノア嬢ではないし、悪いことをした覚えもない。ロー・ミートという架空企業で、学園登録したことぐらいだが、それもノウノの責任ではないように思う。
しかし、記憶を見られるとなると話は変わってくる。
ノウノは、エダがエルシノア嬢だということを、知ってしまっているのだ。見られると、バレる。
「記憶を見るなんて、そんなこと出来るんですか」
「もちろん、この世界ではすべてがデータとして蓄積される。本人の許可が必要ではあるが、君の記憶を覗き見ることは可能だ」
「私が拒否すれば?」
「そのときは、セキュリティ会社の権限を使って、強制的に見ることになる。私はロジカルンの総裁であって、セキュリティ会社とは組織が違う。しかし、同じ国家の一機関として、私には君の記憶を調べる権利がある」
「……」
どうしよう。
強引に逃げようかとも、ちょっと考えた。
白い部屋の出口。まるで壁と一体化しているような、白い扉がある。鍵がかかっているかどうかは、わからない。このアバターの性能なら、逃げ切れるような気もする。
しかし、逃げたところで何か解決するわけではない。ここで逃げたら、黒だと自白しているようなものだ。
「ヤマシイことがないのなら、見られても問題はあるまい?」
「わかった」
と、ノウノは観念することにした。
エダは言っていた。
抵抗せずに、されるがままになっていれば良い、と。
エダのその言葉を信じることにした。
学園の外にある森には、パトカーが止まっていた。
ノウノは、そのパトカーに、入れられることになった。
エダとは別の車両である。
ノウノは左右を、顔のない黒ずくめの男に挟まれていた。運転しているのも、黒子である。不気味だった。
パトカーが走り出す。森から抜けて、いつの間にかビル群へと入り込んでいた。パスを遷移したのだろう。
右にも背の高いビル。
左にも背の高いビル。
アスファルトの道路を走って行く先には、セキュリティ会社の本社があった。
セキュリティ会社は、拳の模様をロゴにしており、そのロゴが会社の前面に、おおきく描かれていた。
駐車場に入り、パトカーからノウノは、引っ張り出された。その拳のロゴが描かれた建物のなかに、ノウノは連れ込まれることになった。
エダは無事だろうか――とあたりを見渡したのだが、エダの姿は確認できなかった。エダは身体が弱いのだ。来年まで身体が保つかどうかわからない、とすら言っていた。あまり乱暴な扱いを受けるのは、良くないように思う。しかし今は、エダのことよりも、自分のことを心配するべきかもしれない。
建物の中。RGB255の無機質な通路が続いていた。左右には、いくつもの扉がある。そのうちのひとつに、ノウノは押し込まれた。
個室。
真っ白な部屋に、真っ白な椅子と机が置かれていた。
誰もいなかった。勝手に座っても良いのだろうか? なんだかドッと疲労感が押し寄せてきて、ノウノは椅子に座りこんだ。
椅子というか、スツールである。座るところがやけに小さくて、すこしサディスティックだった。
その椅子の座り心地の悪さが、これから起きる苦難を意味しているような気がした。
心臓がバクバクと音を立てていた。緊張ゆえか、恐怖ゆえかは、わからなかった。何がなんだか、理解が追い付かない。何かしらの疑惑がかけられて、セキュリティ会社に連れて来られたのだということだけ理解できていた。
扉が開く。
個室に入ってきたのは、黒いタキシードに身をつつんだ男だった。
ブロンドの髪をオールバックに撫で付け、緑がかった聡明な瞳をしている。無機物のような白い肌をしていた。タキシードは黒いのに、肌はあまりに白いため、なんだか色彩がバグっているように感じた。
その男は周波数の低い声音で「やあ」と、気さくに声をかけてきた。素晴らしいモデルだ。凡人ではないということが、そのアバターから判断できた。
「ども」
と、ノウノは座ったまま、小さく会釈した。
男は、ノウノの正面に座る。
ディスプレイを投影させて、ノウノの顔とそのディスプレイを見比べていた。
「ノウノ・キャロット。なるほど、なるほど。ノウノ・エイシンクとノウノ・フレデリカの娘か」
「はい」
いちおう両親の顔と、名前はデータで見たことがある。両親のアバターに、人工知能を搭載して、両親の代わりを作るサービスなどもあると聞くが、ノウノはべつに両親にたいしては、べつに強いこだわりはなかった。データとして知っている、というだけだ。
「VDOOLになりたくて、24社に応募してるが不採用。25社目でロー・ミートに拾われた、と」
「はい」
24社から弾かれたことまで、知られているのか。黒歴史を掘り返されたような羞恥心をおぼえた。
「失礼。そういえば名乗り遅れた。私は、独立行政法人ロジカルンの総裁。ロジクだ」
「総裁ってことは、社長ですか?」
「社長とはまた違うが、まあ、似たようなものだと考えてくれて結構」
この男が――。
ロジカルンの総裁。
ロジクと名乗った男の風貌を、あらためて見てみると、たしかに社長らしい貫禄があるようにも感じられた。
「ってことは、女王の属してる企業の代表ってことですよね?」
「そうなるね」
ノウノにとってのエダがいるのと同じだ。
女王にとっては、この男だということだ。
女王のアバターを開発して、バックアップを行っているわけだ。いちおうノウノにとっては、敵、ということになる。
単刀直入に聞こう――と、ロジクは前のめりに切り出した。
「君は、エルシノア嬢か?」
緑がかった瞳が、まるでノウノの心の奥まで見透かすかのように、見つめていた。ちょっとドキドキする。
「違います」
「まあ、本人だったとしても、素直にそうだとは言わないだろうね」
「だから、違いますって」
「君は、どうして、ここに連れて来られたか、わかっているかね?」
「ハッキリとは……」
と、ノウノはかぶりを振った。
そのとき机の上に、黒い染みができているのが見えた。べつに何か意味のある染みではない。たぶん、ただの汚れだ。しかし、部屋があまりに白いため、その汚点がヤケに気になった。
「君が、エルシノア嬢ではないかという疑いがあるためだ」
ドキッとした。
ノウノではない。
エダが、そうなのだ。
ふと、エダの言葉を思い出した。何があっても、エルシノア嬢のことは、知らぬふりをしておけと言っていた。
「エルシノア嬢は、垢BANされているはずです」
「記録のうえではそうなっている。エルシノア嬢の意識モデルは、牢獄データベースに格納されているはずだ」
「だったら、私がエルシノア嬢であるはずないです」
「エルシノア嬢ほどの魔女なら、誰にも知られず、牢獄データベースから脱獄することも容易なことだ」
「魔女?」
そうだ、とロジクはうなずいた。
「そう。エルシノア嬢のことだ。あの女は、データベースに封印しておかなければならない。どんなセキュリティも突破してしまう魔女だ」
エルシノアという名前から、今ではエダと改名しており、ロジクからは魔女と呼ばれている。名前が多いことだ。
それにしても。
女王と魔女、か。
なんだか面白い対比だな、と思った。
女王のバックアップを行っているロジクは、さしずめ王といったところか。
「ロジクさんは、第1世代の人ですか?」
「私? いいや。私はそんなに古い世代の人間ではない。第1世代の人間など、もうほとんど残っていないはずだが、それがどうかしたのかね?」
「いえ」
このバイナリー・ワールドの創造に携わっているのは、第1世代と呼ばれる人だ。エダもその1人である。
エダは魔女などではない。神なのだ。王ごときが勝てる相手ではない。
そう思うと、目の前にいるロジクのアバターも、ガラクタめいて見えた。
エダの創り上げた、ノウノのアバターには、足元にも及ばない。
「私は第1世代ではないが、この世界を愛しているよ。これほど美しい世界はないだろうと思う」
と、ロジクは天をあおいだ。
ノウノも、天井を見上げてみた。べつに何かあるわけではない。ただの白い空間である。
「ええ」
「だから、私はロジカルンの総裁として、この世界に危険を及ぼすものは排除しなくてはならない」
「エルシノア嬢は、危険な人物なんかではないですよ」
「エルシノア嬢がどういう思想の持ち主かは、関係のないことだ。ただひとつ言えるのは、あの魔女には、この世界を破壊する知恵と技術があるということだ。野放しにしておくわけにはいかん。しかし、確定しているのだ。彼女が脱獄していることは」
「脱獄が?」
「これを見たまえ」
ロジクはそう言うと、ノウノの前にディスプレイを表示させて見せた。そこには表形式らしき細かいマス目のデータが記載されていた。
マス目のなかには、小さな文字が記述されている。よく見てみると、そこには人名やら、その人の特徴が記述されているようだった。
「何かのデータですか?」
「これは、牢獄データベースの名簿だよ。今まで垢BANしてきた人物の名前が記録されているのだ」
「私に見せても良いんですか?」
と、尋ねたのだが、その質問は無視された。
「ここを見たまえ」
と、ディスプレイの一部を、ロジクは拡大して見せた。「エルシノア」と名前が記載されていた。
「エルシノアの名前?」
「そうだ。名前だけでない。彼女のデータそのものが、ここに記述されている。ここに記述されているということは、牢獄に入っているはずなのだ。これはただの名簿なんかではない。我らはこの世界で生きている以上、データとして生きている。データがアバターという形を得ているのだ。この名簿はつまり、牢獄そのものなのだ」
「はあ」
「つまり、ここに記述されているということは、魔女は牢獄に入っているはずなのだ」
「だったら、牢獄にいるんじゃないですか?」
「ならば、どうして、あの魔女のアカウントが動き出した! あのアカウントを動かせるのは、ヤツしかいないのだ!」
ロジクの言葉は、だんだんと熱を帯びたものになっていた。
何が言いたいのか、ノウノには良くわからない。わからないのだが、ロジクが焦っているということだけは伝わってきた。
何をそんなに怯えているのだろうか。ロジクは、エルシノア嬢のことが、そんなに怖いのだろうか?
いや。たぶん、エルシノアの凄さを、ロジクは誰よりも良くわかっているのだ。
天才は、天才にしか、理解されないと聞く。
ロジクは、実質、この世界でもっとも技術を持っている男だ。女王のバックアップを務めるとは、そういうことだ。ロジク自身も自覚していることだろう。
しかしある日、自分をはるかに越える謎の人物が現れた。王が空を見上げれば、魔神が見下ろしていたのだ。
そりゃまぁ、怖ろしくもなるだろう。
「でも、私はエルシノア嬢じゃないですから」
「たしかめる方法がある」
「どうすれば良いんですか?」
「君の記憶データを見せてもらう。君がもしも魔女ではないと言うのならば、記憶を見られても問題はないはずだ。むしろ君も、己の潔白を証明できる良い機会だろう」
「記憶を……」
と、ノウノは、はじめて狼狽えた。
べつにノウノ自身は、いくら探られても痛くはない。自分はエルシノア嬢ではないし、悪いことをした覚えもない。ロー・ミートという架空企業で、学園登録したことぐらいだが、それもノウノの責任ではないように思う。
しかし、記憶を見られるとなると話は変わってくる。
ノウノは、エダがエルシノア嬢だということを、知ってしまっているのだ。見られると、バレる。
「記憶を見るなんて、そんなこと出来るんですか」
「もちろん、この世界ではすべてがデータとして蓄積される。本人の許可が必要ではあるが、君の記憶を覗き見ることは可能だ」
「私が拒否すれば?」
「そのときは、セキュリティ会社の権限を使って、強制的に見ることになる。私はロジカルンの総裁であって、セキュリティ会社とは組織が違う。しかし、同じ国家の一機関として、私には君の記憶を調べる権利がある」
「……」
どうしよう。
強引に逃げようかとも、ちょっと考えた。
白い部屋の出口。まるで壁と一体化しているような、白い扉がある。鍵がかかっているかどうかは、わからない。このアバターの性能なら、逃げ切れるような気もする。
しかし、逃げたところで何か解決するわけではない。ここで逃げたら、黒だと自白しているようなものだ。
「ヤマシイことがないのなら、見られても問題はあるまい?」
「わかった」
と、ノウノは観念することにした。
エダは言っていた。
抵抗せずに、されるがままになっていれば良い、と。
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