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ライバル(1)女王様の帰還
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僕は腕時計を見て、思わず呟いた。
「そろそろ撮影、始まったかなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「久々だよねえ。特別ドラマだよねえ?」
直がにこにことして言う。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「年末の2時間ものの特別ドラマだって」
「放送日がもう楽しみだな」
兄もそう言って笑う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
美里にドラマの話が来て、凜は冴子姉が預かってくれる事になったので、美里は出演を決めた。その撮影が今日からなのだ。
「医者の役だよねえ?」
「監察医だけどな」
「優維が病院を怖がるんだけど、『美里ちゃんみたいな人がいる所』って誤魔化せるようにならないかねえ」
「どうだろう」
「できれば、歯医者の役もしてもらいたいねえ」
「歯医者か。あれは僕も嫌だったな」
「そうだな。怜は生まれて初めて歯医者に行った時、物凄く怯えて泣いたな。毎回どうやって連れて行こうかと悩んだものだ」
「うっ。白衣とマスクでほとんど顔の隠れた歯科医と歯科助手が3人がかりで覗き込んできて、宇宙人に手術される人みたいな気がして怖かったんだ」
これがたぶん、僕の一番古い記憶だ。
直も頷いて、
「歯医者は待っている時から、あの音も聞こえて来て、怖いよねえ。今でも、怖くは無いけど、緊張はするねえ。確実に血圧が上がってるのが自覚できるよねえ」
と言う。
兄は少し笑い、同意した。
「否定はしない。歯医者が好きな人っているのかな。まあせいぜい、ケアを心がけよう」
僕達が頷き合った時、駅に近付いて電車がスピードを緩めた。
美里は久しぶりの撮影所に足を踏み入れた。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
そんな声がかかる。
そして、監督と脚本家とプロデューサーが満面の笑みを浮かべて寄って来た。
「待ってたよ!復帰する日を!」
「子供を産んでも、流石ですね」
「いやあ、引き受けてくれてうれしいです!」
「おはようございます。よろしくお願いします」
美里はあっさりとそう言って、他の出演者がいる椅子の方へ行った。
と、美人には違いないが美里とは違う、派手な感じの大柄な女優が唇の端を吊り上げた。
「ああら、久しぶり。引退したのかと思ったわ」
美里と年が同じくらいで、芸歴も変わらない為、何かと比較される女優で、桂川瑞樹という。
「プライベートが充実してて、仕事を選んでたのよ」
「選びすぎて無くさない事を祈るわ」
「ご親切に、ありがとう」
2人はにっこりと笑顔を交わし、フッと真顔になって自分の椅子に腰を下ろした。
ピリピリとするような空気が、それで消える。
それから、後輩の役者達が順番に挨拶に行く。
心地よい緊張。自然と背筋が伸び、美里は「御崎美里」から「霜月美里」へと自然に代わった。
その復帰第一弾の主演ドラマは今から随分と話題になっているが、まさか別の意味でも話題になるとは、誰も想像していなかったのだった。
「そろそろ撮影、始まったかなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「久々だよねえ。特別ドラマだよねえ?」
直がにこにことして言う。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「年末の2時間ものの特別ドラマだって」
「放送日がもう楽しみだな」
兄もそう言って笑う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
美里にドラマの話が来て、凜は冴子姉が預かってくれる事になったので、美里は出演を決めた。その撮影が今日からなのだ。
「医者の役だよねえ?」
「監察医だけどな」
「優維が病院を怖がるんだけど、『美里ちゃんみたいな人がいる所』って誤魔化せるようにならないかねえ」
「どうだろう」
「できれば、歯医者の役もしてもらいたいねえ」
「歯医者か。あれは僕も嫌だったな」
「そうだな。怜は生まれて初めて歯医者に行った時、物凄く怯えて泣いたな。毎回どうやって連れて行こうかと悩んだものだ」
「うっ。白衣とマスクでほとんど顔の隠れた歯科医と歯科助手が3人がかりで覗き込んできて、宇宙人に手術される人みたいな気がして怖かったんだ」
これがたぶん、僕の一番古い記憶だ。
直も頷いて、
「歯医者は待っている時から、あの音も聞こえて来て、怖いよねえ。今でも、怖くは無いけど、緊張はするねえ。確実に血圧が上がってるのが自覚できるよねえ」
と言う。
兄は少し笑い、同意した。
「否定はしない。歯医者が好きな人っているのかな。まあせいぜい、ケアを心がけよう」
僕達が頷き合った時、駅に近付いて電車がスピードを緩めた。
美里は久しぶりの撮影所に足を踏み入れた。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「おはようございます」
「よろしくお願いします」
そんな声がかかる。
そして、監督と脚本家とプロデューサーが満面の笑みを浮かべて寄って来た。
「待ってたよ!復帰する日を!」
「子供を産んでも、流石ですね」
「いやあ、引き受けてくれてうれしいです!」
「おはようございます。よろしくお願いします」
美里はあっさりとそう言って、他の出演者がいる椅子の方へ行った。
と、美人には違いないが美里とは違う、派手な感じの大柄な女優が唇の端を吊り上げた。
「ああら、久しぶり。引退したのかと思ったわ」
美里と年が同じくらいで、芸歴も変わらない為、何かと比較される女優で、桂川瑞樹という。
「プライベートが充実してて、仕事を選んでたのよ」
「選びすぎて無くさない事を祈るわ」
「ご親切に、ありがとう」
2人はにっこりと笑顔を交わし、フッと真顔になって自分の椅子に腰を下ろした。
ピリピリとするような空気が、それで消える。
それから、後輩の役者達が順番に挨拶に行く。
心地よい緊張。自然と背筋が伸び、美里は「御崎美里」から「霜月美里」へと自然に代わった。
その復帰第一弾の主演ドラマは今から随分と話題になっているが、まさか別の意味でも話題になるとは、誰も想像していなかったのだった。
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