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ライバル(2)難航する撮影
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クールなやり手の女性監察医と同じくクールでやり手の女性検事が、事なかれ主義の刑事を巻き込んで事件に熱く挑んで行くというドラマで、美里は女医、瑞樹は検事を演じる。
ここに後半登場する端役のキャスティングがまだで、新人の女優2人で、争っていたらしい。どうして未だに決まっていなかったのかと訊くと、決まっていた女優が、交通事故を起こして入院中だからだ。
「岡本真奈佳と福島みなみねえ。知らないわ」
美里は言った。
「岡本真奈佳は元プロ野球選手の娘で、福島みなみは元読者モデルです。2人共、実力も人気も、どちらも似たり寄ったり。このドラマに出た方が、上に立つという感じでしょうかね。まあ、一応は岡本真奈佳に決定したようですが」
美里はマネージャーの五月さんにそう聞いて、ふうんと気の無さそうな返事をした。
と、控室から撮影所に向かう途中、睨み合う2人を発見した。
「あれがその2人ですね。白い服の方が岡本さんです」
「そう」
一応足を止めて、見る。
「どんな汚い手を使ったのよ!」
みなみがそう言って、真奈佳の肩を小突いた。
「自分と一緒にしないでよ、失礼ね。私は自力でこのドラマの出演を勝ち取ったの。悔し泣きしながら、年末はドラマを見ているといいわ」
真奈佳も同じく小突き返す。
「よく言うわ。この前のバラエティー、あんたの事務所、千堂優司を出演させる見返りにバーターでってあんたをねじこんだじゃない。その前のドラマは、枕営業したって専らの噂だけどね」
言いながら、小突く。
「失礼な事言うんじゃないわよ!」
こちらも小突く。
「どっちがよ!さんざんありもしない私の悪評を広めて!」
「証拠を見せなさいよ、このドブス!」
「言ったわね、アバズレ!」
言いながらお互いに小突くのを見て、美里は冷静に、
「肩にあざができるんじゃないかしら」
と言う。
そのうちお互いのマネージャーが飛んで来て、2人を引き離し、どこかへ連れて行った。
「怜じゃないけど、面倒臭い事にならないといいわね」
チョイ役とは言え、美里とも瑞樹とも共演するシーンがあるので、真奈佳はマネージャーに連れられて挨拶に訪れた。
先程のけんかを見られていないと思っているらしく、澄ました顔で、大人しく清楚な新人女優ですという顔をしている。
それには触れずに、あいさつを受ける。
真奈佳は瑞樹にも挨拶をし、撮影の方へと歩いて行った。
それを見送って、瑞樹が美里の所に来た。
「随分と大人しい子。クラブで見かけた時とは大違いだわ」
「あら。あなた、クラブに行くの」
「たまに、気晴らしにね。あんたも行く?」
「遠慮しておくわ」
「毎日何してるの?家に引っ込んでばかりじゃ、あんたのキャリアが泣くわよ」
「まあ、忠告と受け取っておくわ」
美里は軽く肩を竦め、瑞樹は次のシーンの為にカメラの方へ行った。
真奈佳の演技は素人程度で、美里はあれと絡むのかと思うと、溜め息が出た。瑞樹はあからさまにウンザリした顔をしている。真奈佳は、セリフは棒読み、表情は取ってつけたようで、とにかくカメラを向けられると目をぱっちりと見開いて口を半開きにし、注意されている。
しかし、仕方が無い。
諦めたが、見かねた監督達が相談し、真奈佳のセリフを短いものにカットしたりして、誤魔化す事にしたらしい。
美里は、後で自分も一緒のシーン撮りがある事を思い、頭が痛くなった。
真奈佳は叱られながらも笑顔で、監督が昼休みを宣言した後、頭を掻きむしって足音も高く楽屋へ戻って行った。
昼から、真奈佳は変わった。やたらとケタケタと上機嫌で笑い、かと思えば、自殺でもするんじゃないかというくらいに落ち込む。
その変わりようは、見ていて気持ちが悪くなるほどだ。
美里は呂律が回らなくて16回目のNGを出した真奈佳に、溜め息をついた。
「監督。これ以上しても無駄だわ。明日仕切り直した方がいいんじゃないかしら」
真奈佳のマネージャーが顔色を変え、土下座せんばかりに謝る。だが本人は、フラフラと体を揺らし、俯いている。
「そうね。私もその意見に賛成だわ。この子以外の部分ならいいけど」
「ほんっとうに申し訳ありません!!」
マネージャーが、額を膝にぶつけんばかりに上体を折って謝る。
監督は頭を掻き、嘆息して、
「明日にするか。明日は今日の分も取り返す気でしっかり頼みますよ」
と、半分ヤケクソみたいな顔で言った。
しかしその明日、思わぬ出来事で、撮影は止まるのだった。
『芸能界にまたも広がる薬物汚染!』
その見出しが、翌朝の新聞のトップを飾った。
ここに後半登場する端役のキャスティングがまだで、新人の女優2人で、争っていたらしい。どうして未だに決まっていなかったのかと訊くと、決まっていた女優が、交通事故を起こして入院中だからだ。
「岡本真奈佳と福島みなみねえ。知らないわ」
美里は言った。
「岡本真奈佳は元プロ野球選手の娘で、福島みなみは元読者モデルです。2人共、実力も人気も、どちらも似たり寄ったり。このドラマに出た方が、上に立つという感じでしょうかね。まあ、一応は岡本真奈佳に決定したようですが」
美里はマネージャーの五月さんにそう聞いて、ふうんと気の無さそうな返事をした。
と、控室から撮影所に向かう途中、睨み合う2人を発見した。
「あれがその2人ですね。白い服の方が岡本さんです」
「そう」
一応足を止めて、見る。
「どんな汚い手を使ったのよ!」
みなみがそう言って、真奈佳の肩を小突いた。
「自分と一緒にしないでよ、失礼ね。私は自力でこのドラマの出演を勝ち取ったの。悔し泣きしながら、年末はドラマを見ているといいわ」
真奈佳も同じく小突き返す。
「よく言うわ。この前のバラエティー、あんたの事務所、千堂優司を出演させる見返りにバーターでってあんたをねじこんだじゃない。その前のドラマは、枕営業したって専らの噂だけどね」
言いながら、小突く。
「失礼な事言うんじゃないわよ!」
こちらも小突く。
「どっちがよ!さんざんありもしない私の悪評を広めて!」
「証拠を見せなさいよ、このドブス!」
「言ったわね、アバズレ!」
言いながらお互いに小突くのを見て、美里は冷静に、
「肩にあざができるんじゃないかしら」
と言う。
そのうちお互いのマネージャーが飛んで来て、2人を引き離し、どこかへ連れて行った。
「怜じゃないけど、面倒臭い事にならないといいわね」
チョイ役とは言え、美里とも瑞樹とも共演するシーンがあるので、真奈佳はマネージャーに連れられて挨拶に訪れた。
先程のけんかを見られていないと思っているらしく、澄ました顔で、大人しく清楚な新人女優ですという顔をしている。
それには触れずに、あいさつを受ける。
真奈佳は瑞樹にも挨拶をし、撮影の方へと歩いて行った。
それを見送って、瑞樹が美里の所に来た。
「随分と大人しい子。クラブで見かけた時とは大違いだわ」
「あら。あなた、クラブに行くの」
「たまに、気晴らしにね。あんたも行く?」
「遠慮しておくわ」
「毎日何してるの?家に引っ込んでばかりじゃ、あんたのキャリアが泣くわよ」
「まあ、忠告と受け取っておくわ」
美里は軽く肩を竦め、瑞樹は次のシーンの為にカメラの方へ行った。
真奈佳の演技は素人程度で、美里はあれと絡むのかと思うと、溜め息が出た。瑞樹はあからさまにウンザリした顔をしている。真奈佳は、セリフは棒読み、表情は取ってつけたようで、とにかくカメラを向けられると目をぱっちりと見開いて口を半開きにし、注意されている。
しかし、仕方が無い。
諦めたが、見かねた監督達が相談し、真奈佳のセリフを短いものにカットしたりして、誤魔化す事にしたらしい。
美里は、後で自分も一緒のシーン撮りがある事を思い、頭が痛くなった。
真奈佳は叱られながらも笑顔で、監督が昼休みを宣言した後、頭を掻きむしって足音も高く楽屋へ戻って行った。
昼から、真奈佳は変わった。やたらとケタケタと上機嫌で笑い、かと思えば、自殺でもするんじゃないかというくらいに落ち込む。
その変わりようは、見ていて気持ちが悪くなるほどだ。
美里は呂律が回らなくて16回目のNGを出した真奈佳に、溜め息をついた。
「監督。これ以上しても無駄だわ。明日仕切り直した方がいいんじゃないかしら」
真奈佳のマネージャーが顔色を変え、土下座せんばかりに謝る。だが本人は、フラフラと体を揺らし、俯いている。
「そうね。私もその意見に賛成だわ。この子以外の部分ならいいけど」
「ほんっとうに申し訳ありません!!」
マネージャーが、額を膝にぶつけんばかりに上体を折って謝る。
監督は頭を掻き、嘆息して、
「明日にするか。明日は今日の分も取り返す気でしっかり頼みますよ」
と、半分ヤケクソみたいな顔で言った。
しかしその明日、思わぬ出来事で、撮影は止まるのだった。
『芸能界にまたも広がる薬物汚染!』
その見出しが、翌朝の新聞のトップを飾った。
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