体質が変わったので

JUN

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呪う(1)視線

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 朝、早めに出勤して掃除をし、出社した男性社員にコーヒーを配るのは、女子社員の仕事だ。完全に就業時間外の奉仕だし、この時代にそぐわないものだが、慣習だからと言われれば、文句もつけにくい。それで仕方なく、女子社員はそれを踏襲していた。
 コーヒーを出して、やっと机に座り、自分の仕事を始める。
 やれやれ。
 電卓を叩き始めたその時だった。
「うっ……痛て、て……ああぁぁぁ」
 社員の1人が、腹部を抑えて体をふたつに折った。
「え、ちょっと、大丈夫ですか?」
 全員、彼に注意を向ける。
「胃……胃が、痛……!」
 椅子からずり落ち、床の上に体を二つ折りにして転がるその様子に、すぐに救急車を呼んだ。
 彼が搬送され、営業の社員が事務所を出て行くと、残った事務の社員はヒソヒソと始める。
「先週は交通事故、一昨日は階段を踏み外して転落、昨日は食中毒。この頃おかしくない?」
「肩コリと頭痛が酷いわ、私も」
「腱鞘炎って言われた」
「何か、呪われてたりして……」
「……気のせいかもしれないけど、時々、何か、睨みつけるような視線を感じない?」
「やだぁ、怖い冗談やめてよぉ」
「マジで、おかしくない?」
 シーンと静まり返った事務所内は、やけに薄暗く感じられた。

 資料を読み終え、考える。
「不調は連続しているとは言え、理由はバラバラなんだな。水や化学薬品の可能性は低いか」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「中には気のせいとかもありそうだけど、これは、かもねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「呪詛か」
「ライバル会社かねえ」
 重い気分になりながらも、僕と直で事務所に調査に出向く事にした。




 

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