体質が変わったので

JUN

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呪う(2)監視するもの

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 会社は中堅所の墓石の販売会社で、事務所は都心からやや離れた所にあった。
 2階建ての小さい建物で、1階がガレージと倉庫、2階が事務所になっている。2階へ上る階段の下にはガラス戸があり、夜間はここに施錠するらしい。
 階段を上がり、事務所に入ると、途端に、刺すような視線と重い空気、まとわりつくような冷気を感じた。
「警視庁陰陽課の御崎です」
「同じく町田です」
 バッジを提示して事務員に声をかけると、事務作業をしていた女子社員4人は、手を止めて顔を見合わせた。
「お話は伺っております。こちらへ」
 初老の男性が席を立ち、応接セットを指し示す。
「営業課長の石崎と申します」
 名刺を差し出し、向かい合わせにソファに座ると、まずは、石崎さんから事の次第を説明してもらう。資料にあった通り、営業職の人間、事務の主任が事故や急病や体の不調に見舞われ、今は事務の女子社員しか出社できていないという。
 昨日よりも一気に進んでいるのは、昨夜男性社員が景気づけに飲みに行ったところ、居酒屋が火事になってそれに巻き込まれ、全員入院中らしい。
「この一連の出来事が起こる前に何か変わった事はありませんでしたか」
 石崎さんは考え込んだがギブアップしたらしい。
「おおい。誰か、何か気付いたか?」
と、聞き耳を立てていた女子社員達に問いかけた。
「何でもいいんですよう。関係のあるなしはこちらが判断しますからねえ」
 直が柔らかく言うと、中の1人が言った。
「事務所で新聞を取るのをやめた?」
「おお、なるほどねえ。他には?」
 契約を切られた恨みか?
「鉢植えを買って来たわね」
 窓際に、かわいい小さな花を付けた鉢があった。
 何も怪しい気配はないな。むしろ、気になるのは、向こうの絵だが……。
「部長が来て、お茶が温いとか言われて、ついでにセクハラ発言もあったわ」
 石崎さんが、咳払いをした。
「そのくらいよね」
「そうねえ」
 皆は顔を見合わせて頷き合う。
「あの絵は前からあったものですか?」
 僕は壁に飾られた小さな絵を指し、皆は一斉にそれを見た。油絵の風景画で、大学ノート2冊分くらいの大きさだ。
「ああ、あれ。随分前に社長が持って来られたものです。お孫さんが描かれたものだそうで、殺風景だからと」
 僕と直はそれに近寄り、視た。
 やっぱり、怪しい。
 壁から外し、ひっくり返して額の裏ブタを外す。
「ああ……」
 写真が入っていた。社員旅行の集合写真らしく、紅葉とお寺をバックに、20人程が並んでいる。
 ただ普通の集合写真と違う所は、そこに写った大方の人物の顔の部分が、焼け焦げているところだろう。
「何か――うわっ」
 石崎さんが覗いたが、声を上げてのけ反った。
「この写真はいつのものですか」
「去、去年の秋に、皆で日帰り旅行に行った時のものです」
「焼け焦げているのは、色々と不調の出た方ですかねえ?」
 言われて、もう1度、写真を覗き込む。
「この人は事故、この人はここの階段から落ちて骨折、この人は胃潰瘍――」
 指で指していくが、見事に、その通りだ。
「では、焦げ跡の無い方は」
「この人はこのすぐ後に定年退職したし、この人は退職して別の仕事をしているし、彼女は先月個人的な理由で退職しました」
 女子社員達が、顔色を変えた。
「その人達の中に犯人がいるんですか?」
「じゃあ、絶対に久世さんよ」
「高学歴を鼻にかけて、私達とは挨拶すらしなかったのに、ミスは何でもそっちが悪いとか言って結局ノイローゼだもの。おかしいのよ、久世さん」
 女子社員達はそう言って頷き合うが、石崎さんは困ったように視線を泳がせていた。
「まだわかりません。可能性の話で、別の人物がした可能性もあります。
 とりあえず、これは潰しておきますので」
 言って、その写真を回収する。

 車に乗って、焼け焦げのない3人の名前と住所を書き写した紙を広げる。
「定年退職の人は違いそうだな」
「退職したこの人も、違いそうだねえ」
 チャラい感じの人で、恨むより、不満や不都合があれば逃げ出すタイプに見える。
「ノイローゼねえ」
「こっちから調べるか」
 僕と直は、そちらに回る事にした。






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