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踏切(1)人身事故
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ラッシュアワーの電車は、乗っているだけで疲れる。
それももう少しで駅――というところで、電車はブレーキをかけて止まった。
『ただいま踏切内に人が立ち入ったと連絡がありましたので、運転を見合わせております。警察、駅係員が――』
とのアナウンスが入り、うんざりした空気が流れた。
「要するに、飛び込み?」
「クソ忙しい時に勘弁してくれよなあ」
「事故かもよ?開かずの踏切とかの」
「どっちも迷惑だよね」
そんな会話がそこここでなされる。
僕と兄と直も、その電車に閉じ込められていた。
「初めは驚いたが、慣れたな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「多いよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「高架が多くなったとは言え、まだまだ、開かずの踏切も多いからな。回り道が面倒という人もいれば、自転車やベビーカーや車いすはその踏切を通らなければ向こうに行けない、という所もある。くぐるのは危険だとわかっていても、やる人は後を絶たないな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
1時間に40分以上開かない踏切を開かずの踏切と呼ぶが、全国に500以上あるらしい。
高架にするには建設費も建設用地も必要だし、難しいようだ。新しい信号の開発なども進められていて、努力は続けられているが、それでも、遮断機をくぐる人がいる限り、危険も急停止も無くならないだろう。
「それより、敬が泊りがけで月見をしたいって。うちでやる、兄ちゃん」
「月見か」
「直もどう?敬、どうもテントで寝たいらしいんだよ。リビングでテント張って、テラスでバーベキューしよう」
「楽しそうだねえ」
「よし、やるか」
「皆で月見団子作ろうか。あれなら子供でもできるしな」
しばらく待ちながら計画を立てているうちに、電車は動き出した。そして駅に着くと、乗客はいつもより足早に動き出す。
僕達も急いで、改札を出た。
警視庁も警察庁も、電車通勤の者は多い。なので、急ぎ足で向かう人が目に付いた。
「じゃあ」
僕と直は兄と別れて、陰陽課に入る。
書類仕事をし、依頼を班ごとに振り分け、報告を聴く。
そのうち、僕と直に仕事が回って来た。
「踏切か」
「朝、話題にしたばかりだねえ」
「ああ。また人身事故があったんだってね」
徳川さんが言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「あ、そうだ。今度中秋の名月の時、お月見しようかと思って。子供達はテントで寝たいようだから、大人は神様と飲み会とか。山の神が松茸とか持って来てくれたんですよ。照姉も色々」
「あ、行く行く!
そうだ。知り合いがサンマを送ってくれる事になってるんだ。それ、持って行くよ」
「いいですねえ。塩焼きであっさりか、肝焼きでこってりか。迷うねえ」
「そうと決まれば、さっさと仕事は終わらせよう」
僕と直は、部屋を出た。
それももう少しで駅――というところで、電車はブレーキをかけて止まった。
『ただいま踏切内に人が立ち入ったと連絡がありましたので、運転を見合わせております。警察、駅係員が――』
とのアナウンスが入り、うんざりした空気が流れた。
「要するに、飛び込み?」
「クソ忙しい時に勘弁してくれよなあ」
「事故かもよ?開かずの踏切とかの」
「どっちも迷惑だよね」
そんな会話がそこここでなされる。
僕と兄と直も、その電車に閉じ込められていた。
「初めは驚いたが、慣れたな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「多いよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「高架が多くなったとは言え、まだまだ、開かずの踏切も多いからな。回り道が面倒という人もいれば、自転車やベビーカーや車いすはその踏切を通らなければ向こうに行けない、という所もある。くぐるのは危険だとわかっていても、やる人は後を絶たないな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
1時間に40分以上開かない踏切を開かずの踏切と呼ぶが、全国に500以上あるらしい。
高架にするには建設費も建設用地も必要だし、難しいようだ。新しい信号の開発なども進められていて、努力は続けられているが、それでも、遮断機をくぐる人がいる限り、危険も急停止も無くならないだろう。
「それより、敬が泊りがけで月見をしたいって。うちでやる、兄ちゃん」
「月見か」
「直もどう?敬、どうもテントで寝たいらしいんだよ。リビングでテント張って、テラスでバーベキューしよう」
「楽しそうだねえ」
「よし、やるか」
「皆で月見団子作ろうか。あれなら子供でもできるしな」
しばらく待ちながら計画を立てているうちに、電車は動き出した。そして駅に着くと、乗客はいつもより足早に動き出す。
僕達も急いで、改札を出た。
警視庁も警察庁も、電車通勤の者は多い。なので、急ぎ足で向かう人が目に付いた。
「じゃあ」
僕と直は兄と別れて、陰陽課に入る。
書類仕事をし、依頼を班ごとに振り分け、報告を聴く。
そのうち、僕と直に仕事が回って来た。
「踏切か」
「朝、話題にしたばかりだねえ」
「ああ。また人身事故があったんだってね」
徳川さんが言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「あ、そうだ。今度中秋の名月の時、お月見しようかと思って。子供達はテントで寝たいようだから、大人は神様と飲み会とか。山の神が松茸とか持って来てくれたんですよ。照姉も色々」
「あ、行く行く!
そうだ。知り合いがサンマを送ってくれる事になってるんだ。それ、持って行くよ」
「いいですねえ。塩焼きであっさりか、肝焼きでこってりか。迷うねえ」
「そうと決まれば、さっさと仕事は終わらせよう」
僕と直は、部屋を出た。
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