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たまてばこ(1)魅入られる
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神社に着くと、やはりまだ誰も来ていなかった。夏祭りの準備のために神社に青年団は集合と言われているのだが、一番年下の倉科が先に来て鍵と窓を開けておくのが、まあ、不文律というものだ。
この集落でただ一つの神社だが、普段は常駐する神主もおらず、夏祭りや何かの折にのみ、近くからやってくるのだ。
本殿にかけていた南京錠を外し、窓を開ける。
わずかに入る風がほんの気持ち程度暑さを和らげるが、扇風機を用意しておいた方がいいだろう。そう思って、奥から扇風機を引っ張り出して、本殿の中に置き、コンセントを差し込む。
「ああ。暑いなあ。今年も記録更新かあ?」
毎年暑くなっていく。
扇風機の風に当たりながらふと祭壇を見た。
一番上には御神体の鏡があるが、その下に桐の箱がある。今まで鏡の入れ物と思っていたが、よく考えると、鏡はいつも出ているのだから、箱はいらないだろう。
「何だろう」
妙に惹かれて、その箱に近付いてみた。
大学ノートくらいの大きさで、厚さは17センチ程だろうか。手に取ってみると、中に何か入っているのか、カタンと音がした。
桐の箱を開けて見る。中には、黒くて艶のある箱が入っていた。
ゴクリと喉がなった。目が吸い寄せられたようになって、離れない。どうしても、欲しい。ここから持ち出して家に持って帰らなくてはいけない。なぜか強くそう思った。
震える手で、その黒い箱を取り出す。
蝉の声が、まるで咎めるように大きくなった。
冷たい麦茶を飲んで、一息つく。
「はあ。まだ7月半ばだって言うのに、暑い」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「夏はまだまだこれからだねえ。はあ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
出勤してまずは冷たいお茶を飲んだところだが、既に一仕事終えたような気分だ。
「あ、おはようございます。お茶飲みます?」
徳川さんが来たので、声をかけると、一も二も無く、
「あ、おはよう。もらうよ」
と返って来る。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「暑いね、全く」
「最高気温、35度だそうですよう」
「暑いなあ。くれぐれも、熱中症には気を付けてくれよ、2人共」
「はあい」
言いながら冷たいお茶を飲み、グラスを洗って片付けた時、電話に出ていた徳川さんが言った。
「早速仕事だよ。栃木県のとある集落で謎の衰弱が蔓延しているらしい」
「栃木ですか。資料は栃木県警で受け取ればいいですか」
「そうだね。頼むよ」
僕と直は、来た早々だったが、また暑い中へと出て行く羽目になった。
「せめて車で行けたらなあ」
「うん。ずうっとクーラーかけて行けるのにねえ」
ドラマのようにはいかない。電車に乗るべく、僕と直は駅へ向かって歩き出した。
この集落でただ一つの神社だが、普段は常駐する神主もおらず、夏祭りや何かの折にのみ、近くからやってくるのだ。
本殿にかけていた南京錠を外し、窓を開ける。
わずかに入る風がほんの気持ち程度暑さを和らげるが、扇風機を用意しておいた方がいいだろう。そう思って、奥から扇風機を引っ張り出して、本殿の中に置き、コンセントを差し込む。
「ああ。暑いなあ。今年も記録更新かあ?」
毎年暑くなっていく。
扇風機の風に当たりながらふと祭壇を見た。
一番上には御神体の鏡があるが、その下に桐の箱がある。今まで鏡の入れ物と思っていたが、よく考えると、鏡はいつも出ているのだから、箱はいらないだろう。
「何だろう」
妙に惹かれて、その箱に近付いてみた。
大学ノートくらいの大きさで、厚さは17センチ程だろうか。手に取ってみると、中に何か入っているのか、カタンと音がした。
桐の箱を開けて見る。中には、黒くて艶のある箱が入っていた。
ゴクリと喉がなった。目が吸い寄せられたようになって、離れない。どうしても、欲しい。ここから持ち出して家に持って帰らなくてはいけない。なぜか強くそう思った。
震える手で、その黒い箱を取り出す。
蝉の声が、まるで咎めるように大きくなった。
冷たい麦茶を飲んで、一息つく。
「はあ。まだ7月半ばだって言うのに、暑い」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「夏はまだまだこれからだねえ。はあ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
出勤してまずは冷たいお茶を飲んだところだが、既に一仕事終えたような気分だ。
「あ、おはようございます。お茶飲みます?」
徳川さんが来たので、声をかけると、一も二も無く、
「あ、おはよう。もらうよ」
と返って来る。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「暑いね、全く」
「最高気温、35度だそうですよう」
「暑いなあ。くれぐれも、熱中症には気を付けてくれよ、2人共」
「はあい」
言いながら冷たいお茶を飲み、グラスを洗って片付けた時、電話に出ていた徳川さんが言った。
「早速仕事だよ。栃木県のとある集落で謎の衰弱が蔓延しているらしい」
「栃木ですか。資料は栃木県警で受け取ればいいですか」
「そうだね。頼むよ」
僕と直は、来た早々だったが、また暑い中へと出て行く羽目になった。
「せめて車で行けたらなあ」
「うん。ずうっとクーラーかけて行けるのにねえ」
ドラマのようにはいかない。電車に乗るべく、僕と直は駅へ向かって歩き出した。
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