体質が変わったので

JUN

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ナンパと美魔女(2)美魔女の正体

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 遊びに来た人、客を呼び込む人。男、女。日本人、外国人。年齢も、中学生じゃないだろうな、という感じの若いのもいれば、老人と呼んでいい人もいる。学生、社会人などもいるし、絶対にカタギじゃないだろうという人もいる。
「この中に次の被害者がいるのか?」
「どうやって絞ればいいのかわからないねえ」
 若い男性というくくりだけでもかなりの数だ。
「取り敢えず、目撃者を探すか」
 今日歓楽街デビューしました、というのが丸わかりな人はやめて、慣れていそうな人、ここで働いている人などに絞ってみる。
「ちょっとよろしいですか」
 言った途端、
「大学生ですから!」
とか、
「宗教はちょっと」
とか、
「風営法も守ってますから!うちは健全な営業をしてますから!」
と返された。
「え。何で?」
 噴き出して笑う直の横で、呆然としてしまう。
 どういう事だ!?
 直は涙を拭きながら、
「怜、ナンパできないねえ」
と、口元をヒクヒクさせて言う。
「ナンパだったの?」
 申し訳なさそうに、高校生にしか見えない女の子2人組が言った。
「いや、ナンパじゃないけどねえ」
「やっぱり補導?」
「警察官というのに間違いはないけど、ちょっと話を聴きたいだけなんだよねえ」
「なあんだ」
「君達、大学生?よく来るのか?学生証ある?」
「やっぱり補導じゃん!」
 直が、しゃがみ込んで笑った。
 もう、しばらく喋るまい。
 直がどうにか、ここでこの人を見た人がいないか探している、と言って、被害者3人の写真を見せる。
 2人組はそれをじっくりと眺め、やがて、八村を差した。
「この人、逆ナンの人じゃない?」
「ああ、そうだわ」
「逆ナン?」
「そう。昨日、サラリーマンの人がいて、先輩に似てたから何となく、『ああ、こういう風になるのかあ』とか考えてたの。
 そうしたら、女の人が近付いて何か話しかけて、その内腕をスルッと組んで、2人でホテルの方に歩いて行っちゃった」
「美人だったけど、おばさんよね、あれ」
「おばさん?いくつくらいかねえ」
「んん……30過ぎが大学生くらいに若作りした感じかなあ?」
「ええ。もっと上だよう、あれは。お母さんくらいと思うな」
「お母さん……45だよ?ああ、そうも見えるかあ」
「でしょ?」
 一体、何歳だ?僕と直は顔を見合わせた。年齢不詳という事なのか?
 と、ふっと気配がした。
 そちらに目を向けると、ミニのワンピースを着たセミロングの女性がおり、道端に立って辺りへ目をやっていた。
「例えばああいうの?」
 そっと指さすと、2人はそちらを見て、声を揃えた。
「ああ、あの人!」
「あの人だよ!」
 出たか。
「ありがとう」
 僕と直は、礼を言って霊の方へ近付いた。
 が、ごつい酔っ払いグループに巻き込まれる。
「わ!直!?」
「タックルは足腰が命じゃけん」
「いやあ、根性たい」
「れ、怜、どこかねえ!?」
 出た時には、女の霊の姿は消えていた。
「見失った。獲物を見付けたのか?」
「だとしたら、ホテルに向かうはずだよねえ」
「よし、行こう!いつも同じホテルというので、助かったな」
 ラブホテルに急ぎ足で向かった。

 彼は、平静を装いながらも、ニヤニヤとしてくるのを止められなかった。
 ナンパはした事があるが、そうイケメンでもないのを自覚はしているので、それなりの子に声をかけて、笑わせて、奢って、それから誘ってみるという流れになる。
 なのに今日はどうした事だろう。向こうから声をかけて来て、しかも、即、ホテルだ。
 チラッと横目で彼女を見た。ミニのワンピース越しにもわかる体型は、細身ながらも出る所はしっかり出ている。真っ白な肌は吸い付くような手触りで、ひんやりとしている。大学生くらいの年だろうが、高校生でも通りそうではある。そのくせ、キャピキャピとしたうるさい所が無い。美人で、赤い唇はぬめぬめと官能的に光っている。
 鼻血が出そうになって、目を逸らせた。
「行きましょ」
「う、うん」
 ガッチリと腕を組んで、部屋に向かう。
 部屋に入ると、嫌でもベッドが目に入って、ゴクリと喉が鳴った。
 あ、やばい。そう思って彼女を窺うと、彼女は肉食獣のような目で笑っていた。
「え?あれ?何か違う?」
 目鼻立ちそのものは変わっていないが、化粧は変に浮いており、厚化粧の印象に変わっていた。それに、顔にも首にもしわが目立つ。
 おかしい。別人か?いや、腕を組んでたのに、いつどうやって別人にすり替わるんだ?
 彼はひたすら混乱しつつも、彼女から後ずさって行った。
「あら。どうして逃げるの?」
「え?なぜでしょう……ははは」
 冷や汗が背中を流れた。
 変貌した彼女の中で、その赤いぬめぬめとした唇だけは、そのままだった。それが近付いて来る。
「ねえ。いいでしょ」
「う……」
「そろそろ、もたないの」
「も、もたないって?」
「体を保てる時間が、短くなっていってるのよ」
「は?え?」
 背中が壁に付いた。しまった、逃げ場が無い!腹痛、下痢、急用、病気、何を言ったらここから逃げ出せるだろう!?
 必死で考えた。
「逃がすわけ、ないじゃない」
 にいっと、唇が吊り上がる。
 お母さん……!と言いかけたところで、ドアが乱暴に開けられた。天使か!?
 これが彼女で修羅場になったとしても、感謝するだろうと思った――彼女はいないが。
「直!」
「はいよ」
 天使は、男2人だった。

 
 
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