体質が変わったので

JUN

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ナンパと美魔女(1)ナンパ男の受難

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 ラブホテルから、昏睡状態の若い男性を救急搬送。
「昏睡強盗とかじゃないのか」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「臓器を抜き取られてるわけでもないんだよねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「衰弱して、意識が戻らないだけだよ。皆病気とかでもなく、至って元気で、ラブホテルに入ってチェックアウトの時間になっても出て来ないので行ってみたら、倒れているのを発見というわけらしい」
 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「無くなったもの、ケガや注射の痕、そういうものはないんですか?」
「無いんだよ。ついでに、ベッドも衣服も乱れが無し」
「飲み物の形で摂取したとかはどうですかねえ?」
「その様子もなし。血液検査では、異常という異常も無いそうだよ。
 というわけだから、調査に行って来て欲しい」
「わかりました」
「ラブホテルかあ。行った事ないなあ」
「僕は、事件で3回行ったな。殺人と無理心中と逃走中の被疑者が潜伏したのが分かった時と」
「色気の欠片もない用事だねえ」
「そうだな」
 あははと笑って、僕と直は患者が搬送された病院に向かった。

 日本一の歓楽街と言われる繁華街の近くにあるその救急指定病院は、急性アルコール中毒、ケンカによる搬送が多い。それに、ひったくりやレイプなどの犯罪時のけが。
 ラブホテルから昏睡した患者――と聞いて、まず思ったのは、昏睡強盗。次に薬物中毒、アルコール、自殺か心中未遂。最後に、都市伝説にある臓器を取られているというのが本当に起こったのか、と。
「でも、どれも違うようでしてね。ただただ、衰弱して眠り続けているんですよ」
 医師はそう言った。
「何か病気というわけでも無さそうだし、外傷もない。3人の共通点は、若い男性であるという事、同じホテルから搬送されて来たという事」
「同じホテルですか」
「ええ」
 医師は、あるホテル名を言い、僕はそれを手帳にメモする。
 持ち物を見ても、薬物をはじめ、おかしなものはない。それどころか、至って元気だったようだ。
 調書によると、最初の被害者立石信一郎たていししんいちろうは大学生で、バイト終わりに飲みに来て、別れた後でこうなったらしい。
 次の松波まつなみひかるも大学生で、友人達とナンパ目的で来て、友人2人は2人組の女の子と成立してあぶれてしまい、その後、『美女発見!突撃します!』というメールと顔がよくわからない女性の写真が送られて来たのを最後に、こうなったらしい。
 スマホにそのメールと写真が残っていた。
「20代――いや、30?」
「どうも、年齢が分かりにくいねえ、遠いし」
 その上、間に通行人も入っている。彼女に話を聴きたいものだが。
 昨日の被害者は八村 薫はちむら かおるという社会人で、仕事終わりに同僚と飲んで、通りの端で別れたという。
「繁華街に、行ってみるか。目撃者がいればいいが」
「そうだねえ」
「見つかるのかなあ。相当かかるかもな。面倒臭い」
 見つかる事を、祈った。



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