658 / 1,046
ナンパと美魔女(3)知りたくなかった真実
しおりを挟む
僕と直は、気配を頼りにその部屋に踊り込んだ。
ドアを蹴破る勢いで開けると、大学生くらいの男が壁際に立っていて、食いつきそうになっていた女がこちらに体を向けると、四つん這いで逃げて来た。
良かった。元気そうだ。
「あれ、何?別人!」
震える指で女を差す。
その先で、女の姿はゆっくりと変わっていく。
繁華街で見た時は若くて美人な姿だったのに、全身の肌の色は土気色になり、筋肉は落ちてスレンダーを通り越している。
「ああ。あなたでもいいわ。若ければ。3人もいれば、もつでしょう」
言いながら、ゆらゆらと足を踏み出し、近付いて来る。
が、そこに直の札が飛んで、拘束する。
「陰陽課の御崎です」
「同じく町田ですう」
「あなたは3人の男性をここで襲い、昏睡させましたね」
女は身を捩りながら、答えた。
「生気をもらっただけよ。若さを維持するのに必要だから」
最早、その姿は生きている人のものではない。ゾンビかミイラか。
「若さどころか、もう、死んでるからねえ」
「黙れぇ!私は、美魔女クイーン。いつまでも、若くて美しい姿でいなくては――!」
剥きだした歯がぽろぽろと抜け、栗色だった髪は色も艶も失ってばさばさと抜けて床に山を作る。筋肉はなくなり、骨がむき出しになっていった。
ゴンという音に振り返ると、被害者になる予定だった男が、失神していた。
「あなたは、もう亡くなっているんですよ。もう、逝きましょうよ」
「私はぁ、若くてきれいぃ!」
「だめだよ、怜」
「そうだな」
僕は、彼女に浄力を当てて、成仏を促した。
うちのアサガオは、青と赤だった。兄ちゃんに渡したのは、赤と白の花を付けたらしい。
「怜、お花の絵描いたよ!ほら!お水もあげたの!」
甥の敬が、クレヨンで書いた絵を持って、見せてくれる。
僕と美里は、お盆休みで兄の所に行っていた。
「きれいに書けてるなあ。
いっぱい咲いたんだな。ちゃんと世話もできたのか。偉いぞ、敬」
敬は嬉しそうに笑って、
「押し花も作ってるから、できたら見てね!」
と言う。
「わあ、楽しみ!」
美里が笑う。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、3月に入籍した僕の妻でもある。
「死んでも若さと美しさに執着して、若い男から生気を奪ってたとはなあ」
兄が、溜め息をつきながら言う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「その年齢に応じた美しさってのがあるのになあ。若そうに見えればいいってもんじゃないよ」
言うと、冴子姉が笑う。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「あら嬉しい。そう言ってくれる男性ばっかりならね」
「芸能界も、ちゃんと何かが無い子は、若い子にどんどん変わっていくしね」
「ああ。確かに」
顔だけの人は、若くなくなって来ると、いつの間にかいなくなっている。
「でも、お母さんがきれいだと、やっぱり嬉しいわよね、敬君」
「うん!お母さん、かっこいいのとかわいいの!お父さんはかっこいいの!」
「よくわかってるな、敬」
僕達は笑って、
「まあ、無理はしないでいろって事だな。無理のない範囲で、まあ、それなりに努力すればいいんじゃないのか」
「そうだな、うん」
やっぱり兄ちゃんは、言う事もかっこいい。
「あ。ちょうちょ!」
アサガオの葉に、蝶がとまっていた。
「もうお花はしぼんじゃったから、明日また来てね。明日はまた咲くからね」
敬が蝶に、謝るように言う。
「どうしてすぐに終わっちゃうの?ずっと咲いていたらいいのに」
「そのままだったら困らないか?花が枯れないと、種ができないぞ」
「たくさんにならないねえ」
「それに、敬も大きくなれないぞ?」
「困る!大きくなって、ぼく、お巡りさんになるんだもん!」
「楽しみだなあ」
皆で笑い合う。
時間が過ぎても、一緒に笑って一緒に楽しんでいられる人がいれば、あんなに執着する事も無かったのかも知れない。
でも、僕がもし執着してしまうとしたら、この、人そのものだろう。兄ちゃんやこの皆や直。欠ける事が、想像もできない。
これは、怖い事なのかも知れない。
「どうした、怜」
「兄ちゃん。いや、何でもない。幸せだなあと思って」
「そうだな」
蝶が暑い日差しの中にまた飛び立っていくのを、僕と兄は、何となく眺めていた。
ドアを蹴破る勢いで開けると、大学生くらいの男が壁際に立っていて、食いつきそうになっていた女がこちらに体を向けると、四つん這いで逃げて来た。
良かった。元気そうだ。
「あれ、何?別人!」
震える指で女を差す。
その先で、女の姿はゆっくりと変わっていく。
繁華街で見た時は若くて美人な姿だったのに、全身の肌の色は土気色になり、筋肉は落ちてスレンダーを通り越している。
「ああ。あなたでもいいわ。若ければ。3人もいれば、もつでしょう」
言いながら、ゆらゆらと足を踏み出し、近付いて来る。
が、そこに直の札が飛んで、拘束する。
「陰陽課の御崎です」
「同じく町田ですう」
「あなたは3人の男性をここで襲い、昏睡させましたね」
女は身を捩りながら、答えた。
「生気をもらっただけよ。若さを維持するのに必要だから」
最早、その姿は生きている人のものではない。ゾンビかミイラか。
「若さどころか、もう、死んでるからねえ」
「黙れぇ!私は、美魔女クイーン。いつまでも、若くて美しい姿でいなくては――!」
剥きだした歯がぽろぽろと抜け、栗色だった髪は色も艶も失ってばさばさと抜けて床に山を作る。筋肉はなくなり、骨がむき出しになっていった。
ゴンという音に振り返ると、被害者になる予定だった男が、失神していた。
「あなたは、もう亡くなっているんですよ。もう、逝きましょうよ」
「私はぁ、若くてきれいぃ!」
「だめだよ、怜」
「そうだな」
僕は、彼女に浄力を当てて、成仏を促した。
うちのアサガオは、青と赤だった。兄ちゃんに渡したのは、赤と白の花を付けたらしい。
「怜、お花の絵描いたよ!ほら!お水もあげたの!」
甥の敬が、クレヨンで書いた絵を持って、見せてくれる。
僕と美里は、お盆休みで兄の所に行っていた。
「きれいに書けてるなあ。
いっぱい咲いたんだな。ちゃんと世話もできたのか。偉いぞ、敬」
敬は嬉しそうに笑って、
「押し花も作ってるから、できたら見てね!」
と言う。
「わあ、楽しみ!」
美里が笑う。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、3月に入籍した僕の妻でもある。
「死んでも若さと美しさに執着して、若い男から生気を奪ってたとはなあ」
兄が、溜め息をつきながら言う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「その年齢に応じた美しさってのがあるのになあ。若そうに見えればいいってもんじゃないよ」
言うと、冴子姉が笑う。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「あら嬉しい。そう言ってくれる男性ばっかりならね」
「芸能界も、ちゃんと何かが無い子は、若い子にどんどん変わっていくしね」
「ああ。確かに」
顔だけの人は、若くなくなって来ると、いつの間にかいなくなっている。
「でも、お母さんがきれいだと、やっぱり嬉しいわよね、敬君」
「うん!お母さん、かっこいいのとかわいいの!お父さんはかっこいいの!」
「よくわかってるな、敬」
僕達は笑って、
「まあ、無理はしないでいろって事だな。無理のない範囲で、まあ、それなりに努力すればいいんじゃないのか」
「そうだな、うん」
やっぱり兄ちゃんは、言う事もかっこいい。
「あ。ちょうちょ!」
アサガオの葉に、蝶がとまっていた。
「もうお花はしぼんじゃったから、明日また来てね。明日はまた咲くからね」
敬が蝶に、謝るように言う。
「どうしてすぐに終わっちゃうの?ずっと咲いていたらいいのに」
「そのままだったら困らないか?花が枯れないと、種ができないぞ」
「たくさんにならないねえ」
「それに、敬も大きくなれないぞ?」
「困る!大きくなって、ぼく、お巡りさんになるんだもん!」
「楽しみだなあ」
皆で笑い合う。
時間が過ぎても、一緒に笑って一緒に楽しんでいられる人がいれば、あんなに執着する事も無かったのかも知れない。
でも、僕がもし執着してしまうとしたら、この、人そのものだろう。兄ちゃんやこの皆や直。欠ける事が、想像もできない。
これは、怖い事なのかも知れない。
「どうした、怜」
「兄ちゃん。いや、何でもない。幸せだなあと思って」
「そうだな」
蝶が暑い日差しの中にまた飛び立っていくのを、僕と兄は、何となく眺めていた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる