体質が変わったので

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一夜の夢(2)夢の跡と、続く夢

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 なぜか他の人から認知されない状態で客引きの新人とOL2人組は歩き、その店に着いた。『一夜城』と看板を掲げたホストクラブである。
 狭い通路の壁に人気ホストの大きな写真が飾られ、その奥に『一夜城』というプレートのかかったドアがある。それを客引きをしていた新人ホストが押し開けると、落ち着いた照明と軽やかで明るい音楽が外までこぼれた。
「お嬢様2名です」
「いらっしゃいませ」
「ようこそ」
 口々に声がかかり、OL2人組は立ち止まっていた足を店内に入れた。
 それにスッと近付く。
「え?」
 振り返ってこちらを見るOL2人組に、直が、
「興味があってねえ。
 男は入店禁止かねえ?」
と新人に訊く。
「えっと、少々お待ちください」
 僕達は何食わぬ顔で、店内に足を踏み入れた。
 壁は全面が鏡張りで、テーブル席が壁に沿って並んでいる。そして奥へ続く通路があり、その向こうは、トイレや厨房になっているようだ。店の真ん中は開いており、踊る女性客とホストが数組いた。ダンスフロアらしい。
「こちらへどうぞ」
 OL2人組は空いていたテーブル席へと案内されて行き、そこに、ホストが接客の為に着く。
 僕と直は入り口付近で立っていたが、店長か何かが近付いて来た。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。
 でも残念ながら、当店は女性のお客様をおもてなしして、夢を見ていただく店でございます。男性のお客様はお断りさせていただいております。
 それとも、当店での接客係をご希望でしょうか」
 ホストクラブに行ったら、男はこう言われるのか。ふうん。
 じゃあ、ホステスのいる店だと、女性客がこう言われるのかな?
 そんなどうでもいい事を反射的に考えていると、いきなりドアが、もの凄い勢いで開けられた。
「いらっしゃいま――あ、姫野様」
 店長の声が、その客を認識すると、困ったような声に変わる。
「ホクトは?」
 姫野と呼ばれたその若い女性客は、派手なメイクととにかく高そうな服を着て、不釣り合いな感じの大きく重そうなトートバッグを持っていた。そして、表情は険しい。
 その目をフロアの真ん中で抱き合うように踊っていたホストに向けると、
「ホクト!何でそんな女――!」
と言い、女を睨みつける。
「姫野様。あの――」
 店長は営業用の笑みを浮かべて姫野に何か言おうとするのだが、姫野に聞く気はないらしい。
 ホクトと呼ばれたホストは踊っていた客に何かささやいて席に帰すと、こちらに来た。
 そして明らかな営業用の笑顔を浮かべる。
「姫野様、困ります。あなたがそういう態度だから、店としては出禁にするしかなかったのですよ」
「そういう態度?ホクトに私は貯金全てを差し出したわ。そうしたらあなた、私が一番だって言ったのに。他の女はただの客でしかないって。私と結婚するって」
 その途端、ホクトと店長が浮かべた笑顔は、失笑と冷笑だった。
「困りますね。さあ、お帰り下さい。
 おい、クルス!」
 呼ばれて、客引きをしていた新人が慌てて近寄って来る。
「お客様をお送りして」
 店長が言い、目で、「帰れ」と告げる。
 姫野はやおらトートバッグからビンを取り出すと、足元に叩きつけた。
 灯油の臭いが鼻につく。
「誰にも渡さない」
 姫野は嗤いながらジッポのライターを点け、足元に落とした。
 火が一瞬で広がって、店長、ホクト、クルスのスーツの足元から這い上がって行く。
「うわあああ!?」
「きゃああ!!」
 火だるまになりながらクルスとホクトは姫野から逃げるように裏口に通じる廊下の方へと走る。そして、そこで力尽きたように膝をつき、転げまわった。
 当たったソファが燃え、助けを呼ぼうとしたのか、掴んだ同僚や客の服に炎が移り、広がる。そしてその同僚や客もまた同じ事をして、炎は驚く程の勢いで広がって行く。
 入り口も裏口へ続く廊下も炎に塞がれ、逃げ道がない。
 客もホストもパニックだった。
「こういう風に、事件は起こったんだな」
 僕は阿鼻叫喚の店内を見ながら言った。
「これが事件の真相だねえ」
 直も、やり切れないという声で嘆息する。
 店内にいた全員が死亡するという痛ましい火災の原因が、これまでハッキリしていなかった。誰も証言できる人間がいなかったのだから、当然だ。火元が入り口付近と廊下の入り口付近だったので、人為的な何かで発火して、逃げ道が無くなって全員が煙と炎にまかれて亡くなったもようとは言われていたが、動機やら何やらはわからずじまいだったのだ。
「これをずっと繰り返しているんだな。火事の日の出来事を」
「もう、終わりでいいよねえ」
「ああ」
 直が札をきると、炎が消え、店内の豪華な内装も、無く叫ぶ客やホストも消え去った。
 僕と直、震えるOL2人組だけが、黒く焼け落ちたすすまみれの静かな店内にポツンと残されていた。
 それと、そんな僕達を取り囲むように立つ、犠牲となった客とホストの霊が残った。




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