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キャンプ場の悪意(3)盗難騒ぎ
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このキャンプ場内の管理された川でニジマスを釣り、たくさんコンロが並んだ炊事場で処理をして、網がはまったテーブルで持って来た食材とニジマスを焼いて食べる。
釣りは、今川が得意だった。一番早く、一番大きい物を釣り上げてみせた。そればかりか、時間をかけると食べる時間がなくなるので、釣れなかった班のメンバーの分まで釣ってみせたのだ。
捌くのは、皆経験がなく、怖がったので、まず萌葱がやって見せると、香川と輪島が対抗心を剥き出しにして挑戦し、次いで皆が各々の魚を捌く。
ボロボロになった人もいるが、これも経験だ。
そしてやっと、テーブルについて焼きながら食べる。クラスの中で、早い方だろうか。
背中合わせのテーブルは、大学生らしいグループが使っているようだった。
「今川って意外と凄くない?」
「ちょっとかっこいい。見直した」
城崎と洲本が弾んだ声を上げ、今川は満更でもない顔付きだ。
「何回やっても、エサをつつくのに釣り上げられなかった」
有馬が唸るのに、今川が言う。
「合わせるタイミングが違うんだよ。今日のは、超即合わせだった」
「合わせ?超即合わせ?その前に、俺のところには来なかった」
有馬と同じくボウズだった輪島が悔しそうに言う。
「姿を見られて警戒されてたんだろ。水の中から見られたんだ」
今川は生き生きとしている。
「今川君、詳しいのね。凄いなあ。ほかにも大きいのとか美味しいのとか釣った事あるの?」
小鳥遊が言うと、今川はふふんと心なしか胸を張った。
「俺の基本は海だからな。メバル、カサゴ、アジ、サバ、タチウオ、タイ、カツオ、ハマチ。色々釣ってるぜ」
女子達は声を揃えて「すごーい」と合唱の如く言い、有馬はぐぬぬと唸った。
「それにしても、望月君が料理できるなんてね」
小鳥遊が言うと、洲本と城崎も頷く。
「魚も捌けるなんて、カッコいいよね」
「男子も料理できた方がかっこいいもんね」
それに、一番の不器用さを披露した香川と二番目にヘタだった有馬が唇を引き結び、輪島が負けじと声を上げた。
「俺、手先は器用だっただろ?外科医を目指してるからね!才能あると思うんだ」
「ああ。時間がかからなかったらねえ。ニジマスが干物になるかと思ったわ」
香川が失笑すると、輪島が噛みつく。
「何を!?香川はニジマスのそぼろを作ろうとしてたのかと思ったよ!」
「何ですって!?」
ぎゃあぎゃあ言う2人をなだめ、和やかに食事をしながら、萌葱はなるべく皆を見ないようにしていた。
褒める言葉を発しながら、別の事を考えているのを見たくはない。
と、隣のテーブルで騒ぎ出した。
「俺の時計が無い!」
スマホの件で因縁をつけて来た青年だった。
「何で隣なのよ」
こそっと香川が言うが、女子と萌葱は全員同じ気持ちだ。
「たまたま空いてたから……え。まずかった?」
有馬がキョトンとするが、誰かが答える前に、隣の騒ぎはエスカレートしていっていた。
バタバタと、本人も含めた4人組が辺りを探す。探しながら、持ち主のあの青年が舌打ちをして言う。
「冗談じゃねえぞ。あれ、いくらしたと思ってるんだよ。水を使うからここに置いておいたのに。誰だよ、盗んだのは」
「間違いないのか?」
「カバンの中とかじゃないの?」
「ポケットとか」
「ねえよ。
おい。お前らのカバンの中も見せろ」
それに、3人が不満の声を上げるが、押し切られ、各々が、足元に置いたカバンに手を伸ばす。
意識的に見ないようにしていた萌葱達の、そちらに背を向けて座っていた今川の背中に肘が当たった。
「あ、ごめん」
気の弱そうな青年が謝るが、視線を向けた青年が、萌葱達に気付いた。
「あ。お前ら」
「先程はどうも」
香川が嫌味な口調であいさつし、青年は仏頂面になった。
誰のカバンからも時計は見つからず、青年は益々苛立ち、そして今川を見た。
「お前、万引きとかしてそうな顔してんな」
全員、目を丸くし、次いで、高校生側は目を細めて彼を睨みつけた。
「ふざけんなよ、てめぇ。他人を泥棒扱いしやがって」
今川が怒り、睨み合う。
「カバン、中を見せろよ」
慌てて、肘をぶつけた青年が止める。
「や、やめなよ」
それで、ほかの青年たちもなだめようとしたり、萌葱達に謝ったりする。
「やってないなら、見せられるよな」
「勝手にしろよ」
青年は肩を怒らせ、
「お前らも全員だ!」
と言って萌葱達を睨みつけ、今川のデイバッグに手を伸ばした。
ファスナーを開けっぱなしにしていた開口部を左右に広げ、青年は勝ち誇ったようにそれを取り出して言った。
「見ぃつけた」
一目で高そうだとわかる腕時計が、彼の指に摘ままれていた。
萌葱はそれを見て、小さく嘆息した。
釣りは、今川が得意だった。一番早く、一番大きい物を釣り上げてみせた。そればかりか、時間をかけると食べる時間がなくなるので、釣れなかった班のメンバーの分まで釣ってみせたのだ。
捌くのは、皆経験がなく、怖がったので、まず萌葱がやって見せると、香川と輪島が対抗心を剥き出しにして挑戦し、次いで皆が各々の魚を捌く。
ボロボロになった人もいるが、これも経験だ。
そしてやっと、テーブルについて焼きながら食べる。クラスの中で、早い方だろうか。
背中合わせのテーブルは、大学生らしいグループが使っているようだった。
「今川って意外と凄くない?」
「ちょっとかっこいい。見直した」
城崎と洲本が弾んだ声を上げ、今川は満更でもない顔付きだ。
「何回やっても、エサをつつくのに釣り上げられなかった」
有馬が唸るのに、今川が言う。
「合わせるタイミングが違うんだよ。今日のは、超即合わせだった」
「合わせ?超即合わせ?その前に、俺のところには来なかった」
有馬と同じくボウズだった輪島が悔しそうに言う。
「姿を見られて警戒されてたんだろ。水の中から見られたんだ」
今川は生き生きとしている。
「今川君、詳しいのね。凄いなあ。ほかにも大きいのとか美味しいのとか釣った事あるの?」
小鳥遊が言うと、今川はふふんと心なしか胸を張った。
「俺の基本は海だからな。メバル、カサゴ、アジ、サバ、タチウオ、タイ、カツオ、ハマチ。色々釣ってるぜ」
女子達は声を揃えて「すごーい」と合唱の如く言い、有馬はぐぬぬと唸った。
「それにしても、望月君が料理できるなんてね」
小鳥遊が言うと、洲本と城崎も頷く。
「魚も捌けるなんて、カッコいいよね」
「男子も料理できた方がかっこいいもんね」
それに、一番の不器用さを披露した香川と二番目にヘタだった有馬が唇を引き結び、輪島が負けじと声を上げた。
「俺、手先は器用だっただろ?外科医を目指してるからね!才能あると思うんだ」
「ああ。時間がかからなかったらねえ。ニジマスが干物になるかと思ったわ」
香川が失笑すると、輪島が噛みつく。
「何を!?香川はニジマスのそぼろを作ろうとしてたのかと思ったよ!」
「何ですって!?」
ぎゃあぎゃあ言う2人をなだめ、和やかに食事をしながら、萌葱はなるべく皆を見ないようにしていた。
褒める言葉を発しながら、別の事を考えているのを見たくはない。
と、隣のテーブルで騒ぎ出した。
「俺の時計が無い!」
スマホの件で因縁をつけて来た青年だった。
「何で隣なのよ」
こそっと香川が言うが、女子と萌葱は全員同じ気持ちだ。
「たまたま空いてたから……え。まずかった?」
有馬がキョトンとするが、誰かが答える前に、隣の騒ぎはエスカレートしていっていた。
バタバタと、本人も含めた4人組が辺りを探す。探しながら、持ち主のあの青年が舌打ちをして言う。
「冗談じゃねえぞ。あれ、いくらしたと思ってるんだよ。水を使うからここに置いておいたのに。誰だよ、盗んだのは」
「間違いないのか?」
「カバンの中とかじゃないの?」
「ポケットとか」
「ねえよ。
おい。お前らのカバンの中も見せろ」
それに、3人が不満の声を上げるが、押し切られ、各々が、足元に置いたカバンに手を伸ばす。
意識的に見ないようにしていた萌葱達の、そちらに背を向けて座っていた今川の背中に肘が当たった。
「あ、ごめん」
気の弱そうな青年が謝るが、視線を向けた青年が、萌葱達に気付いた。
「あ。お前ら」
「先程はどうも」
香川が嫌味な口調であいさつし、青年は仏頂面になった。
誰のカバンからも時計は見つからず、青年は益々苛立ち、そして今川を見た。
「お前、万引きとかしてそうな顔してんな」
全員、目を丸くし、次いで、高校生側は目を細めて彼を睨みつけた。
「ふざけんなよ、てめぇ。他人を泥棒扱いしやがって」
今川が怒り、睨み合う。
「カバン、中を見せろよ」
慌てて、肘をぶつけた青年が止める。
「や、やめなよ」
それで、ほかの青年たちもなだめようとしたり、萌葱達に謝ったりする。
「やってないなら、見せられるよな」
「勝手にしろよ」
青年は肩を怒らせ、
「お前らも全員だ!」
と言って萌葱達を睨みつけ、今川のデイバッグに手を伸ばした。
ファスナーを開けっぱなしにしていた開口部を左右に広げ、青年は勝ち誇ったようにそれを取り出して言った。
「見ぃつけた」
一目で高そうだとわかる腕時計が、彼の指に摘ままれていた。
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