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キャンプ場の悪意(2)アクシデント
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天気は良く、遠足日和と言える日になった。クラスメイト達は皆笑顔で会話をし、おやつを交換したり、今日の手順を相談している。
しかし、萌葱はどこか面倒臭そうな顔付きで、今川はしかめっ面をしていた。その2人はバスの席が横並びで、その列だけ、遠足とはかけ離れた雰囲気に支配されていた。
バスで山のふもとまで行き、そこからぞろぞろとキャンプ場まで歩き、班ごとに分かれて、釣りを始める。1時間で1人1匹以上釣り、捌いてバーベキューにして食べる事になっていた。
「1番に釣ってやる」
「じゃあ、一番大きいのを釣ってやる」
有馬と輪島が宣言するのに、女子は無反応だった。
しかし意外な事に、今川が舌打ちしない。それどころか、目を輝かせている。
「今川、釣り好きなの?」
香川が気付いて言うと、今川はハッとしたように視線をそらせ、
「べ、別に」
と言うや、釣り道具を受け取りにいそいそと歩いて行った。それに、出遅れてはならぬとばかりに、有馬と輪島が慌てて続く。
「どう見ても好きでしょ、あれ」
香川と小鳥遊が笑いを浮かべる。
「望月君は、釣りってした事あるの?」
小鳥遊が萌葱に訊き、萌葱は表面だけの笑顔をうっすらと浮かべた。
「いや、初心者だよ。だから、教えてもらうならあの3人にして」
そう言って、道具を受け取りに教師の方へ行く。
それに、小鳥遊が追いかけて来て並ぶ。
「望月君って、人見知りするタイプかな?友達、作らないと、詰まんないよ?」
大きなお世話だと言いたいのを心の中に押しとどめ、萌葱は肩を竦める。
「友達になる相手なら、気付いたらなってると思うから。無理に作ろうとしなくてもいいんじゃないかな」
「え……ううん……そう、かしら。
じゃあ、どんな人と友達になりたいの?」
「嘘をつかない人」
「え」
萌葱は小鳥遊を置いて、先に行った。
キャンプ場は紫明園高校1年生の貸し切りというわけでもなく、大学生らしきグループなども来ており、川岸で釣り糸を垂れたり、炊飯場で何か料理をしていた。
それをチラリと見て、教師から道具を受け取る。
その時、叫ぶような声がして、萌葱はそちらを見た。小鳥遊と香川と城崎と洲本が、大学生らしい少し派手そうな青年と向き合っていた。
「スマホ、落としたじゃないか」
青年が足元からスマホを拾い上げながら言うのに、
「すみませんでした」
と、小鳥遊が頭を下げる。
「あ。ちっ。割れてる。どうすんだよ、これ」
青年がスマホを小鳥遊達に向け、小鳥遊はまたも頭を下げ、香川がいきり立つ。
「困ったなあ。一応名前とアドレスを教えてもらおうかな。帰ったらゆっくりとお話しようぜ」
「そっちも、しっかり持ってなかったからでしょう?女子高生を見るのに忙しくて」
「ちょっと、莉々子!」
「ぶつかって来ておいてなんて事言いやがるんだ、こら」
香川と青年は睨み合い、小鳥遊はあたふたと慌てている。
教師はほかの生徒の対応に追われていたので、萌葱は嘆息して、彼らに近付いた。
「あ、望月君」
ホッとしたように小鳥遊が萌葱を見、青年と香川は、剣のある目付きで萌葱を見た。
「失礼」
萌葱は青年のスマホ画面を見た。蜘蛛の巣状にひびが入り、使い物にならないのは明らかだった。
そして足元を見ると、アスファルトだ。
「これが割れたのは、今じゃないですよね」
言いながら青年をじっと見る。
「固く尖ったものを打ち付けて割れたみたいですが、ここにそれらしいものは見当たりませんね」
青年は視線を一瞬泳がしてから、萌葱を睨みつけた。
「そんなもん、落ち方だろ。角度で、こう、割れたんだよ。実際割れてるだろ。大事な話をしてたのにどうしてくれるんだよ」
萌葱はスマホを手にして、シムカードを差し込む所を開けた。
「今使っていた?カードが入っていませんが。どうやって通話していたんでしょうね?」
青年はスマホをひったくると、引き攣った顔で、
「ジョークだろ。ちょっとした、出会いのきっかけ作りのジョーク」
と言い、萌葱を睨みつけて体を翻した。
「古典的なサギの手口だろ。まあ、あいつはナンパ目的だったかも知れないけど」
小鳥遊達に言うと、4人共ホッとしたような顔をしたが、香川は悔しそうに上目遣いで萌葱を睨んだ。
「ありがとう。助かったわ」
あの青年がうそをついていたのが見え、彼女達で対処できそうに見えなかったので、口を挟んでしまった。面倒臭い事をしてしまったと、萌葱は自分に舌打ちしたくなった。
さっさと離れるに限る。
「じゃ」
萌葱はそう言って、素早くその場を離れて釣りに向かった。
しかし、萌葱はどこか面倒臭そうな顔付きで、今川はしかめっ面をしていた。その2人はバスの席が横並びで、その列だけ、遠足とはかけ離れた雰囲気に支配されていた。
バスで山のふもとまで行き、そこからぞろぞろとキャンプ場まで歩き、班ごとに分かれて、釣りを始める。1時間で1人1匹以上釣り、捌いてバーベキューにして食べる事になっていた。
「1番に釣ってやる」
「じゃあ、一番大きいのを釣ってやる」
有馬と輪島が宣言するのに、女子は無反応だった。
しかし意外な事に、今川が舌打ちしない。それどころか、目を輝かせている。
「今川、釣り好きなの?」
香川が気付いて言うと、今川はハッとしたように視線をそらせ、
「べ、別に」
と言うや、釣り道具を受け取りにいそいそと歩いて行った。それに、出遅れてはならぬとばかりに、有馬と輪島が慌てて続く。
「どう見ても好きでしょ、あれ」
香川と小鳥遊が笑いを浮かべる。
「望月君は、釣りってした事あるの?」
小鳥遊が萌葱に訊き、萌葱は表面だけの笑顔をうっすらと浮かべた。
「いや、初心者だよ。だから、教えてもらうならあの3人にして」
そう言って、道具を受け取りに教師の方へ行く。
それに、小鳥遊が追いかけて来て並ぶ。
「望月君って、人見知りするタイプかな?友達、作らないと、詰まんないよ?」
大きなお世話だと言いたいのを心の中に押しとどめ、萌葱は肩を竦める。
「友達になる相手なら、気付いたらなってると思うから。無理に作ろうとしなくてもいいんじゃないかな」
「え……ううん……そう、かしら。
じゃあ、どんな人と友達になりたいの?」
「嘘をつかない人」
「え」
萌葱は小鳥遊を置いて、先に行った。
キャンプ場は紫明園高校1年生の貸し切りというわけでもなく、大学生らしきグループなども来ており、川岸で釣り糸を垂れたり、炊飯場で何か料理をしていた。
それをチラリと見て、教師から道具を受け取る。
その時、叫ぶような声がして、萌葱はそちらを見た。小鳥遊と香川と城崎と洲本が、大学生らしい少し派手そうな青年と向き合っていた。
「スマホ、落としたじゃないか」
青年が足元からスマホを拾い上げながら言うのに、
「すみませんでした」
と、小鳥遊が頭を下げる。
「あ。ちっ。割れてる。どうすんだよ、これ」
青年がスマホを小鳥遊達に向け、小鳥遊はまたも頭を下げ、香川がいきり立つ。
「困ったなあ。一応名前とアドレスを教えてもらおうかな。帰ったらゆっくりとお話しようぜ」
「そっちも、しっかり持ってなかったからでしょう?女子高生を見るのに忙しくて」
「ちょっと、莉々子!」
「ぶつかって来ておいてなんて事言いやがるんだ、こら」
香川と青年は睨み合い、小鳥遊はあたふたと慌てている。
教師はほかの生徒の対応に追われていたので、萌葱は嘆息して、彼らに近付いた。
「あ、望月君」
ホッとしたように小鳥遊が萌葱を見、青年と香川は、剣のある目付きで萌葱を見た。
「失礼」
萌葱は青年のスマホ画面を見た。蜘蛛の巣状にひびが入り、使い物にならないのは明らかだった。
そして足元を見ると、アスファルトだ。
「これが割れたのは、今じゃないですよね」
言いながら青年をじっと見る。
「固く尖ったものを打ち付けて割れたみたいですが、ここにそれらしいものは見当たりませんね」
青年は視線を一瞬泳がしてから、萌葱を睨みつけた。
「そんなもん、落ち方だろ。角度で、こう、割れたんだよ。実際割れてるだろ。大事な話をしてたのにどうしてくれるんだよ」
萌葱はスマホを手にして、シムカードを差し込む所を開けた。
「今使っていた?カードが入っていませんが。どうやって通話していたんでしょうね?」
青年はスマホをひったくると、引き攣った顔で、
「ジョークだろ。ちょっとした、出会いのきっかけ作りのジョーク」
と言い、萌葱を睨みつけて体を翻した。
「古典的なサギの手口だろ。まあ、あいつはナンパ目的だったかも知れないけど」
小鳥遊達に言うと、4人共ホッとしたような顔をしたが、香川は悔しそうに上目遣いで萌葱を睨んだ。
「ありがとう。助かったわ」
あの青年がうそをついていたのが見え、彼女達で対処できそうに見えなかったので、口を挟んでしまった。面倒臭い事をしてしまったと、萌葱は自分に舌打ちしたくなった。
さっさと離れるに限る。
「じゃ」
萌葱はそう言って、素早くその場を離れて釣りに向かった。
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