10 / 34
キャンプ場の悪意(4)窃盗事件
しおりを挟む
騒ぎが起こって教師が様子を見に来たが、それが窃盗事件とわかると、途端に深刻になった。
今川は無実を主張しているが、出て来たのは事実で、周囲の反応も、今川のいつもの態度などから、怪しむようなものになって行く。
担任が取り敢えず名前をと訊き、彼らは名乗った。
時計の持ち主は成田。金髪で、持ち物は流行を追った派手なものが多い。
今川に肘をぶつけたのは、松山。大人しい感じで、気が弱そうだ。
高松は普通に真面目で普通に遊んでいるという感じがする。
伊丹は眼鏡をかけていて、髪をよくいじるくせがあった。
彼らは名前も知らないような三流大学の落ちこぼれで、ナンパと暇つぶしを兼ねてこのキャンプ場に来ていたらしい。
そして、炊事をする前に50万の腕時計を外してテーブルに置き、そのまま忘れて食べ出してから、忘れていた事を思い出して、騒ぎだしたという事だった。
「今川、どうなんだ」
「俺じゃない!」
それに各人で色々な反応を見せる周囲の人間の中で、今川は怒りに震えていた。
小鳥遊はオロオロとしながら庇おうとしていたが、嘘とも嘘でないとも言えない程度に揺れていた。
やりかねないという奴は、嘘をついていない。
今川君に限って、などという奴は、大抵が嘘をついているか小鳥遊のようにグラグラとしていた。
萌葱は小さく嘆息した。
「皆さんの事情をもう少しお伺いしてもよろしいでしょうか」
そう言う萌葱を教師は黙らせようとしたが、担任だけは、
「そうですね。差し支えなければ。もしこの子がやったのなら、荷物を調べさせるのもおかしな話ですし」
と肩を持つ。
それには彼らも納得した。「それが手だ」と言う奴もいるが、その結果は窃盗犯だ。そんな手はない。
まず彼らは同じゼミの仲間で、一緒に課題に取り組むグループらしい。
成田は、オブラートをはぎ取って言えば、女癖が悪いという事だった。最近も新しい恋人ができたらしくて、この時計も、その彼女に貢がせたものらしい。そのほかにも何人もの女性にたかり、貢がせて、それで遊びまわっているらしかった。
手口は、ぶつかってスマホを落として割ったと言い、名前とアドレスと電話番号を聞く。そして話し合いと言って呼び出した後で、口説いて彼女にするか、弱みを作って彼女にするかするという。
それを聞いて、女子達の目が冷たくなった。
伊丹はバイトをして自分で学費を工面しているそうで、大抵いつも金欠らしい。
高松は自由な成田を羨み、憧れに近い気持ちすら抱いているようだ。
松山は気弱で人にはっきりとものを言えないタイプで、最近それが理由か、彼女にも振られたらしい。そして成田を、羨ましいと言った。
萌葱は考えた。
(どうやって、そこに持って行こうか)
「もう面倒だ。警察を呼ぼうぜ」
成田が言い、教師は慌てた。そして松山も、
「見つかったんだし、高校生だし、もういいじゃないか」
ととりなそうとするが、成田は楽しそうに笑って、
「示談金でもくれるのか?ああん?」
と言う。
それに女子達は不快感も露わに、
「最低」
「はげろ。いや、もげろ」
と言うが、ここにうそが欠片も感じられなかったのが、ある意味萌葱には恐ろしかった。
気を取り直し、訊く。
「ええっと、時計を外した後、皆さんはどこにいたんですか」
「俺は炊事場だ」
成田が言う。
「ぼくは管理池の方でトラウトを狙ってた。大きいのが釣れたら、持って帰って冷凍しようと思って」
これは伊丹だ。
「俺は炊事場で、米を研いだりしてたよ」
高松が言う。
「ぼくは川で釣りをしてた。その、静かなところで一人になりたくて。ボウズだったけど」
松山が言う。
川沿いには山桜が植わっており、地面が散った花弁で覆いつくされているほどだった。萌葱達も川で釣りをしたのでわかる。花弁がカバンの中に入ったり、靴の裏に貼り付いている。
萌葱は松山に頼んだ。
「靴の裏を見せてくれませんか」
松山は怪訝な表情を浮かべたが、大人しく見せた。
「あなたは嘘をついている」
全員が萌葱と松山に集中した。
「何を言い出すんだ、君」
「川沿いは桜の花弁でいっぱいで、踏まずには歩けなかった。そして、踏んで歩いたら、こうしてなかなか取れない」
萌葱は自分の靴の裏を見せた。踏まれ、濡れて貼り付いた花弁がそこにはあった。
今川は無実を主張しているが、出て来たのは事実で、周囲の反応も、今川のいつもの態度などから、怪しむようなものになって行く。
担任が取り敢えず名前をと訊き、彼らは名乗った。
時計の持ち主は成田。金髪で、持ち物は流行を追った派手なものが多い。
今川に肘をぶつけたのは、松山。大人しい感じで、気が弱そうだ。
高松は普通に真面目で普通に遊んでいるという感じがする。
伊丹は眼鏡をかけていて、髪をよくいじるくせがあった。
彼らは名前も知らないような三流大学の落ちこぼれで、ナンパと暇つぶしを兼ねてこのキャンプ場に来ていたらしい。
そして、炊事をする前に50万の腕時計を外してテーブルに置き、そのまま忘れて食べ出してから、忘れていた事を思い出して、騒ぎだしたという事だった。
「今川、どうなんだ」
「俺じゃない!」
それに各人で色々な反応を見せる周囲の人間の中で、今川は怒りに震えていた。
小鳥遊はオロオロとしながら庇おうとしていたが、嘘とも嘘でないとも言えない程度に揺れていた。
やりかねないという奴は、嘘をついていない。
今川君に限って、などという奴は、大抵が嘘をついているか小鳥遊のようにグラグラとしていた。
萌葱は小さく嘆息した。
「皆さんの事情をもう少しお伺いしてもよろしいでしょうか」
そう言う萌葱を教師は黙らせようとしたが、担任だけは、
「そうですね。差し支えなければ。もしこの子がやったのなら、荷物を調べさせるのもおかしな話ですし」
と肩を持つ。
それには彼らも納得した。「それが手だ」と言う奴もいるが、その結果は窃盗犯だ。そんな手はない。
まず彼らは同じゼミの仲間で、一緒に課題に取り組むグループらしい。
成田は、オブラートをはぎ取って言えば、女癖が悪いという事だった。最近も新しい恋人ができたらしくて、この時計も、その彼女に貢がせたものらしい。そのほかにも何人もの女性にたかり、貢がせて、それで遊びまわっているらしかった。
手口は、ぶつかってスマホを落として割ったと言い、名前とアドレスと電話番号を聞く。そして話し合いと言って呼び出した後で、口説いて彼女にするか、弱みを作って彼女にするかするという。
それを聞いて、女子達の目が冷たくなった。
伊丹はバイトをして自分で学費を工面しているそうで、大抵いつも金欠らしい。
高松は自由な成田を羨み、憧れに近い気持ちすら抱いているようだ。
松山は気弱で人にはっきりとものを言えないタイプで、最近それが理由か、彼女にも振られたらしい。そして成田を、羨ましいと言った。
萌葱は考えた。
(どうやって、そこに持って行こうか)
「もう面倒だ。警察を呼ぼうぜ」
成田が言い、教師は慌てた。そして松山も、
「見つかったんだし、高校生だし、もういいじゃないか」
ととりなそうとするが、成田は楽しそうに笑って、
「示談金でもくれるのか?ああん?」
と言う。
それに女子達は不快感も露わに、
「最低」
「はげろ。いや、もげろ」
と言うが、ここにうそが欠片も感じられなかったのが、ある意味萌葱には恐ろしかった。
気を取り直し、訊く。
「ええっと、時計を外した後、皆さんはどこにいたんですか」
「俺は炊事場だ」
成田が言う。
「ぼくは管理池の方でトラウトを狙ってた。大きいのが釣れたら、持って帰って冷凍しようと思って」
これは伊丹だ。
「俺は炊事場で、米を研いだりしてたよ」
高松が言う。
「ぼくは川で釣りをしてた。その、静かなところで一人になりたくて。ボウズだったけど」
松山が言う。
川沿いには山桜が植わっており、地面が散った花弁で覆いつくされているほどだった。萌葱達も川で釣りをしたのでわかる。花弁がカバンの中に入ったり、靴の裏に貼り付いている。
萌葱は松山に頼んだ。
「靴の裏を見せてくれませんか」
松山は怪訝な表情を浮かべたが、大人しく見せた。
「あなたは嘘をついている」
全員が萌葱と松山に集中した。
「何を言い出すんだ、君」
「川沿いは桜の花弁でいっぱいで、踏まずには歩けなかった。そして、踏んで歩いたら、こうしてなかなか取れない」
萌葱は自分の靴の裏を見せた。踏まれ、濡れて貼り付いた花弁がそこにはあった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる