蜃気楼の女

窓野枠

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第40章 橋本のささやき

1話

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「尚子…… おーい、尚子ー」
 尚子は櫻子と一緒に寝るベッドの中で、橋本の声が聞こえた。尚子は隣に並んで寝ている櫻子の顔を見つめた。
「ねえー 櫻子様、あたし、最近、変なの」
「うーーーん 何? 最近でもないわよ、前からよー」
「何、いってるんですか。冗談じゃなく、聞いてください」
「うん、ごめん、ちゃんと聞くから言って」
「あたし、おじさんの声が聞こえてしまうの…… おじさんを思い出してしまうからなのかしら?」
 尚子を見つめていた櫻子は、尚子のほおをなででくれた。
「橋本さんのことはつらかったねぇ。体が邪心・田所に乗っ取られてしまって……」
 櫻子は尚子の背中に腕を回し抱いた。尚子は櫻子の柔らかな胸にほおを当て埋めた。安心すると、目から涙がこぼれた。
「櫻子様、おじさんの無念の声が、いつもあたしの中で、毎日、悲しそうな声で、叫んでいるの…… 絶対復活するって、あたしに言うのよ……」
「あらぁ…… そうやって、毎日のように、橋本さんの声がするのって、変ねえ? ねえ? 橋本さんが尚子の体にいるってことは考えられないの? そのとき、橋本さんと会話したの?」
 櫻子にそんなことを言われるまで気が付かなかった。尚子は橋本の落ち着いた声を聞くたび、楽しかった記憶がよみがえり、懐かしくて、しくしく、泣くばかりだったことに思い当たった。
「あぁーーー そうよねぇー おじさんがあたしの中にいる? そう、かもしれないわ」
「えぇー やっぱり、そう思うの? でも、そんなこと…… 起こるのかなぁ?」
 尚子は橋本とのめくるめくセックスをしたことを、パートナーである櫻子に話していいか、ためらった。仮にも精神は夫・田所になることを知りながら、田所の精神を受け入れる前の、橋本と肉体的な関係を求めて恋人になった。まったくもって、ややこしい状態だった。そんな微妙な状態だから、愛した橋本と交わりたかった。その橋本を愛した気持ちを含め、櫻子に説明し、知ってもらいたい、と思った。
 田所か、橋本か、どちらか、分からない微妙な肉体だった。そうと知りながら、不倫みたいに、橋本と肉体的な関係を持ったことは事実だ。これは隠さず、櫻子に謝った方がいいと思った。そんな橋本の関係を櫻子に話しながら、橋本を思い出すと、苦しかったことを思い出し、尚子の目から涙がこぼれた。
「そう、そんなことがあったの? 随分、あんた、いい思いしてたのねぇ? あんた、かわいい顔して、ちゃっかりしてるね」
 櫻子はベッドの中で尚子の乳房を手のひらで包むと、張りのある乳房を、ゆっくり、もみ始めた。少しずつ、尚子は顔を曇らせていく。ぅううううー 櫻子はすっかり尚子の感じる部分を熟知していた。尚子は、櫻子にピンポイントで攻められ、すぐに、気持ちよくなった。
「ねえ こういうこと…… あたし、まだ、あんたとしか…… したことがないのよ…… あんたさ、橋本さんに、こういうことをされたの? どうなの? すごく気持ちよかったの? きっとね? この胸を橋本さんにもんでもらったんだぁー こうやってさ……」
「ううううぅー はい、と…… とっても、気持ち良かったぁーーー す、すみません…… あぁあーー とっても、気持ちよかったーーーぁああーー いきますーーー」
「ふーん、あたしもしたくなったなぁ そのとき、あんたと、愛し合っていたとき、平八さんは橋本さんだったのね? 邪心・田所をやっつけて、橋本さんとまた、できるといいねぇー」
 尚子は体をけいれんさせて絶頂を感じた。尚子は荒い呼吸を整えると、櫻子の乳房に顔を埋めた。
「ところで、櫻子様は、男と交わると、その男は性奴隷になるって言う超能力はあるのですか? あたしって、純粋なアラビアーナの女ではないでしょ? だから、橋本さんはあたしを恋人だって言ってくれたんですよぉ 邪心に満たされた学園長も櫻子様の力で、心を櫻子様を愛するだけの性奴隷にできますか?」
「あらぁーーー 全然、考えていなかったわぁー その手があったわねぇ、最初から、平八さんと会ったとき、すぐ、セックスしていたら、こんな変な展開にならなかったかもねぇ あんたぁー さっすがねぇー 早速、試してみる価値はあるかもね」
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