上 下
53 / 61
四章:愛情/執着

11

しおりを挟む
 シュンの意識は乱れている。それは遠目に見ているユーマの目にも明らかであり、向かい合い、殺しあっているハチにも明らかだった。おそらく傍に居なければこれほど乱れなかっただろう。傷つく瞬間を、一瞬でも認識しなければ。
 乱れている集中力をここぞとばかりに狙い定め、ハチは拳を繰り出していく。
 しかし一瞬、動きが鈍る。ハチは眉間に皺を寄せて、思ったよりも速度が落ちた拳をシュンの腹に入れた。
「貴様の相手をしている暇はない!」
 声を荒げるシュンを見て、ハチはふと彼はユーマにどこか似ている、と思った。そんな思考が明後日に飛んだ瞬間に、ハチは横っ面を殴られてよろけた。
「……ってぇ。あー、まさかまだ俺の方に干渉できんの? アンタ」
 しかしその問いに答えずにシュンはハチを睨みつけたまま構える。次の一撃をどう出るか。それを考えながらもその一手を見透かされないように集中して。どの瞬間だったのかは分からないが、シュンの集中は今に少し揺り戻されたようだ。否、ミナトが心配だからこそ、早く終わらせたくてそうなったのだろう。
 ハチは笑いながら、片手を上げた。殴る為でもなく、銃を構えるわけでもない。
 それはただの合図。

 空気を切り裂く音がして、再びドローンが二人の視界に現われる。それをみてシュンはハッと目を丸くして、そして攻撃を繰り出す。
 ハチはそれを受け止めながら、先の一手その先の一手、と攻撃を繰り出す。だがシュンもそれを流して攻撃へと転じる。
 互いに間合いを開けて対峙した。次をどうするか。互いの距離を見ながら考える。
「ドローンは一体誰が用意した」
「んー、ユーマの知り合い? 組織外のね」
「……厄介だ」 
 そう言うとシュンはドローンを先に墜とすことを選ぶ。
 地面に落ちていた自らが纏っていた強化外骨格の一部を拾い上げ、投げる。その一挙手一投足、すべてが彼の計算の上の行動であり寸分の狂いなく放たれた。ドローンに攻撃が当たる。
 その瞬間に、ハチは駆け出してシュンへ攻撃を叩き込む。
 地面に落ちている己の銃を拾い、構え、シュンを撃つ。

 銃弾はシュンの胸を貫いた。衝撃に一瞬身体はよろめいたが、それでもまだ立っていた。
 ぐらりと揺れてシュンはその場に膝をつく。
 ハチは歩いて近づくと、銃口をシュンの頭に向けた。
 シュンがハチを見上げる。
「思ったんだけど、アンタってもしかして、アイツに気に入られるために、ユーマの真似してんの?」
 戦い方や動きが似ているというわけではない。おそらくそこに関しては正反対な気がした。だからこれは単純に見た目の話だった。髪型や色。顔の作り自体は変えることは出来ないから、表情の作り方や、喋る時の声の高低差。
 ずっと一緒にいたからこそ似てしまった、という考えもある。だが直感でハチは似せているのだ、と思った。答えは簡単だ。ミナトに自分を好きになってもらいたいからだろう。

「そこまでして気に入ってもらおうなんて、信じられないけど。アンタはそうまでして気に入られたかったってことでしょ」
「だったら……なんだっていうんだ」
「別に何も。俺が殺したかった奴がなんともつまらない男だったっていう事実だけよ」
「殺し……たかった?」
 口元にも血を滲ませ顔を顰めたシュンが呟いた。
「そ。俺もだけどさ、いちいち殺した相手のことなんてよほどの事じゃなきゃ覚えちゃないでしょ? だからアンタにとってはある日の仕事で、別に記憶にも無くて当たり前の殺しの復讐ってとこ」
「何故……俺、だと? 他にも殺し屋は、いる……」
「ユーマが見張りに居た事を突き止めたんだよ。だからユーマに聞いて、アンタって確定ってこと」
 シュンは視線を泳がせた。考えているようにも見えるが、意識が混濁し始めているようにも見える。そうして視線が再びハチに向かった時、シュンは血に濡れた唇に笑みを浮かべた。
「確かに……覚えて、ませんね」
 その言葉を聞いてハチは銃口を降ろし、足元に目がけて数発打ち込んだ。
「ッ、ぁあああ……」
「さて……弾切れ。どうせほっとけば死ぬでしょ。簡単に死ぬより、苦しむ方がいいでしょ」
 地面にどさりと横たわると、シュンはハチを見ていた瞳をミナトがいるほうへと向けた。それでも首を動かすには力が足りずミナトの姿を視界に収めることは出来ない。

「ユーマ、立てる?」
「……無理」
 ハチはシュンに興味を失ったようにユーマの方へと歩いて行く。
「あちゃー。結構ひどいじゃん。死にそう?」
 笑いながら言って、ハチはユーマの腕を掴んだ。そうして無理矢理立たせると、ユーマはうめき声を上げて立とうとした。だが脚が言うことを聞かず、そして痛みに歩く事はままならない。
「そっちは殺したの?」
 ハチはまだ地面に横たわっているミナトに視線を向けて言った。だがミナトから何か言葉が返ってくることはない。それでもまだ彼は生きて居る気配がする。それを裏付けるようにユーマは首を小さく横に振った。
「もうすぐ……組織の奴らがくるよ。だから、はやく……行こう……ってぇ。マジ痛い」
「喋れるなら大丈夫っしょ。それにこっちももうすぐ迎え来るよ」
「迎え?」
 その時一台の車が猛スピードでやって来た。周りはおそらくミナトの力によって人払いはされていたので、その車の登場はとても異様だった。ブレーキ音が鳴り響くと同時にハチはそちらに歩きだす。
「国外脱出は取りあえず怪我が治ってからって感じだねぇ。ほら、早く歩いて、早く」
「ばっ……かか、お前みたいに……すぐ、治る身体じゃねぇんだよ、俺は……」
 それでも必死に脚を動かして、殆どはハチに担がれるようにしてユーマは車へと向かって行く。だがその途中で意識はふと遠くなって、そのまま手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

処理中です...