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番外編2.出張中の執事(三人称です)
75.衝突
しおりを挟むダンドの周りを取り囲む竜たちは、こちらを散々振り回しておいて、全くそれを気にしていないようだった。ロウアルと銀竜のリーダーは、ダンドの話を聞いてすらいないようだし、店主の金竜はのんきにロッキングチェアの上で紅茶を楽しんでいる。全ての元凶のオーフィザンも、平気な顔で紅茶にミルクを入れていた。
「セリューへの対応が不満できたのか?」
「……不満に思わないはずがないでしょう。二ヶ月前、伯爵と衝突してから、あなたは伯爵を陥れることを考え始めたはずです。ちょうどその頃、あの釘の事件が起こり、ここの花屋が襲われたと聞いて、あなたはここに駆けつけたんじゃないですか? ここにある花、ペロケが育てたんですよね? 特に、今ここにあるこの花。この花が初めて咲いた時、ペロケはすごく喜んでいたじゃないですか。今だって、城中に飾っています。だから、あなたはここで事件が起きたと聞いて、ペロケの花のことが気になって、すぐに駆けつけたんです。ここへ来て、あいつが育てた大事な花が踏みにじられているのを見て、あなたは怒ったんじゃないですか? すぐにあの香炉を使って、魔力の跡を追ったはずです。セリューが言っていました。魔力が使われた直後なら、犯人のところまで行けたって。本当はその時、フィッイルのところに行き着いたんじゃないですか?」
「そうかもなあ……」
「フィッイルみたいな小さな魔法使い、あなたみたいに馬鹿でかくて怖い竜に脅されたら、あっさり話したはずです。コリュムの仕業だと。ついでに、伯爵が銀竜を利用しようとしていることまで話したんでしょう? フィッイルは、伯爵があなたに対抗するために呼んだ魔法使いの一人ですから。それを聞いて、これを利用しようと考えたんです。このことが明るみに出れば、伯爵は失脚する。あなたは先回りして銀竜たちに言いましたね? ヴァティジュ伯爵と、契約を結んだふりをしろと」
ダンドはじっとオーフィザンを見つめるが、オーフィザンはニヤニヤわらっている。問い詰められているとは思えない。しばらく黙って、紅茶を飲んでから、ダンドに問いかけてくる。
「なぜ分かった?」
「だって、最後に銀竜たちは驚くほど簡単に引き下がったじゃないですか。俺には、銀竜が同じ竜だからなんて理由で引き下がるとは思えない」
「なるほど」
「あなたは、フィッイルに言って、陛下が助けを求めて来るまで、釘のいたずらを続けさせたんです。花屋だけやけにボロボロにされていたのは、フィッイルだけでやったからだ。あなたに、いたずらは続けろ、ただし被害はあまり出すなって無茶苦茶なこと言われたんじゃないですか? 下手な魔法で一生懸命直そうとしたフィッイルもかわいそうです。街路樹、どうするんですか! 銀杏だったのに、向日葵になっちゃったんですよ!」
「銀杏はよくて向日葵はダメなのか? どちらも黄色いのだからいいじゃないか」
「黄色くなるものを植えてるんじゃないと思います。フィッイルがコリュムの言うことを聞かずに民家を狙わなかったのも、あなたがそう命じたからですね? フィッイルのおかげでセリューはここに来ることになり、こちらの方はセリューが調査し、伯爵の領地にはあなたがむかい、トライメトに話をつけた。罠にはまり、一族に見限られた伯爵は失脚……思い通りになりましたね」
「伯爵のことはどうでもいい」
「またとぼけるんですか!?」
怒りのあまり、テーブルを叩きつけてダンドは立ち上がった。
「オーフィザン様!! あんまりです!!」
「伯爵のことか?」
「違います!! セリューです! なぜセリューに何も話さなかったんですか!? この城に一人で派遣されて、セリューは心細かったはずです! こんなのひどすぎます! そんな計画があるのなら、セリューにくらい、話したってよかったじゃないですか!!」
「セリューが聞けば、反対したはずだ」
「そんなの、わからないじゃないですか! 俺、セリューには本当のこと話します!」
「待て!!」
ついにオーフィザンは立ち上がり、ダンドの腕をつかむ。
「あいつに余計なことを言うのは許さない」
「そんなことを言うなら、セリューを苦しめないでください。コリュムがセリューにつきまとっていることも、あなたは知っていたはずだ。それなのに、セリューだけをここに来させて……ここへ来る前に、俺はセリューと話したんです。やっぱりオーフィザン様はなんか変だって。それでも、セリューはあなたを疑うことはしなかったんです。セリューはずっとあなたを信じていたのに、あいつまで振り回すなんて……俺はもうあなたにはついていけないっっ!! 俺は降ります! セリューを連れて出て行きますっ!!」
叫んだダンドにオーフィザンがつかみかかる。
「俺のもとを去ることは許さん。お前も、セリューも」
「はなしてください……セリューがかわいそうだ……」
にらみ合い、一歩も引かないダンドに、離れたところから店主が言った。
「やめな。狐」
「き……あなたは黙っていてください!!」
「オーフィザンが伯爵に腹を立てたのは、お前が考えているものとは別の理由だ」
「……え?」
驚いて、ダンドはオーフィザンに向き直った。
「そうなんですか?」
「……」
オーフィザンは明らかに先ほどまでとは様子が違う。何を言われても平気な顔をしていたのに、急に黙り込みダンドに背を向ける。オーフィザンは店主に振り返り、言った。
「余計なことを言うな」
「余計? 何がだ? この際、全部話した方がいいぞ。そうでないと、そいつは本当に出て行く」
「そんなことはさせん」
「……もう少しそいつの気持ちも考えてやれ。おい、狐。こいつは伯爵程度が自分に言ったことなど、もうとっくに忘れている」
「え……」
他に理由があるかと考えてから、ダンドはオーフィザンに振り向いた。
「……まさか、最初に伯爵に腹を立てたのは、セリューを馬鹿にしたからですか?」
「……」
「オーフィザン様! ちゃんと答えてください!!」
「……」
「……答えないと、セリューに全部話しますよ」
「……ずるいぞ……」
オーフィザンは、やっとダンドに振り返る。
「面倒な奴だ……」
「ちゃんと話してくれるまで、俺は絶対に引き下がりません!」
「……」
「オーフィザン様!!」
「……そうだ。セリューを落ちた貴族だと馬鹿にされ、腹が立ったんだ」
「……じゃあ、そう言ってください」
「今言った」
「……子供みたいな言い返し方、しないでください」
「うるさい。さあ、これで尋問は終わりだな。帰るぞ」
「待ってください。逃がしませんよ。伯爵には興味ないってことは、コリュムを追い出したかったんですか? 伯爵がいる限り、コリュムの横暴を止めるのは無理って、セリューが言ってました」
「……」
「どうなんですか? 答えるまで、ここから出しませんからね」
腕を組んでダンドが言い放つと、店主が笑い出す。
「ずいぶん強気な狐だな! 気に入ったぞ。オーフィザンが嫌になったのなら、俺のところに来い!」
「行きませんし、狐じゃありません。あなたは黙っていてください。さあ、オーフィザン様、答えてください」
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