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番外編2.出張中の執事(三人称です)
74.嘘
しおりを挟む数日後、ダンドは一人で城下町を歩いていた。
あの夜の一件で、伯爵は失脚し、フイヴァ家は、トライメトが継ぐことになった。セリューとダンドがだいぶ乱暴なことをしたが、オーフィザンとブレシーが王たちに話をつけ、特に責められることはなかった。明日にはオーフィザンとセリューとともに、森の中の城に帰ることになっている。だから、これをするなら今日しかない。
朝から小雨が降っているせいか、町は肌寒かった。ダンドはブレシーに傘を借りて、最初の事件が起きたと言う花屋へ向かっていた。
雨に濡れた石畳の道をしばらく行くと、例の花屋が見えて来た。中はずいぶん薄暗いが、意を決して、可愛らしい花の模様が刻まれた扉を開く。
すると、見覚えのある顔とばったり会った。ティデュルに似ているが、少しぼーっとした顔をしたキョテルだ。彼は店内に振り返り「お客さんだよー」と言って店を出て行った。
床が軋む音とともに、誰かが奥から歩いてくる。ポッと音がして、勝手にランタンが灯り、その姿を照らした。近づいて来たのは大柄な男で、灰色の長い髪をして、見た目の割に可愛らしい花柄のエプロンをつけていた。
「よお……いらっしゃい…………何を探してるんだい? 恋人におくる花束なら、ちょうどいいバラがあるよ」
ニッと笑って店主は赤いバラを差し出すが、ダンドは首を振った。
「花を探しに来たんじゃないんだ」
「ここは花を売るところなのにか? ……冷やかしか……そう言えば、花を飾りそうな男には見えないな」
「冷やかしじゃないよ。それに、俺もたまに、テーブルに花を飾るんだ。ペロケっていう花を育てるのが好きな奴がいるから」
「心が休まるだろう? どうだい? 少し買っていかないかい? 別料金で一年枯れない加工をしてやるよ」
「他のやつの花を飾ったら、ペロケに妬かれちゃうよ」
「……そうかい」
「それに、今日は少し、話を聞きたくて来たんだ」
「いきなりそれかい? オーフィザンとこのガキは躾がなっていないな」
「俺がオーフィザン様の執事だって知ってるんだ」
「ああ」
店主は壁にかけてあったランタンを手に取り、奥にあったカーテンを開く。カーテンの向こう側は、こちら側とは正反対に明るかった。壁も天井も床もガラス張りで、雨が降っているとはいえ、外の光が入ってきている。そこに、白く丸いテーブルが三つ、並んでいた。
その真ん中のテーブルで、オーフィザンは紅茶を飲んでいた。一緒に、城下町でセリューとダンドを襲った銀竜も、人の姿になり座っている。もう一人は知らない顔だった。
ダンドはゆっくり彼らに近づいた。
「やっぱりここにいたんですね。オーフィザン様」
「よく分かったな。ダンド」
「この花屋の花はペロケが育てたものと同じものです。だから来てみたんです」
「ここの店主とは、知り合いなんだ」
ロッキングチェアに座る店主が、手でダンドに挨拶をする。
「あなたも竜ですか?」
「ああ。金竜だ。そっちに座っているのが、銀竜の群のリーダー。もう片方とは城下町であったんだろう? そいつはロウアルだ」
挨拶されても、ロウアルはケーキに夢中だ。銀竜のリーダーは振り向きもせず、紅茶を飲んでいた。
どうやら、花屋に入った時から竜に囲まれていたらしい。そう思うとゾッとしたが、怯えていることを悟られたくない。
「竜がこんなところに集まって、何してるんですか? いたずらする計画立ててたんですか?」
「なんのことだ? それに、セリューはどうした?」
「セリューには話さず、一人で来ました。セリューに聞かせたら、絶対ショックだろうから」
「ショック?」
「とぼけないでください!! 銀竜と組んでいたのは、オーフィザン様もですよね!」
「んー? なんの話だー?」
オーフィザンはそっぽを向いて紅茶を一口飲む。ますます馬鹿にされている気がする。
「からかわないでください。なんでこんなことしたんですか?」
「まあ、座れ。何を聞かれているのか分からん。順を追って話せ」
「……分かりました」
ダンドは、すすめられるまま空いている席に座った。
「まず、二ヶ月前の魔物の件です。あの時、あなたは陛下に頼まれて、セリューと一緒に魔物を退治しに、ここへ来たんですよね?」
「ああ」
「魔物は誰かが故意に放ったものだとは思わなかったんですか?」
「ああ。さっぱり」
「嘘っぽいな……」
「疑うのか?」
「はい」
「では、それが分かったとして、それがなんだ?」
「なんだって……魔物を放ったのは誰か、探そうとしなかったんですか?」
「したかなあ……?」
「とぼけないでください。オーフィザン様の魔法なら、犯人だってすぐに見つけられたんじゃないですか?」
「どうだったかなあ?」
「伯爵と掴み合いの喧嘩したんですよね? なんで喧嘩なんかしたんですか?」
「忘れたなあ」
「オーフィザン様が、魔物はお前の仕業だろって言って、怒らせたんじゃないんですか?」
「あいつが素直に認めないのが悪い。挙げ句の果てにセリューを落ちた貴族だとバカにするからだ」
「……そんなにあっさり認めるなら、最初からとぼけないでください……」
「ああ。そうだな。魔物の犯人は知っていた」
「伯爵を問い詰めたけど、認めなかったんですね? それで伯爵を失脚させたくなったんですか?」
「さあな」
「……またとぼけるんですか……オーフィザン様! 伯爵が気に入らなかったからって、いくら何でもそんなことのためにセリューをこんな風に巻き込むなんて、ひどいです!」
こちらは怒っているのに、オーフィザンは飄々として紅茶を飲んでいる。店主がダンドにも紅茶とケーキを運んで来たが、食べる気にならなかった。
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