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番外編2.出張中の執事(三人称です)
73.終結
しおりを挟む竜は文字を見て一応は納得したのか、床に降りた。
「……確かに書いてあるな……俺の字だ。竜以外にその文字が読めるはずもない。あれ……? あいつ、狐妖狼じゃなかったかな?」
「耳と尻尾は今封じているんだ」
「……もう少し、可愛いやつだったはずだ。お前みたいに生意気そうなやつじゃなかった」
「……私と会ったのはずいぶん前だろう? 長い時間が経てば変わりもする」
「……怪しいな。お前、本当に狐妖狼か? ……全く可愛くないぞ……」
「……狐妖狼族全てが可愛いというわけではない」
「俺は可愛くないやつとは話をしないんだ」
「伯爵だって可愛くないだろう……」
「あれは俺じゃなくて、群のやつが勝手に話をつけたんだ。おい、狐妖狼だというなら、証拠を見せろ。耳と尻尾を見せてみろ」
「それは……」
困った。もちろんセリューにそんなものはない。答えられないでいると、ダンドが後ろからあのお守りを押し付けてきた。すると、セリューに耳と尻尾が生える。
「な……え? な、なんで……」
銀竜はそれを見て、嫌そうな顔で頷いた。
「確かに、全く可愛くない上に似合いもしないが耳と尻尾はあるな……ああ、思い出したぞ。それを渡した時のことを。俺が昼寝をしていたら、お前が崖の上から落ちてきたんだ。果物を取りに来た帰りに道に迷ったんだよな? 食ってやろうかと思って巣に連れ帰ったが、あまりにワンワンうるさく泣くから、お前の群れの方へ連れて行ってやることにしたんだ。帰してやると言っているのに、ギャーギャー泣いて堪らないから、殺さないし、ちゃんと帰すと納得させるためにそれを渡したんだったな……お前があの臆病な馬鹿か。可愛くなくなったが、大きくなったな。馬鹿と臆病は治ったか?」
「……は、はい……そうですね……」
耳と尻尾が生えただけでも嫌なのに、可愛くないだの似合わないだのバカだのと言われ、かなり腹がたつが、ここは我慢するしかない。
竜は、渋々羽を畳んだ。
「仕方ないな。群れのやつが結んだ契約はあるが、俺は他のやつが勝手につけた話より、俺が言ったことを守りたいからな……一応、お前、あの可愛かった狐妖狼なんだろう? 困っていたら助けてやると言っちまったようだし、話を聞いてやる」
「あ、ありがとうございます……では、少し教えていただけませんか? あなた方と契約を結んだのは、ヴァティジュ伯爵ですか?」
「ああ」
銀竜はあっさりと答えるが、ドアの方から、それを強く否定する声がした。
「なにをバカなことを。私はなにも知りません」
堂々と言いながら、伯爵が寝所に入ってくる。やはり銀竜が契約どおりことを進めるか、物陰から見張っていたようだ。
銀竜は伯爵に向き直り言った。
「お前は俺たちの巣に行く腕輪を持っているだろう」
「そんなもの」
「これですね」
セリューが腕輪を出すと、伯爵は顔を歪める。
「あなたの部屋にあった箱から出て来ました。あなたの名前が書いてあります。伯爵」
「……知らんな」
「銀竜の巣へ向かいましたね? 巣の場所を魔法使いに調べさせたのでしょう? そこのフィッイルも言っていました」
「知らん」
「では、銀竜に聞いてみますか?」
セリューが聞いたところで、空から別の竜たちが飛んでくる。そのうち、ひときわ大きな竜がオーフィザンとともに降りて来た。オーフィザンは伯爵に向かってニヤリと笑って言った。
「年貢の納め時だな。伯爵。向こうの銀竜は下りるそうだ」
「何だと……?」
伯爵は、オーフィザンの隣の竜を睨みつける。しかし、竜の方も怒っているのか、低い声で言った。
「話が違うぞ……伯爵。我らが相手にするのは、魔法使いだと聞いていた。同族であるオーフィザンを手にかけさせるつもりだったのか?」
「……なんのことだ?」
「契約を忘れたのか?」
「……知らんな……」
あくまでとぼける伯爵の前に、オーフィザンとともに銀竜に乗って来た一人の男が出る。ブレシーと似た印象を受けるが、彼よりずっと体格のいい、大柄な男で、背中に大きな剣を担いでいた。伯爵の領地にいるはずのトライメトだ。彼は父である伯爵と向き合い、言った。
「父上、とぼけても無駄です。あなたの計画は崩れました」
「トライメト……?」
「諦めて、罪を認めるべきです」
トライメトはいくつも書類を突き出す。
「あなたが暗殺者を雇った記録だ。領地の城で見つけた。あなたが陛下を狙っていた証拠だ!」
「黙れ! 貴様……こんなことをして……」
「黙るのはお前の方だっっ!!」
星まで届きそうな怒鳴り声に、その場にいたものたち皆が黙り込む。
「己の欲望のために主君を狙い、挙げ句の果てに領民すら危険に陥れるなど、貴様に人間の資格はない!! 恥を知れっっ!!」
「……」
彼の迫力に、伯爵は一歩後ろに下がる。
オーフィザンが勝ち誇ったように言った。
「諦めろ。外から見たら崩しようがないようでも内側はガタガタだ。コリュムのバカのせいで、俺の執事がここへ赴いた時に気づけ。今回のこれはお前の独断。一族の奴らは協力する気がまるでないどころか、お前のことを見限った。ブレシーが今、お前が集めたという魔法使いたちを探している。そいつらなら、お前がしようとしたことを知っているんじゃないか?」
「……そうか……………………」
伯爵はしばらく黙って、ポケットから小さな香炉を取り出す。そこから巨大な鳥が生まれた。それが伯爵を乗せて飛び上がろうとする。
セリューは鳥に飛びかかった。狐妖狼の耳と尻尾のおかげで、身体能力が上がっているようだ。鳥の羽を押さえつけようとすると、それはバランスを崩し、セリューと伯爵を乗せたまま下にあったバルコニーに落ちる。追い詰められ、逃げ出した今の状況でも、伯爵はこちらを見て余裕の表情で言った。
「しつこいぞ。あれの息子は」
「……父のことですか?」
「ああ。もともとお前の父が持ってきた箱が招いたことだ──ぐ!」
話している途中の伯爵に駆け寄り、セリューはその男を締め上げた。すぐに伯爵は気を失う。
なんとか終わり、ホッとした。上を見上げると、ダンドがこちらに縄を投げてくれる。それで伯爵を縛り上げていると、羽を広げたオーフィザンが、バルコニーに降りて来た。
「よくやった。セリュー」
「……オーフィザン様…………………………あの……」
「どうした?」
「…………………………いえ。ご無事で何よりです……」
「そうか」
「……あの……」
「なんだ?」
「……その、証拠を集めるために、今回、その……少し無茶をしました」
「無茶? 何をしたんだ?」
「その……コリュムを感情的に殴りつけ締め上げました。気を失ったので、魔法の鎖で縛り上げ、あいつの屋敷において来ました……」
「それだけか?」
「いえ……その……フイヴァ家の屋敷から馬を盗んで、城の門を爆破しました……後は……その……城の中を馬で走ったくらいで……その……も、申し訳ございません……」
オーフィザンは笑っていた。
「お前はまだまだだな。好きにやれと言ったのに、その程度か」
「へ……? も、申し訳ございません……」
「まあ、いい。物足りないが、今回はよくやった。その耳と尻尾も似合っているぞ」
「あ、こ、これはダンドが……は、早くなんとかしてください!!」
オーフィザンはセリューを見て楽しそうに笑う。やっと終わった、そう思うと、体から力が抜けて行くようだった。
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