【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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38.お城に帰りたい

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 オーフィザン様は、倒れたパトの様子を確かめてから、僕らに振り向く。

「全員、傷を見せろ」

 僕とダンドは素直にそうしたけど、セリューだけは後ろに下がる。

 どうしたんだろう? いつもならセリューは、オーフィザン様の命令にはすぐに従うのに。

 ダンドが、僕を指して言った。

「俺は大丈夫です。クラジュを先にみてあげてください。奴らに拷問されたようで──わっ!!」

 オーフィザン様が、すでにボロボロだったダンドの服を開いて、彼の火傷のところをペロッと舐める。すると、そこを中心に、彼の火傷の跡が消えていく。

 傷を治す魔法も使えるんだ……やっぱり、オーフィザン様はすごい魔法使いなんだ。

 ダンドは、火傷をしていたところをなでていた。

「あ、ありがとうございます。助かったー……」

 オーフィザン様は、今度は僕の方にゆっくり近づいてきた。パトにあっさり捕まっちゃったことを怒られるかと思ったけど、オーフィザン様は何も言わずに僕の前に膝をつく。

 え? え? どうしたの? だって、普段は僕がそうする立場なのに……

 彼が、僕の腹の傷にそっと触れる。立っているだけで痛い体に触れられたのに、手が触れたところがひやっとして、気持ちいい。

「クラジュ……」
「……え?」

 どうしたんだろう……オーフィザン様、ひどく悲しそうな顔をしている。

「お、オーフィザン様? あ……」

 ……気持ちいい……傷にキス、されてる。少しだけ舐められて、ちょっとくすぐったい。あれだけ熱くて痛かった傷が、ゆっくり冷えて、癒えていく。

 もう痛くない。傷は全部、跡形もなく消えている。すごい……

「あ、ありがとうございます……オーフィザン様……」

 お礼を言うと、オーフィザン様は僕の頭を撫でてくれた。オーフィザン様の手、さっきは冷たくて気持ちよかったのに、今はすごく温かい。それにくすぐったい。オーフィザン様に触られていると、すごく安心する。この人のもとに戻って来られてよかった……

 オーフィザン様は、最後に、少し離れたところに行ってしまったセリューに振り向いた。

「セリュー、来い」

 呼ばれたセリューは、ますます後ろに下がる。

「わ、私は結構です。クラジュを探すために、かなりの魔力を使っているはずです。こんなことに魔力を使われては……」
「俺に逆らうな。来い」

 オーフィザン様は、全然セリューの言うことを聞かず、セリューに近づいて行く。セリューだって火傷をしているし、上着は僕の血を止めるのに、シャツはダンドの顔を拭くのに使ってしまったから、上半身が裸のままだ。

 オーフィザン様は、セリューの腕を捕まえて引き寄せて、彼の胸を舐めた。彼の傷も、すぐに消えていく。

 だけど、オーフィザン様が他の人にキスしてるみたいで、心がもやもやしてきた。怪我を治す魔法のためだから、仕方ないんだけど、僕以外の人にああいうことして欲しくない。

 うううー……まともに奉仕したことないくせに、こんなこと考えるの、図々しいのかな……? だけど、やだ……

 ちょっと拗ねて、オーフィザン様から顔をそむけていると、オーフィザン様がいきなり僕を抱き上げた。

「え……え、オーフィザン様?」
「……城へ帰る。ゆっくり休め……」
「で、でも……でも……あの……こ、狐妖狼のみんなが捕まってるみたいで……」
「他の盗賊どもも、すでにとらえた。狐妖狼は城に保護してある」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。行くぞ。ダンド、セリュー」

 オーフィザン様が二人に向かって言うと、二人の足元が急に光り、その体が浮き上がる。
 オーフィザン様も、僕を抱っこしたまま、竜の羽を広げた。

 空を飛ぶなんて初めてだ!! わ、わ! すごい!! 体が浮いてるみたい!!

 遠ざかって行く地面を見て、ちょっとはしゃいじゃう僕を、オーフィザン様はしっかり支えてくれた。

「落ちないようにつかまっていろ」
「は、はい!!」

 言われたとおり、僕はオーフィザン様にしがみついた。オーフィザン様にこうしてくっついていられるって、なんだか幸せ。ダンドも楽しそうだ。

「空飛ぶの、久しぶりだー」
「はしゃぐな、ダンド。オーフィザン様、私は自分で──わ!」

 驚くセリューの体に、オーフィザン様の魔法で現れた服が巻きつく。あれ、前にクローゼットで見たやつだ。

「セリュー、お前は黙ってそれを着ていろ」
「お、オーフィザン様! お言葉ですが、このようなことに魔力を使われるべきでは」
「行くぞ」

 オーフィザン様が、地面で倒れたままのパトを見下ろすと、その足元も光って、そいつも浮き上がった。

 その男のことが怖くて、オーフィザン様の服を握ってそれに顔を埋めていると、オーフィザン様は僕を抱きしめてくれた。

「城まで帰る。目を閉じていろ」
「は、はい!」

 耳元で風の音がする。オーフィザン様にしがみついていると、すぐに風の音は止んだ。

 恐る恐る瞼を開くと、そこはオーフィザン様の城の庭だった。

 近くにパトや他の盗賊たちが鎖で縛られたまま気を失っている。すぐに城から兵士さんたちが出てきて、そいつらを連れていった。王様やシーニュも、僕らに駆け寄って来てくれる。

 よかった……やっと帰って来られたんだ……
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