虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
96 / 117

96.絶対に渡しません!

しおりを挟む

「ちゃんと外してやっただろう。何を怒っているんだ?」

 そう言ってロヴァウク殿下は、わざとらしく首を傾げる。

 殿下は平然と話しているけれど、結界の操作はかなり難しい上に、多くの魔力を必要とする魔法。国中を探しても、使える人はそう何人もいないだろう。
 さっき殿下は、僕らが使い魔や刺客を倒したと言ってくれたけど、それも、殿下のこの結界からの援護射撃がかなりあったからできたことだ。
 強力な魔力で結界を操作して、使い魔たちの位置を探ることもできるらしいから、ずるいくらいの能力だ。

 しかも今日のロヴァウク殿下は絶好調で、やけに楽しそうだし、ろくなことが起こらない気がする。

 殿下は、ドロドロに溶けてしまった窓の、ほんの少しだけ残った窓ガラスを砕いて、崩れかけた窓枠だけになった窓の前に立って、空を見上げた。

「気持ちのいい風だな……しかし、少し窓が脆すぎるぞ。あの程度の火の魔法で、もう溶けているではないか。窓ガラスを強化するように、国中に触れ回るか……」

 どうやら本気らしいロヴァウク殿下に、ランギュヌ子爵はまだどこか怯えたような態度のまま言った。

「壊しておきながら何言ってるんですか……あんな魔法に耐えることができる窓ガラス、あるわけない……信じられない……」
「全くだ。窓枠も脆い」
「窓の話じゃありません!!」
「違うのか?」
「なんで今僕が窓の話を始めると思うんですか!! 僕の使い魔を壊して、僕の魔法使いたちを手にかけて、結界維持の道具や結界そのものまで……全部奪って、どういうつもりですか!!!! 王族だからって、全部強奪していいと思っているんですか!」
「貴様がそれを言うのか? 伯爵からこの城を奪い、領地を奪い、結界を奪い、町からは安全を奪い、果てはそこに住む民たちから住処すら奪った貴様が。俺は結界と使い魔くらいだ。俺の方が、よほど少ない」
「ふざけないでください!! それ、返してください!」

 ロヴァウク殿下が片手で弄んでいた結界維持の道具に、ランギュヌ子爵は飛びついていく。
 けれどあっさり避けられて、何度繰り返してもそれは同じ。

「返してください! 殿下!」
「何をだ? これは俺のものだ」

 さすがにそろそろ見ていられない。あと、子爵が殿下に飛びついてるのも、なんか嫌だ。

「ロヴァウク殿下。意地悪はやめてください。返す気なんて、まるでないくせに」

 僕が止めると、殿下はなんだかニヤニヤしながら、僕に振り向く。

「確かにないが、せっかくのもてなしの品を無視し続けていることにも、心が痛んできたな……」

 わざとらしく言って、殿下は空を見上げる。空を飛ぶ使い魔は、結界に阻まれて入ってこれないみたいだ。

「あの程度、俺が相手をしてやってもいいが……」

 余裕の様子の彼を見て、ランギュヌ子爵の顔が苛立ったように歪む。

「……強がりを言わない方がいいんじゃないですか? あれを操って、殿下が本来守るべきものを破壊しに行かせてもいいんですよ?」
「それは、使い魔に街を破壊させるということか?」
「さあ? どうでしょう?」
「あれを捻り潰したら、貴様自身が来い。その魔力、俺が叩き潰してやろう」
「…………できると思ってるんですか? あまり思い上がらない方がいいですよ? ここは、僕の城です。僕の縄張りなんだから、魔法でも僕が勝ちます」
「貴様の城ではないだろう。あれを始末したら、ディロヤル伯爵を出せ」
「い、や! で、す! 王族といえども、そんな権限ないはずです!!」
「ここはディロヤル伯爵の城で、伯爵の領地だ。そして俺は、結界について伯爵と話したいだけだ。今すぐ伯爵を出せ。さもなければ、貴様のその頭ごと、空に浮かぶ玩具を吹き飛ばすぞ」
「脅しですか? そんなもの、僕は怖くもなんともありません。ディロヤル伯爵は絶対に渡しません」
「渡すな。いらん。貴様の横に連れてこい」
「そんなことを言って、僕が騙されると思っているんですか? 絶対に帰ってもらいますから」
「ずいぶんな自信ではないか」
「当然です……今、空を飛んでいる使い魔は、あなたが刺客だと喚いていたものとは比べ物になりませんよ?」
「チミテフィッドのことか? あれは本気で、街を守る勇者として期待されたと思ったらしいぞ。純粋な馬鹿を騙すのはやめろ」
「身の程をわきまえればいいだけです……」
「身の程だと?」
「そうです。あの男の魔力なんて、ちょっと魔物と戦えなくもない程度のものではありませんか。殿下も、いいんですか? こっちにいて。にわか作りの結界では、街を守りきれませんよ」

 それを聞いたロヴァウク殿下は、勝ち誇った様子で腕を組んだ。

「誰よりも身の程が分かっていないのは、貴様の方だ。街はすでに守られている。俺の出る幕など、最初からない」
「は?」
「向こうには、俺が信頼する連中がいる。俺が行かなくても、なんの問題もない。貴様が今しがた身の程を弁えろといって切り捨てたチミテフィッドも、今は街で先頭に立って魔物と戦ってくれているぞ」
「あいつが……? どいつもこいつも…………僕の邪魔ばかりして……!」
「……さて、後はこっちか…………」

 殿下はそう言って、空を見上げる。そこには、ロヴァウク殿下を狙う使い魔がいるが、やはりロヴァウク殿下の態度は変わらなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...