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67.一体お前は何なんだ!
しおりを挟む答えて頷いたチミテフィッドは、僕に振り向いた。
「レク……俺がこんなこと言うのもおかしいのかもしれないけど……気をつけてね」
「……僕は大丈夫です。任務中に死なない術は身につけています。あなたこそ、魔物と詐欺師にはくれぐれも気をつけてください。金貨あげるって言われても、ついて行かずに避難を優先してください」
「分かってるよ! そんなこと!! 俺、そんなに騙されないから!」
言い返すチミテフィッドを見ていると、やっぱり心配。だけど、今は彼に頼るしかない。
空からいくつも、殿下の光の矢が落ちてくる。それは僕らを取り囲んでいた魔物を次々打ち抜いて、道を作る。
「その連中を連れて逃げろ。中で熟睡している奴らも、そろそろ起きる。連れて行け」
殿下が指差した、壁と屋根が吹き飛び崩れかけた廃墟で、倒れていた人が起き上がるのが見えた。さっき殿下の光の矢に打たれて倒れていた人たちだ。彼らの体には傷ひとつない。
全員眠らせただけだったんだ……殿下が無闇に人を傷つけたりしないだろうと思っていたけど……それならそうと言ってくれ! びっくりして損した!
チミテフィッドは、周りの人たちに「ついてこい」と言って、彼らを連れ、殿下が作った道を走って行く。人が倒れていた建物に、割れた窓から入って行って彼らを助け起こしているのを見ると、少し安心した。
逃げる人たちのことは、彼に任せておけばいい。警備隊の部隊に合流すれば、保護してもらえるはずだ。
けれど、チミテフィッドについて行った奴らばかりじゃない。
何人かは「俺は行かない」と言って、空の上のロヴァウク殿下を睨みつけている。殿下に散々からかわれて、だいぶ腹を立てているらしい。
一人は、さっき殿下に向かって魔法を放とうとした男で、もう一人は、魔法を放って僕の結界に阻まれた男、あとは後から出て来た男たちだ。彼らは、殿下の魔法の威力や、集まった魔物の群れを目の当たりにしても、ここに残った。かなり腕に覚えのある人たちなんだろう。
誰もが殿下を見上げているけれど、さっきとは違い、殿下を罵る奴はいない。
何しろ今、殿下の方には街中から魔物が集まっているんだから。
それすらも軽くあしらうような様子で、殿下は湧いてきた魔物を次々に光の矢で貫いていく。相変わらず、恐ろしくなりそうなほどの魔力だ。
殿下は、魔物を斬り払いながら、楽しそうに声を上げた。
「レク!! 思っていたより集まったなあ!」
「あ、集まったって……?」
「人だ! 足りなかったのだろう!?」
「は!?」
確かにここには、チミテフィッドにはついて行かずに残った人たちがいる。
だけどみんな、集まったというより、腹を立てて飛び出して来ただけだし、みんな警備隊を憎んでいる。
「確かに集まりましたけどっ……! これ、集まったって言いませんよね!??」
「もちろん言う。これだけ人が集まったんだ。ここで魔物を一掃するぞ!」
「そんな無茶なっ……」
って言っても、もうこれだけの魔物が集まっていて、僕らはみんな囲まれてしまった。戦うしかない。
殿下が、空の上から彼らを見下ろして叫んだ。
「貴様ら! よく集まった!! 褒めてやるぞ!!」
「ざっけんな!! 舐めてんのか!」
殿下に向かって怒鳴り返したのは、さっきも一番に殿下を怒鳴りつけた人。魔法の実力もさることながら、貴族への怒りも人一倍らしい。
けれど、こうして怒鳴って楯突かれることが大好きなのが、あの困った第五王子殿下。
殿下は、嬉々として彼らに宣言する。
「舐めてなどいない。それより、残ったからには手を貸せ」
「誰がてめえらになんかっ……! 降りて来い! ぶっ殺す!!」
「いいのか? 今降りたら、俺に集る魔物どもも連れて行くことになるぞ!!」
「……っ!」
男は黙ってしまう。
殿下に飛びかかる魔物の数は、地上の比じゃない。ただでさえ地上にも魔物が溢れているのに、あんな数の魔物たちが全部降りて来たら、僕らは全員殺される。
「ちっ……!」
舌打ちをして、男は自分に飛びかかって来た魔物を、魔法で一刀両断にした。やっぱり殿下に向かっていくだけある。彼も、かなりの魔力を持っている。
殿下はその様子を見下ろして、楽しげに叫んだ。
「貴様ら!! 警備隊が気に入らないと言うなら、そこにいる二人より多く魔物を狩って見せろ! そいつらより多く魔物を倒せたその時は、俺が貴様らに、この場所を返してやろう!」
それを聞いて、彼らがざわざわと騒ぎ出す。
けれど、突然そんなことを言われたって、信じられないだろう。
一番最初に殿下に向かって魔法を放った男が、屋根で魔物を斬り払う殿下を指差して怒鳴る。
「何言ってやがる!!!! 出来もしねえくせに!! ここはすでにっ…………貴族どもの所有物なんだよっっ……!!」
「だからなんだ?」
「るせえっっ……! てめえに何が分かるっっ! 俺たちはっ……! お前らみてえな貴族に奪われたんだ!! 全部っ……お前らが持っていったんだっ!! 全部……お前らがっ……!」
ひどく悲痛な声だった。涙すら混じりそうなのに、すでに泣き疲れているのか、彼は泣いてはいなかった。
警備隊相手に罠を仕掛けたりすれば、本来は捕縛の対象になる。今は魔物退治の最中だけど、そうでなければ誰が仕掛けたのか調べて、仕掛けた人は拘束される。
それに、警備隊のほとんどは貴族。この街の警備隊も、昔はそうだったに違いない。そんな人たち相手に、さっきと同じことをして、ただで済むはずがない。衝突することや、裏で仕返しをされることだってあったはず。それでも続けて、何も返ってこなかったんだ。返るはずがない。こんなこと繰り返したって、ここを奪っていった富豪も貴族も、痛くも痒くもないんだから。
けれど、今にも崩れてしまいそうな彼を前に、ロヴァウク殿下が笑う。
「それは聞いた。だからなんだ?」
「なんだと……」
「案ずるな。俺は一週間で隊長になり、二週間で領主になり、明日には王になる。貴様らにここを返すことなど、造作ない」
「何言ってんだてめえっっ!! イカれてんのか!??」
男たちは次々に怒鳴り出し、クロウデライは僕に振り向いて「あいつなんなんだ?」と聞いてくる。
何なんだと言われても、答えられるはずない。
殿下……正体隠すの忘れてないよな?
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