虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
68 / 117

68.なんで近づいちゃダメなんですか?

しおりを挟む

 殿下は、王家の紋章が描かれた弓を構えながら言う。

「どちらでも好きな方を選べ。俺と来るのが嫌だと言うなら、来なくていい。逃げると言うなら好きに逃げればいい。しかし……逃げられるかなぁ?」

 ニヤーーッと笑う殿下。

 逃げたいなら逃げろと言われても、簡単に逃げられるはずがない。だって、すでに周りには魔物が溢れている。逃げたければ行け、なんて言われたって、結局魔物をなんとかしなければ、逃げることもできない。
 早い話、逃げるにしろ手を貸すにしろ、どっちにしたって、結局は魔物と戦うしかないんだ。

 すでに魔物は、僕らに迫ってきている。

 僕はみんなに、強化の魔法をかけた。

「強化の魔法をかけました! これで多少は魔物の攻撃から体を守れるはずです!」
「るせえっ!! 声かけんな! 貴族!!」

 ……クロウデライと同じことを言われた。けれど何もしなければ、僕らは死ぬだけだ。

 集まった彼らは、各々の武器で魔物に飛びかかっていく。

 僕は魔力の剣を振りかぶり、空を飛んで魔物を斬り払って、殿下に近づいた。

「殿下! なんの真似ですか!」
「人を集めただけだ」
「これを集めたとは言いません! 引きずり出したって言うんです!」
「どっちでもいい。だいぶ集まった。さっさと魔物を倒すぞ」
「何か策でもあるんですか!?」
「もちろんある。片っ端から殴り潰す」
「それは策とは言いません!!」







「ああー…………疲れたぁ……」

 全ての魔物が消え去る頃、僕はくたくただった。

 ロヴァウク殿下は無茶をしすぎだ。市民は守るべき対象なのに、引っ張り出して戦わせるなんて。

 だけど、無理やり集まった住民たちのお陰で、魔物退治は無事に終わった。僕らだけだったら、もう少し手こずっていたし、街にも被害が出ていた。

 ロヴァウク殿下は、魔物との戦いで傷ついた人たちに回復の魔法をかけている。
 やっぱり、殿下の魔法はすごい。攻撃も、回復の魔法も、僕の魔法の比じゃない。やっぱり羨ましいな……

 けれど、無理やり引っ張り出されて、しかも無理やり魔物と戦わされた人たちは、ひどく腹を立てているようだ。
 一番最初に殿下に魔法を撃とうとした男が、殿下を睨みつけて言った。

「てめえっ……礼は存分にさせてもらうぞ……」
「好きにしろ。それより、貴様のその魔法は、どこで身につけた?」
「…………関係ねえだろ」
「素晴らしい腕だ」
「はあ?」
「あれだけ強力な魔物を切り裂いていただろう」
「……喧嘩売ってんのか……?」
「勝つと分かっていて弱いものを嬲るような趣味はない。俺がいじめているようではないか」
「……てめえ……」
「名はなんと言う?」
「誰が名乗るか」
「ギンケール」
「なんで知ってやがるっっ!!」
「魔物と戦う間、貴様の仲間がそう呼んでいた」
「ムカつく野郎だな……一体何者だ?」
「そんなことはどうでもいい。ギンケール、忠誠を誓え。大人しく跪くと言うなら、王城の魔法使いとして迎えてやる」
「んなもん誰が誓うか! さっきからなんなんだ……てめえなんかが王族のわけねえ! 貴族かどうかも怪しいわ!!」
「そのいきの良さこそ、俺が欲しかったものだ!!」

 だめだな……あれ。あの人が怒鳴れば怒鳴るほど、ロヴァウク殿下を喜ばせちゃってる。

 王家の紋章がついた弓をずーーっと打ってたのに、誰も殿下が王族なんて気づいてない。ギンケールたちには、殿下の言っていることが、口から出まかせとしか思えないのだろう。
 彼は殿下の手を振り払う。

「さわんな!! 今度見かけたら……てめえの仲間ごと、ぶっ殺してやる!!」

 そう言って彼は、仲間たちと一緒に逃げていった。

 だけど、殿下が気に入った連中を逃すはずがない。ニヤニヤ笑いながら、彼らの逃げていく方を眺めている。

 よっぽど気に入ったみたいだな……

 別にいいんだけど。

 僕の目の前で、僕以外の奴に目をつけるなんて……

 僕の方がいっぱい魔物を倒したのに……
 僕の方が、魔法だって、ちょっとくらいは上手だと思うんだけどな……回復は絶対あっちのほうが上なんだけど……

 初対面の人に殿下が目をつけただけで、なんだかもやもやする。

 俯くばかりの僕に、クロウデライが近づいてくる。

「レク……お前、警備隊の仕事をしたことがあるのか?」
「えっっ……!??」
「そういう動きだったから。初めてじゃねえだろ?」
「それは……えっと……」
「…………あの強化の魔法はどうやったんだ?」
「あれは我流で……ライイーレ……じゃなくて……と、とある魔法使いのところで働いていたときに身につけたものです……」
「ふーーん…………」
「……あの…………うわっっ!」

 突然、強い力で後ろから抱き寄せられて、僕はびっくりした。誰かと思えばロヴァウク殿下じゃないか。

「で、殿下っ……!?? ち、ちょっ……い、いたぃっ…………!」

 やけに強く抱きしめられて、体が痛い。どうしたんだ? な、なんだか緊張するからやめてほしい。

「あ、あの……殿下?」
「……貴様は俺の好敵手だ…………他の男に近づくな……」
「……? 好敵手だと、なんで近づいちゃダメなんですか?」

 言って振り向くと、彼はなぜか怒っているらしく、ひどくムッとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

守護霊は吸血鬼❤

凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。 目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。 冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。 憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。 クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……? ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...