虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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68.なんで近づいちゃダメなんですか?

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 殿下は、王家の紋章が描かれた弓を構えながら言う。

「どちらでも好きな方を選べ。俺と来るのが嫌だと言うなら、来なくていい。逃げると言うなら好きに逃げればいい。しかし……逃げられるかなぁ?」

 ニヤーーッと笑う殿下。

 逃げたいなら逃げろと言われても、簡単に逃げられるはずがない。だって、すでに周りには魔物が溢れている。逃げたければ行け、なんて言われたって、結局魔物をなんとかしなければ、逃げることもできない。
 早い話、逃げるにしろ手を貸すにしろ、どっちにしたって、結局は魔物と戦うしかないんだ。

 すでに魔物は、僕らに迫ってきている。

 僕はみんなに、強化の魔法をかけた。

「強化の魔法をかけました! これで多少は魔物の攻撃から体を守れるはずです!」
「るせえっ!! 声かけんな! 貴族!!」

 ……クロウデライと同じことを言われた。けれど何もしなければ、僕らは死ぬだけだ。

 集まった彼らは、各々の武器で魔物に飛びかかっていく。

 僕は魔力の剣を振りかぶり、空を飛んで魔物を斬り払って、殿下に近づいた。

「殿下! なんの真似ですか!」
「人を集めただけだ」
「これを集めたとは言いません! 引きずり出したって言うんです!」
「どっちでもいい。だいぶ集まった。さっさと魔物を倒すぞ」
「何か策でもあるんですか!?」
「もちろんある。片っ端から殴り潰す」
「それは策とは言いません!!」







「ああー…………疲れたぁ……」

 全ての魔物が消え去る頃、僕はくたくただった。

 ロヴァウク殿下は無茶をしすぎだ。市民は守るべき対象なのに、引っ張り出して戦わせるなんて。

 だけど、無理やり集まった住民たちのお陰で、魔物退治は無事に終わった。僕らだけだったら、もう少し手こずっていたし、街にも被害が出ていた。

 ロヴァウク殿下は、魔物との戦いで傷ついた人たちに回復の魔法をかけている。
 やっぱり、殿下の魔法はすごい。攻撃も、回復の魔法も、僕の魔法の比じゃない。やっぱり羨ましいな……

 けれど、無理やり引っ張り出されて、しかも無理やり魔物と戦わされた人たちは、ひどく腹を立てているようだ。
 一番最初に殿下に魔法を撃とうとした男が、殿下を睨みつけて言った。

「てめえっ……礼は存分にさせてもらうぞ……」
「好きにしろ。それより、貴様のその魔法は、どこで身につけた?」
「…………関係ねえだろ」
「素晴らしい腕だ」
「はあ?」
「あれだけ強力な魔物を切り裂いていただろう」
「……喧嘩売ってんのか……?」
「勝つと分かっていて弱いものを嬲るような趣味はない。俺がいじめているようではないか」
「……てめえ……」
「名はなんと言う?」
「誰が名乗るか」
「ギンケール」
「なんで知ってやがるっっ!!」
「魔物と戦う間、貴様の仲間がそう呼んでいた」
「ムカつく野郎だな……一体何者だ?」
「そんなことはどうでもいい。ギンケール、忠誠を誓え。大人しく跪くと言うなら、王城の魔法使いとして迎えてやる」
「んなもん誰が誓うか! さっきからなんなんだ……てめえなんかが王族のわけねえ! 貴族かどうかも怪しいわ!!」
「そのいきの良さこそ、俺が欲しかったものだ!!」

 だめだな……あれ。あの人が怒鳴れば怒鳴るほど、ロヴァウク殿下を喜ばせちゃってる。

 王家の紋章がついた弓をずーーっと打ってたのに、誰も殿下が王族なんて気づいてない。ギンケールたちには、殿下の言っていることが、口から出まかせとしか思えないのだろう。
 彼は殿下の手を振り払う。

「さわんな!! 今度見かけたら……てめえの仲間ごと、ぶっ殺してやる!!」

 そう言って彼は、仲間たちと一緒に逃げていった。

 だけど、殿下が気に入った連中を逃すはずがない。ニヤニヤ笑いながら、彼らの逃げていく方を眺めている。

 よっぽど気に入ったみたいだな……

 別にいいんだけど。

 僕の目の前で、僕以外の奴に目をつけるなんて……

 僕の方がいっぱい魔物を倒したのに……
 僕の方が、魔法だって、ちょっとくらいは上手だと思うんだけどな……回復は絶対あっちのほうが上なんだけど……

 初対面の人に殿下が目をつけただけで、なんだかもやもやする。

 俯くばかりの僕に、クロウデライが近づいてくる。

「レク……お前、警備隊の仕事をしたことがあるのか?」
「えっっ……!??」
「そういう動きだったから。初めてじゃねえだろ?」
「それは……えっと……」
「…………あの強化の魔法はどうやったんだ?」
「あれは我流で……ライイーレ……じゃなくて……と、とある魔法使いのところで働いていたときに身につけたものです……」
「ふーーん…………」
「……あの…………うわっっ!」

 突然、強い力で後ろから抱き寄せられて、僕はびっくりした。誰かと思えばロヴァウク殿下じゃないか。

「で、殿下っ……!?? ち、ちょっ……い、いたぃっ…………!」

 やけに強く抱きしめられて、体が痛い。どうしたんだ? な、なんだか緊張するからやめてほしい。

「あ、あの……殿下?」
「……貴様は俺の好敵手だ…………他の男に近づくな……」
「……? 好敵手だと、なんで近づいちゃダメなんですか?」

 言って振り向くと、彼はなぜか怒っているらしく、ひどくムッとしていた。
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