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30.王子と……僕?
しおりを挟む怒り狂う殿下を前に、僕はオロオロするばかりだ。
小屋の方から、殿下と一緒に食事をしていた魔法使いたちが走ってくる。
道を塞いでいる竜だけは、のんきにあくびをしていた。
僕の前に立ち塞がる殿下の足元から、あの魔法の水が浮き上がってくる。
禍々しい水を纏い、僕の前で腕を組む殿下が、強い魔力を操っている。
本気で戦うつもりらしい。
「せっかく待っていたんだ……俺のことも楽しませろ」
「へっ……! うわっ……!!」
殿下が飛ばした魔法の水が、僕に迫ってくる。僕に襲いかかるそれは水の鞭のようで、慌てて後ろに下がって避けた。
だけど、背中に人を担ぎながらじゃ、うまく戦えない。強化してあるとはいえ、自分より身長の高い男を一人担いでいたんじゃ、動きだって制限されてしまう。
片手だけで魔力の剣を作り出し、斬り払う。
水はすぐに消えていくが、次々に新しい水が飛んでくる。
本気の殿下と戦うには、こちらも本気で応戦するしかない。チミテフィッドのことは、どこかに置いて戦いたいところだが、そんなことをすれば、チミテフィッドの方に注意がいかなくなり、僕の注意がそれた隙に、目を覚ました彼に逃げられてしまうかもしれない。
「で、殿下!! どうかおやめください!! あのっ……心優しい市民の人がどうなってもいいんですか!?」
「人質か!? なかなか卑怯な真似をするではないか!」
なんでそうなるんだ。背中に人質を担いで王子に会いになんか行くものか。
殿下が操る水は、どれだけ切ってもしつこく僕に迫ってくる。
「レクレット!! 俺と貴様はなんだ!?」
「な、なんだって言われてもっ……!」
少し考えながら、殿下の水を切り付けて、僕は、思い付いた答えを口にした。
「王子殿下と…………僕?」
他に何も思いつかなかった。
だって、殿下は王子だけど、僕はなんでもない。強いて言えば、追い出された奴隷だろうか。
苦し紛れの返事だったのに、ロヴァウク殿下はやけに感心したようだ。
「……王子である俺と自分を並べてみせるとは……」
「へ?! い、いえっ……! と、とんでもございません!! そ、そんなつもりは……」
「恐縮する必要はないっ!! それでこそ、貴様だ!」
それでこそ僕って、どういう意味なんだろう……よく分からないが、褒めてくれるのなら、攻撃するのはやめてほしい。
足元から、殿下の操る水が噴き出してくる。
僕はそれを、空に飛び上がって避けた。
木々の合間を高速で飛ぶと、追ってくる水たちは木の幹に阻まれて弾ける。
けれど、小さな水の玉になったそれは、今度は僕めがけて散弾のように木の幹に穴を開けながら飛んでくる。
僕には戦うつもりなんてないのに!!
「殿下! 話を聞いてください! 待たせてしまったことは申し訳ございません! 次は、もっと急ぎます!! な、なんなら、先に着くように気をつけます!」
「それは俺への宣戦布告か?」
「は!??」
なんで今のが宣戦布告になるんだよ!!
そもそも、殿下がここに人をいっぱい集めて待ち伏せしてるから、僕はこんなことになっているのに、なんで僕から喧嘩を売ったようになっているんだ!!
「殿下!! 決して、宣戦布告などではなく……」
「俺を相手にそんなことが言えるとは、いい度胸だ!」
今度は殿下の魔法の水が、空から降ってくる。
防御の魔法で何とか守るが、このままじゃ子爵の刺客まで殺される。せっかく色々聞き出すチャンスなのに!
「殿下! 話を聞いてください!! ほ、本当に違います! この人はし……」
子爵側の人、そう叫ぼうとして、すぐに口をつぐんだ。
殿下の周りには、人がいる。子爵側の人たちかもしれないのに、ここで大きな声でそんなことを言うわけにはいかない。
ていうか、駆け寄ってきた人たちはみんな、殿下を止めようとしないし、僕を止めようともしない。むしろ、僕らの戦いをみんなで眺めているように見えるんだが。
「すごい魔法だ」なんて言ってないで、殿下を止めてくれ!
こうなったら、できるだけ殿下のそばに行って、殿下に話を聞いてもらうしかない。
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