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31.僕の敵は、殿下だけです!
しおりを挟む作戦を考えている間にも、殿下の魔法は、僕を捕らえようと向かってくる。聞いてくださいって叫んだところで、無駄なんだろう。
かと言って、あまり時間もかけられない。僕が拘束したチミテフィッドだって、こんなことをしている間に、逃げる算段を立てているはず。
僕は、地面に降り立ち、チミテフィッドに眠りの魔法をかけた。
隙を見せた僕に、殿下の魔法の水が一斉に向かってくる。
もう避けることはせずに、腕を強化してその水を受け止めた。殿下の魔力がこもった水が、僕の腕にまとわりつく。
僕は、それに自分の魔力を込めて、自分の周りを囲ませた。
「なにっ……!??」
殿下は、驚いているようだった。それもそのはず、僕は、殿下が操る魔法の水で自分の周りを囲んだんだから。
自分の首に触れると、そこにある首輪が光りだし、僕の魔法を封じる。これでもう、僕には魔法も使えない。
これで、殿下が少し水を操れば、僕はなすすべなく倒されるしかなくなった。
ついでに、持っていた武器を全部放り出して、丸腰になる。
「殿下っ……! 落ち着いてください! 僕は、殿下と話がしたいだけです! うわあああっ!!」
話の途中に飛んできた魔法の水を避ける。
あの王子、僕の話を聞いてない! というか、僕が話を始めるなんて、思ってなかったんだ。勝負に夢中で。
なんで僕がこんなことで苦労してるんだ! 僕は賊の話をしにきたのに!!
「殿下! ……だっ……だいたいっ……!! ……僕の敵はっ、殿下だけですっっ!!」
怒りを込めて叫びながら、飛んできた魔法の前に立ってやった。
腹は立つが、なぜかこうして殿下を信じた賭けに出てしまう。
殿下は怖い人だし、僕を嬲っては訳のわからないことを言って喧嘩を売ってくるけど、話の分からない人じゃない。殿下は、僕と魔法の腕比べがしたいだけだ。
だけど、少なくとも今は、そんなことをしている場合じゃない。子爵の刺客が来ているのだから。これを放っておけば、一番危ないのは殿下じゃないか!
わざわざ殿下の魔法で自分を取り囲んだのも、丸腰になったのも、自分で自分の魔法を封じたのも、降参の宣言だ。僕がこうすれば、殿下はもう攻撃してこないと見越しての。
こうしてしまえば、僕に魔法は使えないし、戦う術もない。もう勝負はできなくなったのだから、殿下にも僕を攻撃する理由がなくなるはず。
それでも殿下が攻撃してきたら、僕は倒されるしかなくなるんだけど…………
僕の目の前まで迫っていた水が、突然すべて四散する。
殿下の操っていた水は、光の粒になって空に消えて行った。
少し体が濡れたけど、それだけだ。
攻撃を止めてくれた殿下は、首を傾げていた。
「どうした? レクレット。貴様ほどの男が、怖気付いたわけではあるまい。何かあったのか?」
「あと少し早く聞いてください……結構怖かったので」
本当に、死ぬかと思った。
殿下が魔法を止めてくれたので、僕は木のそばで眠らせたチミテフィッドを、もう一度担いで、殿下に耳打ちした。
「……森の中で僕を襲ってきた男です。おそらくランギュヌ子爵の手駒です」
「なんだと?」
殿下はすぐに理解してくれたらしく、首輪をつけたまま見上げる僕を、ニヤリと笑って見下ろした。
「よく連れてきた。レクレット」
「い、いえ……僕は何もしていません。森を歩いていたら、勝手に出てきたんです。殿下も、お会いになられていますよね?」
「多分な」
「多分?」
「命知らずにも襲いかかってきた愚鈍な男を吹き飛ばしたような気がするが、あまりに弱かったので覚えていない。相手をしてやる理由が全く見出せない雑魚の顔を、貴様はいちいち確認するのか?」
「します」
「そうか。では、明日からやめろ。時間の無駄だ。問答無用で殴り飛ばせ」
「捕縛されるので嫌です」
顔も確認せずに殴り倒したの……? チミテフィッドが聞いたら、ショックを受けそうだ。
何だか笑えてきそうな僕の首輪を、殿下が指差して触れた。
「これは、自分でも使うことができるのか?」
「………………はい……普段は、仕置きの時に僕が反撃しないように、戦う力を封じるために使われていました。仕事中はそれだと魔物と戦えないので、あまり使われたことはありませんが…………」
たまに、魔物の目の前に立っているときに使われたりもしてたけど……
あの時は、魔物の群れに殴り飛ばされて、酷い目にあった。
……なんで僕はこんなことを思い出しているんだ。こんなこと考えたくないのに、どうしても頭の中にちらつく。
「ほ、本当はっ……犯罪者を取り押さえるときに使うもので……魔法は使えなくなるし……羽や、爪だって使えなくなるんです! 強化も無効化されちゃうし……僕は反逆者じゃないんですけど………………えっと……べ、便利でしょう?」
変に饒舌になってる。
だって、嫌だ……殿下にこんなところを見られるの。
今、殿下が拘束したチミテフィッドよりも、僕の方がずっと、反逆者で罪人らしい格好をしている。力を奪い、体を痛めつけるための首輪をつけられ、持っている武器も、髪だって、魔物との戦闘で焼き切られて少し焦げて、服にも、鞭で破られたあとがある。
俯いていると、僕の首輪が、急にドロリと水のように溶け始めた。殿下の魔法だ。
「うわっ……! な、なにっ……!?」
驚いて飛びのこうとする僕の首輪を、殿下は握ってむしり取ってしまう。
嘘だろ……すごく頑丈な首輪なのに。
乱暴にむしり取られたのに、僕の首は全く傷ついていない。
溶け落ちる首輪を、殿下は踏みつけて、魔法で焼き払ってしまった。
「力を封じるなどという、この上なく無駄なことは、貴様には必要ない」
「殿下……」
「俺が新しいものをやろう」
「え……?」
「今度は、貴様を強化する首輪にする。それをつけて、存分に俺と戦え」
「……封じるとか強化とか関係なく、そんなものいりません」
って言っても、この王子が聞いてくれるはずがないのだが。
殿下は先程まで不機嫌そうだったのに、今は、いいことを思いついたと言わんばかりに楽しそう。
「そうだ……また先ほどのように、俺との勝負の最中に勝手に力を封じることがないように、力を封じることを封じる首輪にしよう」
「なんですかそれ聞いたことないです!! 絶対にいりません!」
「なぜ遠慮する? 妙技を見せた褒美だ。美しいものを贈ってやる。跪いて受け取れ。レクレット」
「遠慮じゃなくて、心底いらないから断っているんです。いりません」
「貴様がいるかいらないかなど、どうでもいい。俺が貴様に贈りたいから贈るのだ」
「……そんなもの、絶対につけません……贈っても無駄ですよ! 今度は僕が焼き払ってやります!」
「それでこそ貴様だ! 王に逆らうか!」
「じゃあ殿下が国王になったらつけてあげます! 国王になったら!!」
「では受け取れ! 俺はすでに王だ! 泣き喚いて感謝することを許可してやる!!」
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