3 / 117
3.他人なんか、全部、敵
しおりを挟むロヴァウク殿下に無理やり連れてこられた部屋は、客を泊めるための部屋で、お風呂がついている。僕はこの部屋には掃除する時にしか入っていないが、どこに何があるかは分かっている。
僕は、逃げるように風呂場に飛び込んだ。
ドロドロになった服ごと入って、そこで服の泥を落とす。自分がこのシャワーを浴びる日が来るなんて、思わなかった。
髪の毛を洗うのも久しぶりだけど、傷が痛むのが最悪だ。まだ出血だって止まってないのに!!
苛立ちながら服を脱いでいたら、僕の頭にこんっと何かがぶつかる。振り向いたら、床に小さな瓶が落ちていて、風呂場に立ち込めた湯気の向こうに、瓶を指差す手が見えた。
「使え。回復の薬だ」
ロヴァウク殿下の声だ。あいつが僕の頭に瓶をぶつけたんだ。なんですか? 王子がこんな程度の低い嫌がらせですか?
「………………ひ、必要ありませんっ……!」
回復の薬なんて、嘘に決まっている。そんなものを、王族が、王族を誑かそうとした淫魔なんて呼ばれている僕に渡すはずがない! どうせ、僕の魔力を奪う薬か、そうでなければ体の自由を奪うものだろ!
だけど、僕が断ると、ロヴァウク殿下は風呂まで入ってきた。
何考えてるんだこの人!! 僕、裸なんですけど!??
彼は服を着たまま入ってくるから、僕の持っていたシャワーのお湯が、彼のローブの王家の紋章にかかってしまう。これ……また仕置きされる!?
けれど殿下は、そんなことには構わず、僕に近づいてきた。
「面倒な捨て犬だ」
「す、捨て犬ではありませんっ……ぼ、僕は、人族で……」
「では、面倒な捨て人族だ」
「捨て人族!!??」
なんだこいつっ……!! 人を物みたいに言って、どういうつもりだ!!
犬って言うなら、そっちの方が犬っぽいじゃないか!! 頭に狼の耳とかあるしっ! ちょっと王族だからって偉そうにっ…………!
腹を立てる僕の前で、ロヴァウク殿下は瓶の蓋を開けると、それを無理やり僕の口の中に突っ込んできた。
「ぐっ……!!」
何するんだこいつっ……!!
瓶の中のものを無理に口の中に流し込まれて、僕は何度も咳き込んだ。
「な、何するんですかっ……お、王族だからって……!」
「怪我を治してやったのだ。跪いて感謝しろ」
「…………っ!!」
なんで無理やり口に瓶突っ込まれて感謝しなきゃならないんだ!!
苦しくてその男の体を振り払うと、そいつは突き飛ばされたにも関わらず、怒り出すようなことはしなくて、無言で風呂を出ていく。
濡れたマントを見送ると、殴りかかりたいくらいに腹が立った。
ムカつく……なんなんだあいつ!! 馬鹿にしやがって……!! 王族でなかったら、後ろから火の魔法で貫いてやったのに!!
落ちていた瓶を拾い上げる。僕がさっき飲まされたものだ。それは、確かに回復の薬の瓶だった。
だけど、瓶だけ本物で、中身は毒かもしれない。王族だ王族だと繰り返すが、そんな奴らが僕にこんなことをする理由がない。
拾い上げた瓶を、さまざまな方向から眺める。中に少しだけ残った液体も、特に代わったところは見当たらない。変な匂いもしない。
僕はこれでも、命に危険が及ぶものには敏感なつもりだ。毒じゃないのか……腕の傷も治ったし……
どうやら本当に回復の薬を飲まされたみたいだけど、こんなものを、なぜ僕に?
あのロヴァウクって王子……どういうつもりだよ…………
もしかしたら、これは罠かもしれない。僕を油断させて、何かを企んでいるのかもしれない。
こんなことしていられない。こんなところで裸でいたら、風呂に魔法を打ち込まれた時に対処が遅れる。早く服を着て外に出なきゃ。
僕は王族なんか信じない。他人なんか、全部敵だ。
147
お気に入りに追加
931
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした
メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました!
1巻 2020年9月20日〜
2巻 2021年10月20日〜
3巻 2022年6月22日〜
これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます!
発売日に関しましては9月下旬頃になります。
題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。
旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~
なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。
────────────────────────────
主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。
とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。
これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる