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3.他人なんか、全部、敵
しおりを挟むロヴァウク殿下に無理やり連れてこられた部屋は、客を泊めるための部屋で、お風呂がついている。僕はこの部屋には掃除する時にしか入っていないが、どこに何があるかは分かっている。
僕は、逃げるように風呂場に飛び込んだ。
ドロドロになった服ごと入って、そこで服の泥を落とす。自分がこのシャワーを浴びる日が来るなんて、思わなかった。
髪の毛を洗うのも久しぶりだけど、傷が痛むのが最悪だ。まだ出血だって止まってないのに!!
苛立ちながら服を脱いでいたら、僕の頭にこんっと何かがぶつかる。振り向いたら、床に小さな瓶が落ちていて、風呂場に立ち込めた湯気の向こうに、瓶を指差す手が見えた。
「使え。回復の薬だ」
ロヴァウク殿下の声だ。あいつが僕の頭に瓶をぶつけたんだ。なんですか? 王子がこんな程度の低い嫌がらせですか?
「………………ひ、必要ありませんっ……!」
回復の薬なんて、嘘に決まっている。そんなものを、王族が、王族を誑かそうとした淫魔なんて呼ばれている僕に渡すはずがない! どうせ、僕の魔力を奪う薬か、そうでなければ体の自由を奪うものだろ!
だけど、僕が断ると、ロヴァウク殿下は風呂まで入ってきた。
何考えてるんだこの人!! 僕、裸なんですけど!??
彼は服を着たまま入ってくるから、僕の持っていたシャワーのお湯が、彼のローブの王家の紋章にかかってしまう。これ……また仕置きされる!?
けれど殿下は、そんなことには構わず、僕に近づいてきた。
「面倒な捨て犬だ」
「す、捨て犬ではありませんっ……ぼ、僕は、人族で……」
「では、面倒な捨て人族だ」
「捨て人族!!??」
なんだこいつっ……!! 人を物みたいに言って、どういうつもりだ!!
犬って言うなら、そっちの方が犬っぽいじゃないか!! 頭に狼の耳とかあるしっ! ちょっと王族だからって偉そうにっ…………!
腹を立てる僕の前で、ロヴァウク殿下は瓶の蓋を開けると、それを無理やり僕の口の中に突っ込んできた。
「ぐっ……!!」
何するんだこいつっ……!!
瓶の中のものを無理に口の中に流し込まれて、僕は何度も咳き込んだ。
「な、何するんですかっ……お、王族だからって……!」
「怪我を治してやったのだ。跪いて感謝しろ」
「…………っ!!」
なんで無理やり口に瓶突っ込まれて感謝しなきゃならないんだ!!
苦しくてその男の体を振り払うと、そいつは突き飛ばされたにも関わらず、怒り出すようなことはしなくて、無言で風呂を出ていく。
濡れたマントを見送ると、殴りかかりたいくらいに腹が立った。
ムカつく……なんなんだあいつ!! 馬鹿にしやがって……!! 王族でなかったら、後ろから火の魔法で貫いてやったのに!!
落ちていた瓶を拾い上げる。僕がさっき飲まされたものだ。それは、確かに回復の薬の瓶だった。
だけど、瓶だけ本物で、中身は毒かもしれない。王族だ王族だと繰り返すが、そんな奴らが僕にこんなことをする理由がない。
拾い上げた瓶を、さまざまな方向から眺める。中に少しだけ残った液体も、特に代わったところは見当たらない。変な匂いもしない。
僕はこれでも、命に危険が及ぶものには敏感なつもりだ。毒じゃないのか……腕の傷も治ったし……
どうやら本当に回復の薬を飲まされたみたいだけど、こんなものを、なぜ僕に?
あのロヴァウクって王子……どういうつもりだよ…………
もしかしたら、これは罠かもしれない。僕を油断させて、何かを企んでいるのかもしれない。
こんなことしていられない。こんなところで裸でいたら、風呂に魔法を打ち込まれた時に対処が遅れる。早く服を着て外に出なきゃ。
僕は王族なんか信じない。他人なんか、全部敵だ。
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