虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
2 / 117

2.ついに処刑ですか!?

しおりを挟む

 僕が無理やり連れて行かれたのは、砦の中でも、特別な来客があったときにしか使われない部屋だった。
 王子なんだから当然か。だけど、何で王子が僕をここに呼ぶんだ? まさか、ついに反逆者の僕を処刑しにきたのか!??

 僕は、国を破壊しようとした反逆者だという疑いをかけられている。

 かつて王城には、強い力を持った魔法使いがいた。その男は第一王子で、ライイーレという名前だった。彼は、魔法の研究にのめり込み、強力な魔法の実験をしていた。彼に期待した貴族たちも多く、貴族の令息たちは、彼のもとで魔法を学んだ。

 僕も、そんな貴族のうちの一人。

 伯爵家の次男として生まれた僕は、家では厄介者扱いされていて、王城に行ってライイーレ殿下に取り入るように言われ、王城へ行くことになってしまった。
 ライイーレは少し困ったところもある人だったけど、王城では、魔法の研究に必要な素材を集めながら、空いた時間に独学で魔法を学べるから楽しかった。

 けれど、ライイーレは、強力な殺戮の魔法の研究に手を出し、それを国王暗殺の用意だと指摘され、失脚してしまった。第一王子を後継者争いから廃したい貴族たちの陰謀だったらしい。

 ライイーレが反逆者として断罪されると、彼を支持していた貴族たちは、我先に彼のもとから逃げ出した。こぞって責任逃れを始め、彼の下で魔法を学んだ貴族たちも、口を揃えて、ライイーレに無理矢理集められたと言い出した。

 そこから逃げ遅れたのが僕。もともと厄介者だった僕は、勝手に暗殺の準備に協力したと言われ、気づいたらそれを目論んだ真犯人になっていた。
 僕は反逆の意志なんてないと叫んだが、誰も聞いてくれないし、挙句、僕がライイーレを誘惑したように言われ、気づいたら首謀者のような扱いを受けていた。

 断罪され、処刑されるところだったが、体刑だけで済んだ。その後は、街を守る警備隊の下っ端として働くことを命じられた。

 第五王子のロヴァウクは、第一王子のライイーレが反逆を疑われた時に、彼が魔法の研究をしていた地下の部屋に押し入り、ライイーレを取り押さえた男だ。

 そんな男が、こんなところに僕を連れてくるなんて…………やっぱり処刑か!?? それとも、まだ何か罰があるのか!??

 一体何なんだよっ……! 僕が何をしたって言うんだ! もう放っておいてくれ!!

 ビクビクしている僕の足元には、服や体から落ちた泥が溜まっていく。王子の部屋なんか汚したら、後で何をされるか分からないのに。
 少しでも床に泥が落ちないように右足を上げたら、今度は左足から泥が落ちていく。

 どうしよう……こんなことをしていたら、また罰を受ける……

 右足を上げたり左足を上げたりしていると、目の前に、ふわふわのタオルが突き出された。
 真っ白なそれに驚いて顔を上げると、ロヴァウク殿下が、僕にタオルを差し出している。

「名は何という?」
「……え?」
「名前だ。俺に聞かれたらすぐに名乗れ」
「…………」

 何様??

 なんなんだよ。この偉そうな男。

 こんな男に言われて素直に名乗りたくなんかない。

 というか、知ってるはずだろ絶対!!

 そもそも、僕を反逆者だと言って断罪したのは王家だ。
 第一王子が反逆を企んだなんて事実があっては困る彼らは、僕をライイーレを誑かした首謀者として断罪することで、王家の権威を守ったんだ。

 権威は勝手に守ればいいが、そんなものの犠牲になった方はたまらない。勝手に第一王子を誑かした淫魔呼ばわりされて、毎日足蹴にされる僕の身にもなれ。

 そんな経緯を全部知っているはずなのに、名前なんか聞いてどういうつもりだ。こんなところに連れ込んで、何をする気なんだ!!

 押し黙っていると、ロヴァウクの方が先に口を開いた。

「……俺は、ロヴァウクだ。知っているだろう」
「…………」

 知ってる、もちろん。

 第五王子のロヴァウク殿下。魔法の才能ではずば抜けていると有名だ。
 次の国王には、第二王子のバーニジッズ殿下が有力ってことになっているけど、第五王子の彼を推す貴族たちも多く、次期国王の座を争っていると聞いた。

 そんな奴が、なんで僕の頭を乱暴に拭くんだ!!
 そこは急所。赤の他人にそんなところを触られるなんて、恐怖以外の何者でもない!

「……あのっ……やめてください!」
「俺は名乗った。そっちも名乗るまで、やめない」
「レクレットです!」

 喚くように言ったら、そいつはやっと僕を離してくれた。おかげで髪の毛がぐちゃぐちゃだ。元々ぐちゃぐちゃだが、他人にされると腹が立つ。

 それなのに、ロヴァウクは偉そうに言う。

「さっさと名乗ればいい」
「な! なんでっ……! 僕にっ……! こんなことっ……!」
「俺はお前に会いに来たんだ」
「……僕に?」

 王族が俺に? 何の用だ!! まさか、やっぱり処刑……? ついに……?

 何で今なんだっ……!! あと少しで、ここを抜け出せると思っていたのにっ……!

「ま、待ってくださいっ……! 僕は本当にっ……殺戮の魔法に手を貸したりなんかしてません!! ほ、本当ですっ……! どうかっ……し、信じてっ……」

 泣きそうになる僕を、そいつは冷たい目で眺めて言った。

「風呂に入ってこい」
「は? え!? ふ、風呂っ……!?」
「その格好でいられると、部屋が汚れる。すぐに体を洗ってこい」
「……か、体!?? な、なんでっ……そんなことより、本当に僕はっ……!」
「早く行け。何度言わせる気だ」
「そんなことよりっ……」
「風呂より鞭がいいか?」
「は!?」

 なんだよそれっ……なんでそうなるんだ!?

 なんだこいつ……僕、お前らのせいでこんな目に遭ってるんですけど!!?? 分かってるのかよ!! くそがっ……!!

 苛立ちながら怯える僕に、そいつはひどく高圧的に言った。

「話は風呂に入ってからする。ダラダラしているなら、風呂場ではなく拷問部屋に連れていくぞ」
「……!!」
「王族の命令だ。行け。これ以上待たせるなら、入ると言うまで鞭で打つ」
「や! やめてくださいっ…………! わ、わかりましたっ……! すぐに入ります!!」

 くっそ……!! 覚えていろよ!! 王族なんて、どいつもこいつもクズだ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...