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2.ついに処刑ですか!?
しおりを挟む僕が無理やり連れて行かれたのは、砦の中でも、特別な来客があったときにしか使われない部屋だった。
王子なんだから当然か。だけど、何で王子が僕をここに呼ぶんだ? まさか、ついに反逆者の僕を処刑しにきたのか!??
僕は、国を破壊しようとした反逆者だという疑いをかけられている。
かつて王城には、強い力を持った魔法使いがいた。その男は第一王子で、ライイーレという名前だった。彼は、魔法の研究にのめり込み、強力な魔法の実験をしていた。彼に期待した貴族たちも多く、貴族の令息たちは、彼のもとで魔法を学んだ。
僕も、そんな貴族のうちの一人。
伯爵家の次男として生まれた僕は、家では厄介者扱いされていて、王城に行ってライイーレ殿下に取り入るように言われ、王城へ行くことになってしまった。
ライイーレは少し困ったところもある人だったけど、王城では、魔法の研究に必要な素材を集めながら、空いた時間に独学で魔法を学べるから楽しかった。
けれど、ライイーレは、強力な殺戮の魔法の研究に手を出し、それを国王暗殺の用意だと指摘され、失脚してしまった。第一王子を後継者争いから廃したい貴族たちの陰謀だったらしい。
ライイーレが反逆者として断罪されると、彼を支持していた貴族たちは、我先に彼のもとから逃げ出した。こぞって責任逃れを始め、彼の下で魔法を学んだ貴族たちも、口を揃えて、ライイーレに無理矢理集められたと言い出した。
そこから逃げ遅れたのが僕。もともと厄介者だった僕は、勝手に暗殺の準備に協力したと言われ、気づいたらそれを目論んだ真犯人になっていた。
僕は反逆の意志なんてないと叫んだが、誰も聞いてくれないし、挙句、僕がライイーレを誘惑したように言われ、気づいたら首謀者のような扱いを受けていた。
断罪され、処刑されるところだったが、体刑だけで済んだ。その後は、街を守る警備隊の下っ端として働くことを命じられた。
第五王子のロヴァウクは、第一王子のライイーレが反逆を疑われた時に、彼が魔法の研究をしていた地下の部屋に押し入り、ライイーレを取り押さえた男だ。
そんな男が、こんなところに僕を連れてくるなんて…………やっぱり処刑か!?? それとも、まだ何か罰があるのか!??
一体何なんだよっ……! 僕が何をしたって言うんだ! もう放っておいてくれ!!
ビクビクしている僕の足元には、服や体から落ちた泥が溜まっていく。王子の部屋なんか汚したら、後で何をされるか分からないのに。
少しでも床に泥が落ちないように右足を上げたら、今度は左足から泥が落ちていく。
どうしよう……こんなことをしていたら、また罰を受ける……
右足を上げたり左足を上げたりしていると、目の前に、ふわふわのタオルが突き出された。
真っ白なそれに驚いて顔を上げると、ロヴァウク殿下が、僕にタオルを差し出している。
「名は何という?」
「……え?」
「名前だ。俺に聞かれたらすぐに名乗れ」
「…………」
何様??
なんなんだよ。この偉そうな男。
こんな男に言われて素直に名乗りたくなんかない。
というか、知ってるはずだろ絶対!!
そもそも、僕を反逆者だと言って断罪したのは王家だ。
第一王子が反逆を企んだなんて事実があっては困る彼らは、僕をライイーレを誑かした首謀者として断罪することで、王家の権威を守ったんだ。
権威は勝手に守ればいいが、そんなものの犠牲になった方はたまらない。勝手に第一王子を誑かした淫魔呼ばわりされて、毎日足蹴にされる僕の身にもなれ。
そんな経緯を全部知っているはずなのに、名前なんか聞いてどういうつもりだ。こんなところに連れ込んで、何をする気なんだ!!
押し黙っていると、ロヴァウクの方が先に口を開いた。
「……俺は、ロヴァウクだ。知っているだろう」
「…………」
知ってる、もちろん。
第五王子のロヴァウク殿下。魔法の才能ではずば抜けていると有名だ。
次の国王には、第二王子のバーニジッズ殿下が有力ってことになっているけど、第五王子の彼を推す貴族たちも多く、次期国王の座を争っていると聞いた。
そんな奴が、なんで僕の頭を乱暴に拭くんだ!!
そこは急所。赤の他人にそんなところを触られるなんて、恐怖以外の何者でもない!
「……あのっ……やめてください!」
「俺は名乗った。そっちも名乗るまで、やめない」
「レクレットです!」
喚くように言ったら、そいつはやっと僕を離してくれた。おかげで髪の毛がぐちゃぐちゃだ。元々ぐちゃぐちゃだが、他人にされると腹が立つ。
それなのに、ロヴァウクは偉そうに言う。
「さっさと名乗ればいい」
「な! なんでっ……! 僕にっ……! こんなことっ……!」
「俺はお前に会いに来たんだ」
「……僕に?」
王族が俺に? 何の用だ!! まさか、やっぱり処刑……? ついに……?
何で今なんだっ……!! あと少しで、ここを抜け出せると思っていたのにっ……!
「ま、待ってくださいっ……! 僕は本当にっ……殺戮の魔法に手を貸したりなんかしてません!! ほ、本当ですっ……! どうかっ……し、信じてっ……」
泣きそうになる僕を、そいつは冷たい目で眺めて言った。
「風呂に入ってこい」
「は? え!? ふ、風呂っ……!?」
「その格好でいられると、部屋が汚れる。すぐに体を洗ってこい」
「……か、体!?? な、なんでっ……そんなことより、本当に僕はっ……!」
「早く行け。何度言わせる気だ」
「そんなことよりっ……」
「風呂より鞭がいいか?」
「は!?」
なんだよそれっ……なんでそうなるんだ!?
なんだこいつ……僕、お前らのせいでこんな目に遭ってるんですけど!!?? 分かってるのかよ!! くそがっ……!!
苛立ちながら怯える僕に、そいつはひどく高圧的に言った。
「話は風呂に入ってからする。ダラダラしているなら、風呂場ではなく拷問部屋に連れていくぞ」
「……!!」
「王族の命令だ。行け。これ以上待たせるなら、入ると言うまで鞭で打つ」
「や! やめてくださいっ…………! わ、わかりましたっ……! すぐに入ります!!」
くっそ……!! 覚えていろよ!! 王族なんて、どいつもこいつもクズだ!
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