虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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4.助けてません。仕事です。

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 急いで風呂から出たら、風呂のドアの外に、服が畳んで置いてあった。だけどこれ、僕の服じゃない。新しい服が置いてある代わりに、僕が着ていたものがない。

 ロヴァウク殿下の仕業か? あいつっ……僕の服をどこへやったんだ! やっぱり罠だったんだ!!

 そこにあった服はそのままにして、タオルで体を隠して、僕は、力任せにドアを開けた。

 ロヴァウク殿下は、ソファに座って紅茶を飲んでいた。
 彼と一緒に、さっきまではいなかった警備隊長までいて、一瞬怯みそうになったけど、服は返してもらわないと困る。
 僕が持っている服は、あれともう一着しかないんだ。

「あ、あのっ……ろ、ロヴァウク殿下! 僕の服っ……!! 返してください!!」

 相手は王族。最低限の敬意だけ払いながら言うけど、ロヴァウク殿下は「服くらい着てこい」と、自覚のない発言をする。お前が僕の服を持って行ったんだろうが!

 腹は立つが、王族に怒鳴れない僕に、一緒にいた警備隊長が「そんな格好で出て来るな! 殿下の前で無礼だろう!」と、怒鳴る。

「で、出てきたくて来たんじゃありませんっ……! ふ、服っ……僕の服を返してくださいっ……!」

 遠慮がちに言うと、ソファに座ったロヴァウク殿下は、こちらに振り向きもしないで言った。

「あの泥水に浸かった雑巾のような布の固まりは、洗濯させている」
「ぞっ…………雑巾って……」
「洗濯はさせたが、あれはもう着ない方がいい。破れていた」
「い、いいんです! 破れてたって、あれは僕の服なんですっ……かっ……返してくださいっ……! あれがないと僕、着るものもなくてっ……! お願いします!!」

 下げたくはないが頭を下げて頼み込む。

 けれど、ロヴァウクはまともに取り合う気がないのか、振り向きもしない。

「あれでは、魔物と戦えないだろう」
「……防御の魔法を使えば戦えますっ……! そ、それにっ……! そ、そんなことはあなたには関係ないっ……は、はずです!」

 叫ぶ僕に、「黙れっ!! 無礼者!!」と隊長の怒鳴り声が飛んでくる。
 けれど、そんな隊長を殿下は睨みつけた。

「貴様は黙っていろ……うるさい」
「し、しかしっ……! 殿下っ……!」

 この王子、どういうつもりだ……? 一体何がしたいんだよ。

 ロヴァウクは、僕の方をニヤニヤ笑いながら見ている。

「随分な自信だ。だから荒野の魔物の討伐隊にも志願したのか?」
「……なんで、それを……」

 なんでそんなことまで知っているんだ……この王子……何だか怖い。何を企んでいるんだ。

 その男を睨みつけていたら、窓の外に、蠢く黒い影が見えた。魔物!?? 入ってきたのか?

「下がってくださいっ!」

 叫んで、魔力で剣を作り出す。

 僕がいつも魔物と戦う時に作り出すこれは、刀身が僕の身長よりも長いけれど、魔力で作ったものだから、周りのものは傷つけずに魔物だけを消滅させることができる。

 振りかぶって投げた剣は、窓をすり抜け外で動いていた黒い塊を一刀両断にする。魔物は、ボロボロと崩れて消えていった。

 こんなところにまで入ってくるなんて……雨に紛れて、砦の警備を掻い潜って来たんだ。

 窓を開けて、外を確かめる。もう外に魔物はいないようだ。

「……ご無事ですか?」

 振り向いてたずねると、ロヴァウク殿下は、ソファに座ったまま、先ほど魔物が出たとは思えない、平然とした様子で僕を見上げていた。

 殿下のそばに寄り添った警備隊長が、真っ青な顔で王子の無事を確認している。

「で、殿下っ……! ご無事ですか!!??」

 殿下は無傷なようだけど、警備隊長にとってはそういう問題ではないみたい。彼は、憎しみすら感じるような目で、僕を睨みつけた。

「貴様っ……!! レクレット! 殿下に剣を向けるとはっ……! 後で仕置きだ! 覚悟しておけ!!」
「…………僕は、魔物を退治しようとしただけです……」

 なんて言い訳したところで無駄……それは分かっているけれど、今日はすでに、豪雨に何時間も打たれた後。仕置きは回避したい。

 けれど、警備隊長の態度は変わらない。きっとまた後で、恐ろしい量の仕事を押し付けられたりするんだろう。

 俯く僕だっけど、今日は初めて、警備隊長を止める奴がいた。ロヴァウク殿下だ。

「やめろ。その男は、俺を守っただけだ」
「し、しかしっ……その男はあなたに剣をっ……!!」
「魔力で作られたものだ。俺は無傷で魔物だけを切っている。何も問題視することはない」
「…………」

 警備隊長は、悔しそうに歯噛みして僕を睨みつけるけど、それ以上何かをすることもなかった。

 こんなこと初めてで、なんだか気持ち悪いくらいだ。
 何で王族が僕を庇うようなことを言うんだ? 僕は反逆者だと思われているはずなのに。

 ロヴァウク殿下は、何が楽しいのか、ニヤニヤ笑いながら僕に振り向いた。

「よく気づいたな。なかなかの腕だ」
「…………」
「助けてくれたことに礼を言おう。何か褒美をとらせようか」
「……」

 無言でいると、警備隊長に「殿下のお言葉を無視するとは何事だ」と言われてしまう。何を答えたって、どうせ後で仕置きするくせに。

 だったらもう、好きに返事しよう。王城から何かを受け取る気はない。あそこにいる奴らは、どいつもこいつも、僕を犯罪者扱いしている。何か受け取ったら、それを理由に後で何をされるか分からない。

「……褒美など、必要ありません……これは、仕事ですから……」

 でなかったら、誰がお前なんか助けるか。
 本当はそう怒鳴りつけてやりたいけど、相手は王族。我慢するしかない。

 それを知ってか知らずか、ロヴァウク殿下は何だか楽しそうだ。

「貴様……レクレットとか言ったな? その腕があるなら、荒野の魔物退治に志願したのも頷ける」
「……誰も行きたがらないから、僕が行くことになっただけです。あ、あなたも王族なら……あそこの魔物を退治することの重要性はご存じのはずですっ……!」
「……もちろんだ。だから、俺が行くつもりで来た」
「……は!?」

 びっくりした。まさか、あそこに行く気か? 王族のすることじゃないだろ!!
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