極道の密にされる健気少年

安達

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志方と島袋に連れ去られる話

目覚め

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「…………ん…………ぅ……………。」



ん…?暗い。ここはどこだ?あ、わかった。寝室だ。



「…ん…………………。」



駿里は身体中が痛かった。そのため体の向きを変えることが出来ない。けど1つ嬉しいことがあった。それは寛也が隣で寝ていたということ。きっと寛也は駿里が目覚めるのを待ってくれていたんだ。体が綺麗になっているから多分お風呂にも寛也は駿里を入れてくれている。そんな寛也に駿里は抱きつきたいのに体が痛くてできなかった。



「駿里。起きたのか?」

「…うん。」

「悪い。酷い声にさせちまった。いくらなんでもやりすぎた。すまない。」

「…もう怒ってないの?」



あれだけ怒っていたから駿里は寛也がまだ怒っていると思ったのだろう。だがそれは寛也も同じことを思っていた。あれだけのことをしたのだから駿里が怒っていると。しかし違った。駿里は怒っていなかった。



「当たり前だ。お前はどうだ?」

「俺も怒ってないよ。」

「それは本当か?」

「うん。」

「良かった。俺はお前にしばらく口を聞いて貰えねぇと思ってた。」

「それは俺の方だよ。寛也は最近怒らなくなったのにあそこまで俺が怒らせちゃったから。」

「いやそれにしてもやりすぎた。だから今日はゆっくりするんだ。」

「…うん。わかった。」

「俺が付きっきりでここにいるから。」



そういい寛也が駿里を抱きしめた。そして駿里の頭に手を回しキスをしようとした。しかしその時…。



コンコン




「誰だ?」



誰かが寝室のドアを叩いた。誰かといってもこの部屋に入れる人は限られている。だからだいたい察しはつくがそれでも声を聞かなければやはり寛也でも誰かは分からない。そのため寛也はそう聞いたのだ。



「お疲れ様です組長。森廣です。」



部屋のドアを叩いた主は森廣だったようだ。そして寛也はドアの向こうにいるのが森廣だと分かった瞬間少し緊張感を持った様子で起き上がった。松下ならまだしも森廣が来ると緊張が走るのだ。それほどの用事の可能性があるから。



「組長。今よろしいですか?」

「急用か?」




まだ寛也は森廣を寝室に入れていない。それは駿里がいるからだ。それもボロボロの…。そのため森廣を部屋に入れることを渋っているのだ。しかしそれは森廣も分かっているはず。その上でここに来ているとなるとやはり…。



「急用です。申し訳ないのですが入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ。」



急用であるなら仕方が無い。駿里に話を聞かれてしまうが今駿里から離れる訳にもいかないので寛也は森廣を寝室に入れることにした。



「失礼します。」

「森廣、ここで話せ。」




駿里から離れることが出来ない今森廣をここで話させるしかない。だが森廣はそれを予想していなかったようで目を見開いていた。それもそのはず。寛也は駿里に仕事の話を聞かせないようにいつも気を張っているのだから。なのにそう言った。そのため森廣はこんなにも驚いたのだ。



「…私は構いませんが駿里に聞かれても良いのですか?」

「ああ。こいつも俺らの事を知る権利があるからな。」

「そうですね。ではここで話します。」



森廣はチラチラと駿里のようすを伺いながらそう言った。少しでも駿里に嫌な思いをさせないように森廣は最大限配慮をしているのだ。森廣にとっても駿里は大切な存在だから。



「栗濱らの事ですが他の件で調べたいことがあるので一応活生かしてます。ただ歩ける状態では無いです。俺と圷で色々やっちまったので。」

「そうか。」



歩ける状態では無い…。それを聞いた駿里はなんとなくではあるが森廣が栗濱らを酷く拷問したんだろうなということがわかった。でも駿里は怖くなかった。それが寛也らの仕事だし駿里もそれをちゃんと理解しているから。



「その件も含めて森廣、お前に栗濱組の事は任せる。」

「承知しました。それではこの件についてもう一度報告致しますね。」

「ああ。それともう一つ聞きたいことがある。」

「なんでしょうか?」

「康二はどうした。」

「康二ですか?」



仕事のことを寛也から聞かれると思っていたのだろう。松下の名前が出た途端森廣は拍子抜けした顔になっていた。その森廣の顔はかなりレアのため駿里は少し驚いていた。森廣がこんなにコロコロと表情を変えるのはとても珍しいから。まぁ寛也からしたら見られたものかもしれないが…。



「あいつは元気そうか?酒結構飲んでたって圷から報告があってな。」

「あーそれは俺も聞きました。相当飲んでたんでしょうね。」

「たく…決まって二日酔いするのによ。」

「まぁまぁ。いつも仕事漬けな毎日ですからたまには許してやってください。それにあいつに後輩が出来るなんて喜ばしい事じゃないですか。」

「それもそうだな。」

「はい。」



森廣の言っていた後輩。つまりこの組の新しい幹部。その人がいい人だったらいいなと思う反面駿里は安心していた。だって松下が選んできた人材だから。悪い人のわけがない。そのため駿里は不安もあったが楽しみもあった。



「ああ、そうだ森廣。栗濱の事だが他の件を調べ終えたら俺に念の為報告してくれ。状況が変わればあいつらに下す制裁も変わってくるからな。」

「承知しました。」

「まぁ栗濱組の連中はどの道潰すがその前に聞きたいことがあるからな。」

「潰すのですか?そうでしたら…それを志方にやらせて良いですか?」

「志方?」

「はい。誰よりも栗濱を潰したいのは志方でしょうから。」

「そういやあいつは個人的に栗濱に恨みがあったようだな。そういう事なら志方にやらせろ。」

「はい。」



部下に任せられることは任せる。だがそれは寛也が森廣らを信頼しているからだ。信頼出来なければこんな事頼めない。そのため寛也はこういう場面に陥った時毎回森廣らに感謝している。そして寛也はそれを言葉には出さない。だが森廣は感じている。寛也の思いを。だから森廣はなんの不満も持たずこうして仕事をしているのだ。



「けどちょっと不安だな。」



森廣の言ったことを承諾したものの何かが引っかかるようで寛也はそういい駿里の頭を撫でながら首を傾げた。そして寛也は…。



「森廣。志方はやりすぎる所があるからやはりお前が見張っててやれ。」

「承知しました。」



これが最善だろう。志方はどうしても恨みがある相手になると理性を失ってしまう。寛也がいたり他の幹部がいたりすればそうなっても止めればいいだけだから心配はない。だがもしそれが志方1人だったら…?志方は強いからやられる心配は無いが志方が怪我をするかもしれない。それを恐れた寛也は森廣にそういったのだ。そしてそれを森廣も承諾した。



「よし。これでやっとハエが1匹減るな。」

「そうですね。」

「…ハエ?」



急に虫の話をし始めた寛也に駿里は首を傾げた。もちろん起きることが出来ないから横になったままだ。そんな駿里の声を聞いた森廣はどうしたものかと慌て始める。それもそのはず。あれだけ寛也に泣かされた後だからか駿里の声はガラガラになっていたのだ。



「駿里、お前その声どうしたんだ。」

「寛也にお仕置きされた。」

「…そうか。それは仕方ないな。」



森廣も駿里の無断外出の件を知っている。だからそういったのだ。そして駿里も…。



「うん。ちゃんと俺も反省してる。」

「いい子だ駿里。」



あれほどの目に遭わせたのだから二度と駿里は同じことをしないだろう。だがそれだけではなかった。ちゃんと駿里は反省した。それを駿里の口から聞くことが出来れば寛也は安心する。そのためそういい寛也は駿里の頭を撫でた。



「あのな、ハエっていうのはむさ苦しい存在だ。」

「…それは邪魔ってこと?」

「そうだ。」



寛也はざっくりと言ったが駿里は何となく察したようだ。ハエというのはなにかの略語…または言い換えなんだってことを。



「栗濱は結構前から俺の事を嗅ぎ回っててな。どうすることも出来ねぇのに俺らのアジトに忍び込んではなんの収穫もなしに帰ってた。俺達からしたらマイナスな面はねぇがうざったらしーんだよ。存在がな。だからどの道排除しようとしてたがその前に白黒はっきりつけるんだ。あいつらが犯してきた過ちについてな。」

「そうだったんだ。」

「悪いな。あんまお前の好きな話じゃねぇ事言っちまって。」

「ううん、教えてくれてありがとう。」



お仕置きの後だからか駿里はやけに寛也に甘えていた。そんな駿里の様子を見て森廣はこの部屋から出ることにした。自分がいては駿里が本気で寛也に甘えることが出来ないだろうから。



「組長。では俺はこの辺で失礼しますね。何かありましたらすぐに連絡下さい。」

「ああ。お前もな。」

「はい。」

「あ、ちょっと待て森廣。」

「どうされましたか?」

「康二に伝えろ。新しいやつの世話はお前がしろって。お前の好きなように後輩を育てろってな。」

「承知しました。では失礼します。」



森廣はそういい寛也に一礼をしてこの部屋を出ていった。その森廣の姿が無くなった途端駿里は寛也に抱きついた。



「どうした。可愛い奴だな。」

「…………。」



急に抱きついてきて黙り込んだ駿里。そんな駿里を見て寛也は駿里を抱きしめ返した。駿里は本当はもっと甘えたいのだろう。だけど駿里は恥ずかしくてそれを言えない。だから寛也は駿里の気持ちを感じ取ってその行動をしたのだ。



「愛してる駿里。」

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