極道の密にされる健気少年

安達

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志方と島袋に連れ去られる話

優しい松下

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「駿里。着いたぞ。」

「…うん。」



家に帰ってきた。なのに駿里は嬉しくなかった。それはきっとこのまま松下は帰ってしまうだろうから。本音としてはずっとここにいて欲しい。けれどそれは言えない。なぜなら松下には仕事があるから。だから駿里は寂しさをこらえるあまり声に不安が混じってしまった。そんな駿里をみて松下は1度駿里のことを下ろそうとしたがそれをやめた。



「…どこ行くの?」

「ソファに決まってんだろ。さすがに玄関に置いて帰るなんてこと俺はしねぇわ。」



本当は松下は駿里のことを玄関に下ろしてそこからは自分の足で歩かせるつもりだった。だがそれをやめて駿里を抱きかかえたまま移動した。それほどまでに駿里が不安そうに見えたから。そんなこんなでリビングに到着した松下は駿里を抱きかかえたまま松下自身もソファに座りこんだ。



「え、康二さん仕事は…?」

「こんな状態のお前を置いて行けるかよ。落ち着くまでそばにいてやるからお前はなんも考えずに俺に抱きしめられてろ。」



今日松下は忙しいはずだ。寛也が外の仕事に出ている時は残っている幹部たちはいつも仕事に追われている。それを駿里はまじかで見ていたから大変さがよく分かるのだ。なのに松下はこうして駿里を抱きしめてくれている。自分のことはあとにして駿里を優先してくれているのだ。それが何を意味するのか駿里はよく分かっているから少し松下のことが心配になった。



「…寛也にまた仕事遅いって怒られちゃうかもよ。」

「そうだなぁ。」

「いいの…?」

「ああ。俺はお前の方が大事だから。」



自分を犠牲にするまで…?きっとこのままでは今日松下は寝れないだろう。徹夜になってしまうから。それほどの仕事量が残っているはずなのになんでそんなに簡単に言えちゃうのだろう…。多分松下が優しいからだろうな。だから駿里はますます罪悪感が膨れ上がってしまった。そのため駿里は全然平気じゃないけど平気なフリをして松下を事務所に戻そうとした。



「でも康二さんお仕事大変でしょ?だから早く戻って。早くしないと康二さんが寝れなくなっちゃう。」



駿里が顔を上げて松下にそう言った。すると松下はそんな駿里の頬を撫でてきた。その後何故か嬉しそうに笑った。




「いいよ。別に。」

「よくないよっ、なんでそうやって無理ばっかすんのさ…っ!」



自分のせいで後々松下が嫌な思いをするのが嫌だった駿里は声を荒らげてしまった。このままでは今は良くても後で痛い目を見てしまう。だからそう言ったのだ。けれど松下は顔色一つ変えずに今度は駿里の頭を撫でてきた。



「いいってば。それに俺は寝れないことはしょっちゅうあるしな。」

「そうなの…?」

「ああ。俺らの仕事は常に気を張っとかなきゃいけねぇからな。」



松下はそう言うと手を駿里の後頭部に回した。その時駿里は感じた。キスをされる…と。だから…。



「康二さっ、それはだめ…っ。」



駿里は松下からのキスを拒んだ。寛也が嫌がるだろうから。だから松下に申し訳なさそうにそう言った。そんな駿里をみて松下はまた笑ってきた。今日の松下はどこか変だ。常に嬉しそうに笑っているのだから。



「分かった。お前が嫌ならやめとく。」

「…………?」



いつもなら力ずくで抑えてくるのに…。いつもだったら嫌がっても拒んでもやってくるのに。いつもなら駿里の気持ちなんかお構い無しなのに松下はそう言ってきた。そのため駿里は思わず首を傾げてしまった。そんな駿里をみて松下は吹き出すように笑った。



「はは、なんだそのとぼけた顔は。」

「と、とぼけてないし…っ!」



ただいつもと違う松下が不思議で首を傾げていただけなのにとぼけたとか言われてしまった駿里。なのですぐにそう言い返した。しかし松下はまだ面白そうに笑っている。



「もう康二さん笑いすぎだってば…っ!」

「はは、悪い悪い。さてはお前、俺が優しいから変だとか思ってんだろ。」



はい。そうです。その通りです。駿里は松下の言ったことに心の中で何度も頷いた。



「うん。思った。」

「相変わらず正直な奴。」

「けど変…までは思ってないよ。ただいつもと違うなぁって…。」

「お前もいつもと違うからな。」

「え?どういうこと?」



まさかの松下の言葉に駿里はそう聞き返してしまった。駿里は気づいていなかったのだ。自分の顔色が悪くなっていることを…。まぁそれは無理もない。自分では自分の顔を見ることが出来ないのだから。そんな駿里の頬に松下はキスをしてきた。



「も、もうダメだって!すぐキスしないでってば…っ!」



不意打ちでキスをされては避けることも拒むことも出来ない。だから駿里は避けきれず松下にキスをされてしまった。そんな松下を押し返しながら駿里は少し怒り口調でそう言った。



「悪い悪い。」

「思ってないでしょ…。」

「はは、バレたか。」

「もう!ていうかそんなことどうでも良くて…!俺がいつもと違うってどういうこと?」

「あーお前多分だけどさ…いや俺のただの勘違いかもしんねぇけどよ。組長以外を受け入れられなくなっちまってんじゃねぇの?」



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