極道の密にされる健気少年

安達

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遅咲きの花は大輪に成る

怒った寛也

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「…駿里。」



朝、目が覚めた寛也は腕の中に駿里がいないことにイラついていた。イライラして駿里がいるはずの場所に手を伸ばす。だがそこにも駿里はいなかった。



「駿里?」



辺りを見渡しても居ない。リビングにも行ってみたが駿里はいなかった。そうなればあいつがいる場所はただ一つ。天馬らのところだ。



「チッ、あいつ早速お仕置き案件増やしてんじゃねぇか。」



勝手に部屋から出て天馬らに会いに行った駿里に寛也はさらにイラつく。だがその時置き手紙が目に入った。その内容は『寛也いつも眠りが浅いのに今日はよく寝てたから起こさず出ました。怒るだろうけど待ちきれないから先に行くね。ごめんなさい。』という内容だった。寛也を起こさなかったことは駿里なりの気遣いなんだろうが寛也にしてみれば怒りが膨張する材料だ。なので起きてすぐであったがとりあえず服を着替えて寛也はこの家を出た。駿里のところに行くために。そんな駿里は今事務所で楽しそうに笑っていた。



「はは、さすがだな駿里。とうとうあの寛也に言い返し始めたか。」

「天馬さんほどじゃないけどね。」

「はは、そうだな。」



久しぶりに会った天馬は何も変わっていなかった。何も変わらない眩しい笑顔。そして相変わらずよく笑う人だった。



「うるせぇ天馬。仕事してんだから静かにしろ。」



駿里に会えた嬉しさからなのか天馬は馬鹿騒ぎをしていた。その天馬に対して島袋が噛み付く。うるさくて仕事に集中出来ないからだ。



「そう怒るなって島袋。」

「少しは俺を怒らせないように努力をしてくれよ全く…。」



島袋は呆れた様子でそう言った。そしてもう集中力が切れてしまったのだろう。パソコンを閉じると島袋は駿里の元まで来た。



「つか駿里。お前組長に黙ってきて大丈夫なのかよ。」

「…多分大丈夫じゃない。」

「だよな。」

「怒ってるかな…。」

「当たり前だ。まぁお仕置きは覚悟しとけよ。自分で蒔いた種なんだからよ。」



島袋の言っていることは何一つ間違っていない。駿里もそれをもちろん分かっている。だが楽しさのあまり羽目を外してしまったのだ。駿里はここに来て時間が経てば経つほど後悔していた。



「おれ…やっぱり1回帰ろうかな。」

「それがいい。あいつがまだ寝てたらいいんだけどな。」



天馬はそういい駿里の頭を撫でた。天馬の言う通り寛也がまだ寝てくれていれば駿里はお仕置きを回避出来る。だがその可能性は低かった。そして噂をすれば影がさしてしまうようで事務所に寛也が入ってきてしまう。




「「「お疲れ様です。」」」



寛也の姿を捉えた幹部たちがいっせいに立ち上がりそう挨拶をした。寛也はいつもその挨拶に返事をする。だが今回はしなかった。その理由はただ一つ。駿里だ。勝手に家を出た駿里に対する怒りのあまり周りにかまっている余裕がなかったのだ。その寛也をみて駿里は思わず逃げだしてしまう。



「おい駿里。」



当然逃げた駿里をみて寛也はさらに怒る。だが寛也が怒れば怒るほど駿里は怖くて逃げ出してしまう。そんな駿里をみて寛也は我慢ならんと駿里の近くにいた島袋に指示を出す。



「逃げるな。島袋、捕まえろ。」

「はい。」



寛也に指示をされた島袋はすぐに駿里を捕まえる。そして離さなかった。駿里がどれだけ暴れようがお構い無し。逃がそうとすらしてくれなかった。そんな島袋に駿里は助けを求める。



「おねがい、島袋さんっ、離してお願いだから、殺される…っ。」

「悪いな。組長には逆らえねぇ。」



島袋がそう言い終わった頃寛也がすぐ側まで来た。その寛也の怒りのオーラに駿里は縮こまる。



「昨日言ったよな。羽目は外すなって。なぁ駿里。」



寛也はそう言い島袋の腕の中にいる駿里を引きづりだす。それを誰も助けようとしない。それは当然の事だった。これは誰がどう見ても駿里が悪いから。そんな絶体絶命の駿里を見た松下が立ち上がる。さすがにここまで来れば可哀想だと思い助けてくれるのだろうか…?駿里は少しだけ期待した。だがその期待は間違えだった。




「組長。お仕置きするなら俺も参加していいですか?」



既に泣きそうになっている駿里によくそんな発言が出来たものだ。駿里は心底松下を恨んでやった。助けてくれればいいのになんでわざわざ参加するんだ…と。



「駄目に決まってんだろ。つか康二、お前昨日までの仕事まだしてねぇだろ。」

「…バレました?」

「たく、必ず今日中に終わらせろ。志方、お前もだからな。」

「は、はい。」



松下のせいで巻き添えを食らってしまった志方は松下を睨む。お前のせいで怒られてしまったでは無いか…と。そんな2人をみて寛也は少しだけ笑った。そして駿里の腕を掴み事務所を後にしようとする。その寛也を見た天馬はたまらず声を上げた。



「お、おい寛也。もう行くのかよ。まだ会ったばっかりじゃねぇか。」



天馬は寛也と話したいことが沢山あるのだろう。だが今の寛也には余裕が無い。だから天馬と話す余裕もない。



「悪いな。俺はこいつを叱らねぇといけねぇからな。この馬鹿がつけ上がらねぇようにな。」

「久々の友人にお帰りの言葉はなしかよ。」

「お前はいつでも会える。会いたくなったら会える距離にいるんだ。だからまた話に来る。今は余裕がねぇから帰らせてもらう。」

「へいへい。そうかよ。」



今の寛也には何を言っても無駄だと思ったのだろう。だから天馬は寛也にそう言い手を振った。その天馬をみて寛也は振り返り足を進めていった。



「あーあ。駿里行っちまったな。」



嵐のごとく過ぎ去った寛也と駿里をみて松下はそう呟いた。駿里が居なくなった事務所は松下にとってただの仕事場になってしまう。駿里がいた事でモチベーションが上がり頑張れていたのに頑張れる理由がなくなってしまった。そんな松下に天馬は話しかける。



「どうした康二。お前そんな駿里に依存してたっけ?」

「依存も何もねぇよ。俺はあいつが…なんでもねぇ。」

「ふーん。」



松下が歯切れ悪くそういうと天馬が意味深そうにそう言った。



「なんだよ天馬。」

「別に。」

「おいお前ら喧嘩になるからその辺でやめとけ。」



このままほおっとけば喧嘩をする。そうなったら仕事どころではない。だからたまらず志方がそういい二人を止めた。松下はどうも駿里のことになると余裕がなくなってしまう。いつもなら受け流すことも受け流せなくなる。そして天馬も天馬でそんな松下を揶揄い始める。普段は仲が誰よりもいいのにこういうとこですぐ喧嘩をしようとする二人に志方は呆れ顔だ。



「たく、何歳だよお前ら。いい加減にしろ。」

「うるせぇ志方。お前にだけは言われたくねぇよ。」

「あ?なんだと?」

「おい志方。挑発に乗るな。お前さっき喧嘩止めたばっかなのに何お前が喧嘩し始めようとしてんだよ。馬鹿か。」



天馬と松下の口喧嘩が終わり一段落付いたと思えば今度は志方と松下の口喧嘩が始まった。それまで黙って成り行きを見ていた北風だったがあまりにも幼稚な後輩に呆れ顔でそう言った。すると途端に志方は悲しそうな顔をする。尊敬する北風にそう言われショックを受けたのだ。



「そんな言い方ないじゃないですか北風さん。酷いっすよ。」

「つかそもそもお前が余計なこと言うからこうなったんだぞ志方。」

「…すんません。」



北風に正論を言われてしまえば言い返せない。だから志方は素直に謝った。そんな志方をみて松下が鼻で笑ってくる。



「おい康二…喧嘩売ってんのか?」

「別に。」

「てめぇらいい加減にしねぇと頭かち割るぞ。」

「「は、はい。」」



凝りもせずまた喧嘩をしようとする2人に痺れを切らした北風が本気で怒った。その北風をみて本気で焦った志方と松下は立ち上がり頭を下げる。



「ほんとにお前らは困ったやつだ。組長が甘やかすからだ。」

「そういうなって北風。寛也にとってこいつらは息子同然なんだからよ。」

「お前もだぞ天馬。お前もこいつらを甘やかしすぎなんだよ。」

「まぁ北風、お前が怒ってくれるからいい感じに中和できてんだろ。」

「たく、どいつもこいつも…。」



北風はそう言いながらも結局志方と松下を可愛がっていることには変わりない。可愛い弟のような存在だから。だから結局許すのがいつもの事だ。そんな自分にも北風は呆れかえる。そしてそんな北風のおかげで静かになった事務所。皆が仕事に集中してきたその時誰かが事務所に入ってきた。その人物を見て天馬が立ち上がる。



「圷じゃねぇか。それと…海斗か?」

「こんにちは。」



天馬が言った海斗という言葉に思わず志方も松下も立ち上がる。まさか圷がここに連れてくるなんて思いもしなかったから。



「元気だったか?」



久々にみた海斗に天馬は近づき頭を撫でる。だがその手を圷はすぐに払い除けた。



「おい天馬。触んな。」

「おー怖い怖い。」



天馬はそう圷を揶揄うようにそう言った。いつもなら圷もそれに対して悪ノリしてくる。だが今回はしてこなかった。その圷に天馬は思わず首を傾げる。そんなふうに状況が掴めていない天馬に松下は遠回しで説明をしようと話し出した。



「天馬、圷を挑発するな。これでも圷は成長した方なんだから。」

「おい康二。それはどういう意味だ。」



松下は圷を庇うためにそう言ったのに圷は腹が立ってしまったらしくそう言い返してきた。その風景を見て北風はため息を着く。また喧嘩が始まりそうな雰囲気に…。



「止めないんですか?北風さん。」

「俺はもう疲れた…。」

「はは、同感です。」



止める気力もなくなってしまった北風に島袋は笑ってそう返した。だがそんな騒がしい事務所とは裏腹に寛也の家は静まり返っていた。



「駿里。」

「…はい。」

「分かってんだろうな。」

「だ、だって…っ、」

「言い訳は聞かねぇ。黙って服を脱げ。」



逆らうことは許さない。寛也の表情がそれを物語っている。この顔をしている時の寛也は本気で怒っている時だ。そんな寛也に逆らえば駿里は後悔する。それはこれまでの経験から分かったものだ。だから駿里は大人しく服を脱ぎ始めた。



「いい子じゃねぇか。物分りが良い奴は好きだぜ。さぁ、こっちに来い。可愛がってやるから。」

「…なにするの?」

「いいから来い。いちいち時間をかけんじゃねぇよ。」



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