極道の密にされる健気少年

安達

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創始

144話 仕事の内

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「頑張ってこいよ。」

「うん、行ってきます!」


駿里は送ってくれた寛也に手を振った後、急ぎ足で店に入っていった。今日は首にチョーカーを付けている。寛也がつけてしまったキスマークを隠すために寛也が用意してくれたのだ。


「こんちには!」

「よう、駿里。初めましてだな。」


駿里が店の中に入ると店長がこの前言っていたもう1人のバイトの方が居た。


「はい!初めまして、漲 駿里です!よろしくお願いします!」

「よろしくな!俺は齋藤 希夜 (さいとう きよ)だ。店長、こいつめっちゃいい子ッスね。そんで可愛いしよ。」


希夜は駿里の髪をわしゃわしゃとしながら店長を見た。


「だから言ったろ。駿里、今日も頑張ろうね!」

「はい!」

「よし、オープンだ!」


その店長の掛け声で2人はそれぞれの仕事を始めた。2日目にも、なってしまえば駿里には御茶の子さいさいだ。常連さんにも顔を覚えられて可愛がられているほどに。


「駿里、今日も可愛いね~。」

「もう冗談言わないでくださいっ」

「ホントなのに。」


こんな感じでお客さんとも楽しく話している。名前も覚えられてる。色んないい人に囲まれているので駿里はこの仕事が大好きになった。


「駿里、これ持って行って上げて。」

「はい!」

「ありがとうね。」


駿里は店長に頼まれた料理とお酒をお客さんの所へ丁寧に持って行った。 


「お待たせしました。」

「おお駿里、ありがとう。」


お客さんにお礼を言われて駿里は笑顔で頭を下げた。そして別のお客さんが注文をしたのでそこに行こうとすると腕を掴まれた。


「どうかされましたか?」

「連絡先教えてよ。」


腕を掴んできたのは料理を持って行ったところのお客さんだった。強面の若い男性4人組で駿里は怖くなり怖気付いてしまったが、これも仕事のうちだと勇気を振り絞った。


「ダメですよ。お客様にそんな失礼なこと出来ません。」


駿里は精一杯の笑顔を作っそう言った。でもなかなか手を離してくれない。


「えー、いいじゃん。それに失礼じゃないよ?だから教えて。」

「そうだよ。連絡先ぐらいいいじゃん。」


駿里の手を掴んでいるお客さんの向かい側にいる男性が駿里のもう片方の腕を掴んできた。さすがに駿里はここまで来ると焦り出す。


「ね、お願い。じゃないと腕離してあげないよ。」

「ほら、早く。」

「それでも教えてくれないならちょっといじめちゃうよ。」


お客の男性が駿里のお尻の方に手を伸ばしてきて駿里がそれを避けようと身をよじったその時。


「お客さ~ん、こいつが可愛いのは分かるんすけどお触り禁止ですよ!」


駿里に触ろうとしてきた男性の手を寸前のところで希夜が掴んだ。そして駿里を守るように希夜は自分の後ろに立たせた。


「おー、希夜か。久しぶりだな。元気だったか?」

「お陰様で元気です!駿里、店長呼んでるから行ってくれる?」


居酒屋でお客に絡まれる事は珍しいことではない。ただ度が過ぎていたので希夜は駿里を助けに来たのだ。それに駿里が脅えているように見えたから。


「は、はい。」

「あーぁ希夜のせいで、駿里が逃げちゃったじゃん。」

「せっかく連絡先聞こうと思ったのに。」


駿里が遠くに行くのを見てお客さんの男性4人は文句を言った。


「もう飲み過ぎですよお客さんったら!ほら、水飲んで。」


このお客さんたちは常連で希夜のこともかなり気に入っている。だからそこに漬け込んで希夜は上手く場を収めようとした。


「ありがとねー希夜。」

「あとさ、もう一個これ欲しいから持ってきて。」


さほど飲んではいないが希夜の営業スマイル効果でなんとか収まった。


「かしこまりました。」


希夜は注文を受け取ると、駿里の所へと急いで行った。腕を掴まれた挙句に触られそうになったので希夜は駿里か心配であったのだ。


「駿里!」


駿里のところに行くと希夜は厨房で店長と話していた駿里の肩を掴んだ。


「希夜さん、さっきはありがとうございました。」

「いや、そんなの全然いいけどさ。それより大丈夫?」


希夜は駿里を自分の方を向かせて心配そうに顔色を伺った。


「大丈夫です!」

「ほんとに?無理してない?」

「ありがとうございます。でもほんとに大丈夫です。」


駿里は自分のことを本当に心から心配してくれる優しい先輩がいることに凄く嬉しくなった。あんな風に助けてくれるかっこいい先輩はきっとなかなか居ない。それにお客さんも傷つけずに。


「希夜のおかげだな。よく気づいた、さすがだ!」

「からかわないでくださいよ、店長。」


まさにアッパレだな、と店長が希夜のことを褒めまくるので恥ずかしそうにしていた。


「はは、いやでもありがとね。駿里も何も無くてよかった。これからも何かあったらすぐこいつか、俺が助けるから安心して仕事してね。」

「ありがとうございます!」

「駿里、気を取り直して働くぞ!」

「はい!」


駿里の笑顔を見て安心した希夜が肩を抱いてきた。そして一緒に厨房を出て仕事を始めた。


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「5人だよ~。」

「かしこまりました。こちらのお席にどうぞ。」

「サンキュー駿里。」


いつもの調子で仕事をしている駿里を見て店長も安心したようで、腕によりをかけて料理を作り始めた。


「へい、お待ちどうさん!」

「今日の店長はいつにも増して元気だね。いい事あったのかい?」

「まぁそんなところですね!」


いいなぁ~、とお客さん達に言われて店長はニカッと笑った。


「店長、注文です!」

「おっ、ありがとよ!」


お客さんは駿里が来たのをみて嬉しそうに目を輝かせた。


「駿里これ食べるかい?仕事を頑張ってるご褒美だ。」


断ればお客さんが気を悪くされてしまうかもしれない、だからと言って貰うのは良くないだろう。駿里はどうしたらいいのか分からず店長を見た。すると店長は受け取りなさい、と言うように優しく微笑んで頷いた。


「ありがとうございます!美味しいです。」


駿里が幸せそうに笑っているのを見てお客さんは駿里よりも喜んだ。立ち仕事な上にずっと動いているので駿里はお腹がすいていた。その為お客さんからのおすすわけはとても嬉しかったのだ。


「はは、良かった良かった。」

「駿里はほんとによく働くね。」

「それになんてったって可愛いんだから、駿里こっちおいで。」


ベロベロに酔っ払っているサラリーマンの男性に手招きされて駿里はそばによった。


「飲み過ぎですよお客さん、お水飲んでください。」

「えー、飲ませてよ。」

「分かりましたから、ほら飲んでください。」


駿里がお客さんにお水を飲ませようと口元に持っていった時お客さんが椅子から落ちそうになった。


「危ない!」


駿里は水を置いて咄嗟にお客さんの背中を掴み倒れるのを防いた。


「駿里、ナイスキャッチ。」

「やるじゃん。」

「あはは、ありがとうございます。」


駿里は寝落ちした男性と同じカウンターの席に座っていた男性客2人に褒められ恥ずかしそうにお礼を言った。バイト中は褒められてばかりだ。


「そのお客さんは俺に任せて。駿里は仕事して来ていいよ。」

「お願いします!」


とりあえずテーブルに寝かせて駿里は注文を取りに行った。今日はお客さんが多くて気づけばバイトが終わる時間になっていた。


「駿里、もう上がっていいよ!お疲れ様!」

「お先に失礼します!」

「次は明後日だね、気をつけて帰ってね!」

「はい!」


駿里は店長に挨拶したあと休憩室に着替えに行った。希夜は仕事をしている最中だったため着替えて荷物を取ったあとに挨拶に行こうとしていたのだ。


「駿里おつかれ!」

「希夜さん!もう上がりですか?」

「いや違うよ、駿里に渡したいものがあってね。どうぞ。」

「ありがとうございます希夜さん!」


駿里は希夜からストレスが緩和されるチョコレートを貰った。希夜は先程のことを気にしているのだろう。


「いいよ。気をつけて帰ってね!」

「はい!お先に失礼します!」


12時まで仕事の希夜は駿里を見送ったあとお店に戻って行った。そして駿里はそのタイミングで寛也に電話をかけた。


『もう着いてる。』


ワンコールもし無いうちに寛也は電話に出た。


 「はやっ!」

『さっさと来い。早くお前の顔が見たい。』

 「すぐ行く。」


駿里は電話を切って急いで裏口から寛也のところまで走っていった。


「おまたせ寛也。」

「待ってねぇぞ。寒いだろ、早く乗れ。」


3月下旬とは言えまだ夜は肌寒い。寛也は駿里を早く車に乗るように急かした。


「うん!」

「今日もいい顔してるな。良かった。」

「楽しかったんだ。」

「そうか、なら今からは俺が楽しませてやるよ。」


寛也は駿里の頬を掴んでキスをした後車を発進させた。


「よがり狂うほどにな。」
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