極道の密にされる健気少年

安達

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創始

143話 白状

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「お前らは帰れ。こいつのバイトの送迎は俺がするからよ。」


寛也は駿里をソファに押し倒して馬乗りになった。そしてその様子を見ている2人に帰るように言った。


「…はい。」


松下は起こすためだけに駿里にちょっかいをかけたがおかげで駿里と過ごす時間が減ってしまった。幸い寛也は怒っておらず逆に楽しんでいる様子であったのでそれだけが救いだ。


「寛也、優しくしてやれよ。昨日も無理させたんだろ?」


寛也が心底楽しそうな様子を見て司波は軽く忠告した。


「それは駿里の話を聞き次第だな。」

「では、俺らはこの辺で失礼します。」


松下と司波の2人が出ていこうとしているのをみて駿里は身を捩った。


「え、待ってほんとに行くの?」

「おう、じゃあな。松下行くぞ。」


当事者の松下は自分が送迎できなくなった悲しさからしょぼくれて司波と共に家を出ていった。駿里はと言うと全ての元凶の松下がいなくなり、怒りを募らせる。まぁ駿里が怒ろうが寛也にとっては怖いもなにもないのだが。


「駿里。」

「…なんでしょう。」

「これは?」


寛也は駿里の怪我している唇をなぞりながら顔を近づけた。


「寛也近いよっ、」

「お前が顔背けるからだろうが。」

「俺今からバイトあるのにっ!」


駿里は寛也が上に乗っている為に加え、頬を摘まれて顔を固定されているから逃げ道がない。でも今の駿里にはバイトという最高の見方があった。


「安心しろ、今は何もしねぇから。でも明日はバイト休みだろ?それに昨日風呂一緒に入ろうって約束したもんな。バイト終わりの楽しみが増えたな駿里。」

「楽しみじゃないから!」

「へぇ、じゃあお前の体に直接聞かせてもらおうか。」


寛也は駿里の首元に顔を埋めて何度もキスをして跡をつけた。そこから段々と上に行って口元までゆっくりとキスをしながら上がっていった。


「だめだってば、っ!」

「なんて言えば俺がやめるかわかってんだお前。それなのにそれを言わねぇってことは辞めるなって受け取っていいよな?」

「っ……。」


ほんとに焦っているのなら寛也が欲している言葉をいえばいい。それはこれまでの経験から駿里は絶対に分かっているはずだ。なのに言わない。と言うことは駿里は明らかにわざと寛也を怒らせようとしている。


「黙ってるところみりゃ図星だな。可愛いやつ。でもな駿里、俺は何があったのかを聞いてない。それを言ってくれるか?」

「うんっ………あのね、俺が昼過ぎになっても全然起きなかったから康二さんが起こしに来てくれたみたいなんだ。それでも俺が全然起きなくてさ。」

「はは、駿里らしいな。それで?」


寛也は優しくなったり意地悪くなったりする。きちんとTPOを考えて話しているのだ。そして寛也は話しながら駿里を起こして自分の膝に向き合うように乗せた。


「それで、それからも康二さんが粘ってくれたみたいだけど無理だったから、その……。」

「康二の手でイカされた、と。」

「…ごめんなさい、。」


駿里はまた寛也に嫌な気持ちをさせてしまった、と深く反省した。


「康二もバイトがあるお前を起こすために仕方なくだからな。それに駿里が起きなかったのは俺のせいだ。お前らは悪くない。だから謝らなくていい。」


だか実際は違った。寛也は幹部にはある程度のお触りを嫉妬をするものの許可しているから怒りもしない。それは松下らに相手をされることは駿里にとっても嫌なものでは無いことを分かっているからでもある。


「え…?怒ると思ってた。」

「悪くないのに怒らねぇよ。なんだ、怒って欲しかったのか?」

「ち、ちがう!」


と、言ったら嘘になるが怒って欲しいなんて恥ずかしいこと駿里には言う勇気がない。


「そうかそうか。バイトから帰ったら手厚く抱いてやるから安心しろ。」


寛也は駿里の頬を優しく撫でた。


「だから違うもんっ。」

「たく、なんでお前はこうも素直じゃねぇんだろうな。」


寛也は駿里を引き寄せて顎を甘噛みした。すると駿里顔は真っ赤に染った。体はこれでもか、という程正直なのに口下手でそれを駿里は口にして寛也に伝えることが出来ない。


「可愛くなくてすみませんねっ。」

「誰も可愛くないなんて言ってねぇだろ。お前は可愛い。」


可愛くてたまんねぇよ、と言いながら寛也は駿里を強く抱き締めた。


「もうこんな時間じゃねぇか。駿里、出る準備出来てるか?」

「うん、持っていくものは何もないから出来てるよ。」

「さすがだな。俺はまだだからちょっと待ってろ。」

「分かった。」


駿里は急ぎ足で寛也が寝室の中に入ったのを見るとーー。


「寛也が送迎してくれるの嬉しすぎる。」


嬉しさを表現するように駿里はソファに寝っ転がって幸せそうに笑いながらクッションを抱きしめた。


「幸せだあ。」


今度はうつ伏せになって足をバタバタさせた。その姿は映画でヒロインがよくやる光景のようだった。


「ほう、それは俺が居なくなってから言う意味があんのか?」


寝室に入ったはずの寛也の声が頭上からして駿里は勢いよく顔を上げた。


「いつから聞いてたの…?」

「さぁ、どうだろうな。」

「忘れて!」


ソファの背もたれを跨いで駿里の隣に座った寛也に言い寄った。駿里にとっては恥ずかしくて仕方がないだろうが、寛也からしたら嬉しい以外の何物でもなかった。


「は?なんでだよ、ふざけるな。なぁ駿里、直接俺に言ってくれないのか?」

「…だって、恥ずかしいから。」

「俺は言って欲しい。」


寛也はさっきのを聞いてしまえばもっと欲しくなってしまった。寝室に入るふりをして駿里の独り言を聞けたがそれだけでは足りないのだ。


「さっき聞いたんならいいじゃんか!」

「良くない。俺の目を見て言って欲しい。」


駿里は想いを伝えるのが下手とはいえ度を越している。前に言ってくれたのは寛也が半強制的に言わせた時や、体を一つにしている最中だ。だから、今寛也は駿里が自分の意思で言って欲しいのだ。


「…………………愛してる。」


寛也は自分が求めたこと以上のことを駿里が顔真っ赤にして言ってくれ嬉しさのあまり唇に噛み付いた。


「んふっ、…んん!?」


駿里はまだ完全に瘡蓋になっていない唇の傷に寛也の唾液がかかり痛みから顔を顰めた。でも今はその痛みすら幸せだと感じるのだった。


「バイトがなけりゃ抱き潰せるのにな。」

「でも俺はそのおかげでバイト頑張れるよ。」


顔を見ていうのはさすがに恥ずかしかったのか駿里は寛也の胸に顔を埋めて小さい声でそう言った。


「随分可愛いこと言ってくれるな。1個言っちまったら恥ずかしいのが吹っ切れたのか?ならこの気に死ぬほど愛を伝えてくれよ。」

「っ調子に乗るな!」


まだうっすら顔が赤いままの駿里は軽く寛也をシバいた。当然のように寛也はノーダメージだ。


「いいじゃねぇか。まぁ今はいい。バイトから帰ったら死ぬほど言わせてやる。」

「ならその倍寛也に言わせてやるんだからっ。」


駿里が寛也の頬をつまみながら言った。これは駿里にとって珍しい行動だ。寛也はバイト前というのに自分を煽る行動を沢山してくる駿里には頭を抱えるばかりだ。


「望むところだ。おっと、呑気にしてる話してる場合じゃねぇ。遅刻すんぞ。」

「大変だっ、行こ行こ!」

「ああ。」


今の時刻は4時30分。遅刻するほど時間ギリギリではないが長いエレベーターと渋滞している可能性を考えるとかなり危ない。だからいつも30分前には必ず出るのだ。


「あはは、急げっ急げっ!」

「お前楽しみすぎだろ。」


エレベーターに乗り込んで楽しそうにそう繰り返している駿里の頭に手を置きながら寛也が言った。


「このスリル堪んない!」

「アトラクションじゃねぇんだから。」


そうは言ったのもも寛也も楽しそうに笑っている駿里を見てつられて笑っていた。


「やっと一階に着いたー!」

「車まで走んぞ駿里。競走だ。お前が負けたら後で俺の言うことなんでも聞いてもらうからな。」

「あっ、ずるい!」


30歳の大人が競走だなんて言う状況にもかかわらず駿里は楽しそうに先に走っていった寛也を追いかけた。子供の頃から1度もしたことがなかった物をこの歳になってするなんて寛也には思いがけないことだった。駿里と出会ってから初めての事ばかりだ、と寛也は笑顔で走っていった。


そして事務所の窓から覗いていた松下は楽しそうに走っている二人を微笑んでみていた。


「俺の入る隙なんてねぇじゃねぇか。」


それは悲しいことのはずなのに何故か2人が他人が入る隙もないぐらい仲が良くて嬉しい気持ちでもあったのだ。


「何1人でニヤケてんだよ。キモイなお前。」


コーヒーカップを片手に休憩室で微笑んでいる松下を見て圷が苦笑いをしながら近づいてきた。


「うるせぇな圷。仕事サボってんじゃねぇよ。」

「お前が言うな。」


俺にもコーヒー作れよ、と言いながら圷が言い返した。


「俺は休憩中だからいいんだよ。」

「はぁ?まじかよ。俺の分手伝え。」


圷の直々の部下が仕事をやらかしたため、その分やるべき事が増えてしまったのだ。ほかの幹部に手伝いを求めれば良いのだが、ただでさえ仕事が多いのに人が良い圷にはそんなことは出来ないのだ。


「仕方ねぇな。」

「え、まじで?助かるぜ。にしても珍しいな。」

「たまには手伝ってやるよ。それにお前今日海斗とデートすんだろ?」


暇なら喜んで手伝ってやると言うのが松下の本当の気持ちだが、照れくさい為そういったのだ。


「優しいじゃん。ありがとな。」

「無駄口を叩かずにさっさと仕事やんぞ。」


松下は残っていたコーヒーをがぶ飲みして圷の肩をバシッと叩くとオフィス部屋へと向かっていった。圷はそんな松下の後を頼もしそうについて行った。
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