極道の密にされる健気少年

安達

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齟齬

117話 冠を曲げる

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松下らが部屋を覗くとそこには寛也が怒りを解放したようにガラスの皿やコップを床にたたきつけていた。床に目をやると、ガラスの破片がちらばっている。

そしていつもの頼もしい顔をした寛也が居た。



「1週間を待つ必要など御座いません。私は何があろうと駿里を渡すことはありませんからね。例え、大臣の孫であろうと、ね。あいつは俺の命ですので。」

「はっ!こりゃ傑作だ。自ら破滅の道を選ぶとは馬鹿な野郎だなあ!!だかな、どの道漲 駿里は手に入るんだよ!お前らを潰したあと回収すればいい話なんだからなあ!!ゴミ袋にでも入れてな!可哀想によ!全てを失った漲 駿里は自暴自棄に陥るだろうな!」



丘邊は唾を飛び散らかしながら叫ぶように言い、面白ろすぎる、と仰け反って笑っている。

その丘邊の唾が松下のスーツにかかってしまい、うわぁっ、と嫌な顔をして島袋を見る。島袋は松下の耳元で「どんまい」と囁き笑いを堪えていた。



「考え方が甘いですよ。丘邊様こそ、私を誰だと思っているのですか?どうやって旭川組を潰そうとお考えになっているのか分かりませんが、無駄ですよ。今の俺に楯突く者はいませんからね。返り討ちにされることが目に見えてますから。」

「はぁ?外国から殺し屋でも雇って送り込めばお前はどうすることも出来ないだろうが!強がってるのがバレバレなんだよ馬鹿があ!!ハハハ!!楽しいな、負け犬の顔を見物できるのは!」



丘邊は寛也のことを見下しながら歪んだ嘲笑が、刻みつけられでもしたようになっていた。歯茎をむき出し笑い続けている。



「だからそれが出来ねぇっつてんだろ。お前の無駄にでかいその頭に詰まってる脳みそは一体どうなってんだよ。俺は外国まで勢力を拡大してんだよ。情報が漏れねぇようにしてたからここまでは調べられなかったみたいだな。残念でしたね。丘邊様、潰されるのはどちらの方が先か勝負致しましょうか?」

「そんなはずは無い、俺はお前ら旭川組の事を調べまくったんだぞ。この期に及んで嘘ついてんだろ。どれだけ金をつぎ込んだと思ってんだ。」


丘邊が少し焦り始めている。冷や汗がダラダラと流れていき顔を濡らす。



「いいえ。嘘などついておりません。その調べた奴はインチキだったのでは?」



寛也はそう言いながら反省した。なぜこんな奴に緊張していたのだろうと。言葉を発する度に自信が大きくなっていく寛也とは裏腹に丘邊はどんどん顔が青ざめていく。



「それに俺はあなたのお孫さんなんて簡単にあの世送りに出来ますよ。喧嘩を売る相手を間違えましたね。言わなくてもお分かりでしょうが、あなたの要求は呑みません。それでは失礼します。もう二度と会うことは無いでしょうね。」



寛也にそう言われ丘邊は孫に駿里をプレゼントできなくなった事と寛也に負けた悔しさでその場にズルズルと座り込んだ。



「……満足か?お前は初めからこうなることが分かっていたのだろう?」



壁にもたりかかりながら目線だけ寛也移してか細い声でそう言った。



「いえ、初めからは思っていませんでしたよ。国務大臣相手ですからね。何を強要されるのか、どうなるのか不安で仕方ありませんでした。結果は誰にも予想できないものですから。ただ、これで私はかなりの自信が着きましたよ。どんな相手だとしても俺には勝てない、とね」

「そうかよ。言いたいこと言ったなら、さっさと失せろ。同じ空間にいるだけで吐き気がしてくる。」



丘邊は最後まで意地が悪かった。



「生まれて初めて負けを知ったようですね。ですが、丘邊様にそんな顔はお似合いではありません。以後このような事がないように厳重にお調べを。では、丘邊様の吐き気が増さないよう仰せのままに帰ります。失礼。」



寛也の後を続いて個室を出る最中、騒ぎを聞き付けた店のものに弁償代として森廣は大金を渡した。



「さすがです組長。」


丘邊に唾を飛ばされてテンションだだ下がりだった松下が褒め称える。負け犬の顔になった丘邊にスッキリしたのだろう。



「丘邊の後ろにたっていた部下の1人が俺の顔見知りでな。そいつの顔を見た瞬間にわかった。こいつはこちら側の人間だとな。親父が送り込んだスパイだ。この事にいち早く気づいて内密に俺を手助けしてくれたみたいだ。きっと御子柴と二人三脚でな。他のものには情報が漏れないように伝えずに。」

「そうだったんですか。」

「ああ。早く帰ろう。」

「組長、その前に宝物のネックレスを取りに行きましょう。」



森廣が誇らしげに言う。



「そうだな。圷はどこだ?」

「組長!」



探している圷の声が聞こえた。



「ネックレス直りましたよ!」



圷は、寛也が勝つと確証を持っていたのでここに着いた時に商談が終わったあと家に直交出来るようにネックレスを修理を出しに行っていた。思ったより早く直り走ってきたのだ。



「お前はほんとに気が利く、ありがとう。良かった。」

「いえいえ、お役に立てて嬉しいです。それと先程天馬から連絡が入って槐若様ともう1人来客が来ているみたいです。」

「誰だ?」
















***********











「なんで那香実がいんだよ。つか紛らわしんだよ、この状況で来客って言ったら丘邊の孫かと思っただろうが。那香実なら言えよ!」


インターフォンのカメラにはご機嫌そうに全力でカメラ越しに手を振っている那香実の姿があった。



「悪い悪い」

「思ってねえだろ。おい槐、お前が相手しろよ。俺は駿里がいるから無理だ」



天馬は槐の返事を聞くことをせずに寝室に戻って行った。



「たく、押し付けんじゃねぇよ。取り敢えず入れるか。」



槐は那香実に入ってくるようにインターフォン越しに行った。数分後長いエレベーターを昇ってきた那香実がリビングにに入ってきた。



「槐久しぶりね!お父さんから伝言預かったのよ。」

「は?親父?」



槐はただ単に遊びに来ていただけと思っていた那香実から予想していなかった言葉を聞き驚いた。



「そうよ。あなたが寛也の為にここまで飛んできた聞いたわ。だけど、お父さんが先に手を回していたみたい。情報が漏れないように内密にね。」



馬酔木からその事を聞いた那香実は寛也の家の近くにいたので槐に報告しに来たのだ。



「そうだったのか。さすが親父だな。お前がここに来たってことは寛也は上手くいったんだろうな。良かった。」

「上手く行き過ぎたぐらいらしいわよ。それにしても槐は優しいのね。弟のために茨城から飛んでくるなんて。」



那香実は、可愛ったらありゃしないわと槐をいじった。



「チッ、うるせぇな。黙ってろ。用が済んだから俺は帰る。」



槐がそそくさと部屋を出ようとすると、那香実に腕を掴まれた。



「水臭いわね。このメンバーが揃うこと中々ないんだから、たまにはみんなで話しでもしましょうよ。そういえば、駿里大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇ。寛也の事言っといた方がいいな。」

「ダメよ。寛也が帰ってくるまではね。駿里の不安を取り除けるのは寛也だけなんだから。」

「お前にしてはいいこと言うじゃねぇか。」



槐は那香実を見下ろし、上から目線で言った。



「どういう意味よ!」



2人の口喧嘩がヒートアップしてきた時リビングのドアが開いた。



「お前ら喧嘩すんなら帰れよ。人の家で何してんだよ。」



寛也らが帰ってきたのだ。



「あら、お帰りなさい。皆いるのね。寛也、駿里が寝室で待ってるわよ。」



那香実は寝室の方を指さしながら言った。



「悪い寛也。俺が余計なこと言って駿里を不安にさせちまった。」

「気にすんな。俺がなだめるから大丈夫だ。ありがとな兄貴。」



そう言って直ぐに寛也は寝室に直行した。その途中に天馬と出会った。



「よう、おかえり」

「天馬ありがとな」

「礼を言われるようなことは何もしてないぞ。早く行ってやれ。駿里はお前のことを待ってる。」

「ああ」



小走りで寝室に向かいドアを開けると毛布に蹲っている駿里の姿があった。



「駿里、ただいま。」



駿里は待ち望んだ声に涙が溢れた。



「そんなに不安にさせてたのか、ごめんな。だが、大丈夫だ。安心していいぞ。丘邊の孫からは何もされなかいから安心して暮らせる。丘邊のことを木っ端微塵にしてやったからよ。」



寛也はベッドに上がり駿里の所まで行くと力いっぱい抱きしめた。



「さすが俺の寛也。かっこいい」


駿里は鼻声になっていた。寛也が帰ってくる前も声を押し殺して泣いていたためだろう。



「あったりめぇだ。」

「ありがとう。寛也、俺もう少しだけこのままがいい」

「俺もだ」



そのまま2人は暫くベッドの上で抱き合っていた。
毛布にくるまり続けて暖まりすぎた駿里の体温と、外から帰ってきて冷えた寛也の体温が中和されお互いを癒していった。



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