極道の密にされる健気少年

安達

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齟齬

116話 怒り

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「槐さん、その事は寛也も知ってますか?」


沈黙が流れていたリビングで駿里が口を開く。


「知らねぇよ。俺は今日この事について話に来たからな」

「それなら俺から話します」


駿里は寛也に言わないでおこうとしていた。余計なストレスを与えたくなかったからだ。


「言わねぇつもりだろ。でもな、いずれ知ることになるんだ。寛也のことを思ってんなら早い内に言う方がいい。」


勘のいい槐には駿里が黙っておこうとしていることがすぐにわかった。とは言っても駿里の気持ちもわかるのでカバーをしながら言った。


「…はい」

「俺達もいる。1人で抱え込もうとすんな。もっと頼れよ」


天馬は、色んな感情が飛び交って浮かない顔をしている駿里に言った。


「駿里、悪い。少しの時間だけ寝室に行ってて貰ってもいいか?天馬に話したいことがあるんだ。」

「分かりました」


駿里は気持ちの整理をつけたかった。そのことを見越していた槐は駿里に考える時間を与えた。

言われた通りに駿里は寝室に行った。そしてそのまま槐に言われたことを考えていた。


「絶対に寛也には心配も迷惑もかけたくない。」


怖くて恐ろしくて仕方がないこの気持ちを押し殺した。そして寛也との思い出のアルバムを腕の中に入れて力一杯抱きしめた。


天馬はこっそりと駿里について行ったいた。毛布の中に潜り込んだのを見てリビングに戻った。


「槐、言うべきじゃなかった」


天馬も槐が駿里の為を思っていて言ったことだとわかっている。それでもあんな顔をさせたくなかったのだ。


「何も言わずに寛也達が警備を強化し始めたら余計に不安だろ。駿里は肝が据わってる。この世界のこともよく理解している。だから駿里は大丈夫だ。それに俺たちがいるんだからな。」

「わかってる。でも心配なんだ。国務大臣ときたらなかなか簡単に手出しはできない。今までのヤクザとの商談とは比にならないほど大変になるからな。なんで駿里ばっかりこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ。」

「ほんとにそうだよな。それと話したいことなんだが、丘邊の孫の件だ。」


槐はそう言いながら天馬にタブレットを見せた。


「こいつらやべぇよ。自分たちにはなんの力もねぇのに丘邊がいるからってやりたい放題だ。」

「厄介なやつらだな。分かってはいたが、やっぱ一筋縄ではいかねぇ。槐、俺やっぱあいつが帰ってくるまで駿里のそばに居る。こんな時に1人にするべきじゃねぇ」

「わかった。俺が行くと本音で話せないだろうから、此処で待ってる」


天馬は槐に頷いて寝室へ向かった。

駿里が被っている小刻みに毛布が揺れている。


「駿里」


駿里は聞き馴染みの声が聞こえるとガバ、と起き上がった。


「俺も一緒に寝ていいか?」

「うん」


駿里は天馬がキングベッドに入れるスペースを作ってそこに天馬が入った。


「ありがとな。駿里、自分が選んだ道をいけ。俺はお前がどんな選択をしたとしてもサポートするからよ。じゃ、おやすみ」


そう言われ天馬の方を向くと既に寝たふりかもしれないが、目をつぶって寝ていた。


「天馬さんありがとう、おやすみ」


駿里が目を閉じた時インターフォンがなった。その音は寝室にいた天馬と駿里には聞こえなかった。

リビングにいた槐は誰が来たのか確認しに行った。


「おいおい、まじかよ…」


槐はすぐに寝室にいる天馬に連絡を入れた。

今すぐリビングに来い、と。
その連絡を受けた天馬は急いでリビングに来た。


「どうした?」

「これを見ろ」


天馬はインターフォンのカメラを覗いた。そこにいた人物に驚きのあまり目を見開いてしまった。





 
 
 




 
 
 
***********



「悪いね、旭川君。それで君の要求は?」


丘邊は、寛也が話そうとした時スマホに着信があったので電話をしに行っていた。


「それでは改めて、こちらの要求は丘邊様の望むことを拒ませていただける権利を貰うことです。」

「そう来たか。まぁ、いいだろう。」


そう言って丘邊は手に持っていたワインを一気に飲み干した。そして嘲笑うかのように寛也を見た。


「なぁ、お前。俺の要求は香凛だと思っているだろう?」

「いいえ。思っておりません。」


寛也は顔色ひとつ変えずに言った。


「は?」


反対に思っていることが出やすい丘邊は寛也の発言に顔から笑みを消した。


「香凛はカモフラージュという事を分かっております。本来の目的は男孫さん達ですよね」

「チッ、初めからお見通しだったわけだな。胸糞悪い。やはり、こういう手は賢い奴相手には効かないな。そうだ、旭川君の言う通りだ。」


丘邊は余程腹が立ったようで持っていたグラスをテーブルに叩きつけた


「狙いは駿里ですか?」

「分かりきっているのなら聞くな。これ以上俺を怒らせると後悔することになるぞ。」


丘邊は寛也に鋭い睨みを聞かせた。

森廣はその様子を見てやっと狼狽えたなと思った。こうなれば流れはこちらのものだ。


「申し訳ございません。寛大なお心をお持ちの丘邊様ですので、甘えが出てしまいました。」


慌てふためく事はせずに寛也は謝った。


「次はないからな」

「肝に銘じます」


寛也の態度に満足した丘邊は一度大きく溜息をつき口を開いた。


「漲 駿里。俺の可愛い可愛い男孫が欲しいと言っているんだよ。性道具として、な。わかるか?」


話しながら丘邊は小型のナイフをポケットから取り出して部下から手に取った駿里の顔写真を突き刺した。


「駿里は物ではありませんよ。」


寛也は内心かなり腹が立っていた。なぜなら、丘邊が何度も駿里の写真にナイフを当てる行為をするからだ。後ろに立っていた森廣と北風も寛也同様に怒りが込み上げてきていた。


「俺にとったら物だ。旭川くん、物というだけありがたいと思えよ。漲 駿里は俺の男孫を喜ばせる道具でしかないんだからな。壊れたら交換するまでだ。」

「用済みになったらどうされるつもりですか?」

「捨てるに決まってるだろ。まぁ、用済みになることは無いだろうがな。かなり男孫達はこいつに執着しているから。だからちゃんと漲 駿里の言う事を聞くように躾をして孫にプレゼントする予定だ。閉じ込めて薬でも打ち込んで精神を壊してからな。」


今すぐにでも殺してやりたかったが、自分自身も駿里に同じことをしていたので何も言えなかった。


「失礼ですが、どこで駿里の存在を知ったのですか?」

「お前が知る必要は無い。で、?どうすんだ。俺の要求は呑むのか、呑まないのか。早く言え。」


少し追い詰められていたような表情をしている寛也を楽しそうにみながら丘邊が言った。


「まっ、直ぐには決められないよな。旭川くんは仮にも漲 駿里を愛しているからね。俺は優しいから猶予を与えてやるよ。断ったらどうなるのかよく考えておけよ。また一週間後に会おう」


丘邊が個室から出ようと席をたち、ドアに手をかけた時ーー。





ガシャン!!!




大きな衝撃音がして丘邊もその部下も振り返った。


「組長!どうされましたか!」

「お怪我はありませんか!」


その音には外で待機していた松下らも驚き、部屋をのぞきこんだ。 
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