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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
第244歩目 りゅっころ団結成!?
しおりを挟む前回までのあらすじ
なーに、してやったり顔してんのーヽ(`Д´#)ノ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夢見心地なインカローズを放っておいて、俺はモートマ伯爵と話を詰めていく。
前例がないだけに、王様を説得する為には具体的かつ建設的な意見が必要となる。
「竜殺し殿のお考えでは、「彼女達を社会への奉仕人にせよ」と?」
「はい。罪は罪です。それはきちんと償わなければいけませんからね」
「なるほど。確かに、周囲の者や市民を納得させる理由付けにもなりますな」
「おぉ」
さすがは為政者。
俺はそんなこと微塵も考えてなどいなかった。
悪いことをしたら謝る。
それ相応の誠意を見せる。
その程度のちっぽけな考え。
しかし、そうなると俺のほうでもある考えが浮かんだ。
「そういうことでしたら、「私の奴隷である」というのも告知したらどうでしょう?」
「......」
「自惚れる訳ではないですが、相当な効果を得られると思います」
市民を安堵させる。
その必要性があるのならば、『竜殺し』の異名は大いに効果があるはずだ。
市民をいちいち説得するよりも遥かに大きな成果が。
しかし、モートマ伯爵は首を横に振る。
「お名前を貸して頂けるのは大変ありがたいですが......それは色々と問題があるでしょうな」
「問題? メリットしかないように思えますが......」
「仮にですが、「竜殺し殿が山賊達の首領になった」とでも噂されたらどうするのですか?」
「!?」
「どんなに彼女達の素性を隠そうとも、彼女達が元山賊だったことはいずれバレます。世間とはそういうものなのです」
意外な角度から攻められたので意表を突かれた。
(そ、そうか......。周囲はそういう目で見ることもあるのか)
インカローズ達が元山賊だった、これは覆しようのない事実だ。
いくら奉仕活動に精を出したとしても、それが実を結ぶには時間がかかる。
つまり、その間は様々な問題点がバーゲンセールのように噴き出す訳で......。
そんなこと、全く考えてなどいなかった。
いや、考える余地すらもなかった。
だって、俺はインカローズ達のことを好意な目線で見ていたのだから......。
(うーん。まぁ、それでも仕方がないか)
確かに、正統勇者を目指す上で風評被害は痛いと言えば痛い。
ただ、それに関しては、俺が我慢して今以上に頑張ればいいだけなので───。
「そう簡単な話ではないですぞ」
「と言いますと?」
「ワシよりも、その者に尋ねられるのが良いでしょうな」
そう言って、モートマ伯爵はインカローズを指差す。
俺もそれに合わせてインカローズに振り向いた。
「えっと......どういうことだ?」
「あたい達のせいで、あんたが悪く言われるんだろ? それは我慢ならないね」
「え? そんなこと?」
「竜殺し殿、そんなことではないですぞ。上に立つ者にとってはとても重要なことなのです」
「!!」
モートマ伯爵の言葉に、インカローズが頷いた。
いや、インカローズだけではなく、カクタスさんも「うんうん」と頷いている。
「下の者の気持ちを蔑ろにする......それは決して誉められたリーダーとは言えませんな」
「別にさ、あたいが悪く言われるのはいいんだよ。だけど、あんたが悪く言われるのは嫌だね」
「そういうことですよ、竜殺し様。お優しいと言えばお優しいのでしょうが......その為に、ご自身を犠牲にされる点は竜殺し様の悪いところとも言えますね」
「うぅ......」
それぞれのリーダーからの猛攻撃にタジタジとなる俺。
「ないわー(´・ω・`)」
「......」
これ見よがしに追撃してくんな!
こういう時は空気を読めよ、この駄女神がッ!!
今になってようやく後悔の念が沸き上がる。
俺としては、みんながハッピーになれる良案だと思っていただけに、特に......。
しかし、この後、しょんぼりしてしまった俺に一条の光が差し込むことに───。
「そうですな。せっかくお名前を貸して頂けるのであれば、こういうのはいかがですかな?」
「......何か名案でも?」
「竜殺し殿個人の騎士団を立ち上げるのです。そして、彼女達を正式な騎士団員とする」
「え? 騎士団......?」
「竜殺し殿が立ち上げた騎士団ということであれば、騎士団員である彼女達が元山賊という身分であっても、人々の受ける印象は随分と異なりましょう」
「ちょっ! ちょっと待ってください!」
話がポンポンと進んでいくことに恐怖を覚える。
しかも、インカローズ始め『紅蓮の蒼き戦斧』も「おぉ!」とか感心している始末。
「良い話じゃないか! あんた、この話ぜひ受けなよ!」
「......いいから、ちょっと黙っててくれるかな?」
喜び爆発。モートマ伯爵の御前だというのに、そんなことはお構いなしに俺の腕に抱き着き、その豊満な胸を押し付けてくるインカローズを問答無用で黙らせる。
そもそもの話、個人が保有する騎士団とか聞いたことがない。
それ以前に、騎士団なるものを個人で保有してもいいのものかどうか......。
「どうでしょうな? 恐らくは前代未聞かと」
「伯爵すら分からないの!? 問題では!?」
「それを仰られるなら、山賊達の一件もそうでありましょうな」
「うッ......」
痛いところを突かれてしまった。
それを言われてしまったら、ぐぅの音も出ない。
「それに前代未聞の1つや2つ、今更増えたところでどうということはありますまい」
「えー」
ドワーフの寛大さというかおおらかさには、最早感心を通り越して呆れさえ覚える。
まぁ、だからこそ、インカローズ達のことを相談した訳なのだが......HAHAHA。
「先程も申し上げた通り、前代未聞の案件かと思われます。故に、その価値はとても大きい」
「価値、ですか?」
「竜殺し殿は、その目で直にフランジュ王国の隆盛を見てこられたはず」
「あぁ、そういう意味のですか」
現在、フランジュ王国は『竜殺し』生誕の地として、これまでにない隆盛と繁栄を極め、目まぐるしい発展を遂げている最中だ。
そういう意味では、確かに『竜殺し』誕生前と後では全く様相が異なると言える。
「我らも、それを羨ましいとさえ思っておりました」
「まぁ、それはそうでしょう。伯爵の立場なら特に」
「ですので、今回の騎士団立ち上げの名誉を、ぜひ我がカルディア王国のものとして頂けないでしょうか?」
「め、名誉って......少し大袈裟過ぎませんか?」
「いやいや。竜殺し殿は事の重大さを分かっておりませんな。そもそも───」
モートマ伯爵、曰く。
そもそも、ドワーフ族は勇者と協力関係を築いても、国で囲うことはしないらしい。
それは『勇者による恩恵は全種族に与えられて然るべき』という理念のもとに。
今回はそれを破るという。
まさにドワーフ族にとっては前代未聞だ。
また、『正統勇者に準ずる者は国で囲ってはならない』という国際法があるらしい。
それは『正統勇者はどの国にも肩入れせず公平に使命を全すべし』という理念のもとに。
今回はそれすらも破るという。
まぁ、正解には俺は正統勇者ではないので破ることにはならないが......。
それぐらいの熱意と名誉があると、モートマ伯爵はそう言いたいらしい。
「竜殺し殿の騎士団立ち上げは、まさに国家プロジェクトとなりましょう」
「国家プロジェクト!?」
「そうですぞ。「カルディア王国が全面的に後ろ楯となり、国事としてシンフォニア共和国に掛け合う」と、この場にてお約束しましょう」
「や、約束って......いいんですか? 王様に一言も相談せずに独断で決めても」
「王を動かすのもワシら家臣の務め。何ら問題はありませんな」
「えー」
カルディア王国にとってプラスとなる以上は独断専行も辞さず、ということか。
凄まじい王国愛と言える。
いや、だからこそ、王様もモートマ伯爵を都督として任命したのかもしれない。
「竜殺し殿、いかがでしょうか?」
「う、うーん」
悩む。悪い気はしないが、それでも悩む。
こういう重大な案件は、一度うちの参謀役であるドールと相談したいところだ。
(でもなぁ、ドールならきっと「受ければ良いではないか」、そう言うと思うんだよなぁ)
やはり、どう考えてもドールが「否」というはずがないようにも思える。
となると、一旦保留にするというのも何だか躊躇われる。
「アテナはどう思う?」
「なにがー(。´・ω・)?」
「お、おま!? 話を聞いていなかったのか!?」
「ちがうよー。なにが問題なのー(・ω・´*)」
「あぁ、そういう意味か。言葉足らずなんだよなぁ、全く......」
アテナもこう言っていることだし、ドールも多分大丈夫だろう。
それに何よりも、俺がここで騎士団を立ち上げることが結果として、『インカローズ達がお天道様のもと、堂々と胸を張って活動できるようになる』、それが一番嬉しい。
「分かりました。騎士団立ち上げのお話、喜んでお受けさせて頂きたいと思います」
「「「「「「おおおおお!」」」」」」
俺とアテナを除き、一斉に沸き上がるギャラリー。
ケセラさんとインカローズなどは抱き合ってさえいる。
(あ、あの、君達? 一応、モートマ伯爵の御前なんですが......)
「良かったじゃないか、ローズ。竜殺し様の一騎士団員とかちょっと羨ましいよ」
「ありがとう、ケセラ。あたい、仕事も恋も一所懸命頑張るよ」
最早、インカローズなどは嬉しさを隠しきれないでいるようだ。
子供のようにぴょんぴょんと跳びはね、喜びを体全体で表している。
となると、当然大きいスイカがぶるんぶるんと目の前で豪快に揺れている訳で......。
(うーむ。この揺れ......震度6!)
え? 不謹慎だって?
慶事の時ぐらい、大目に見る余裕を持ちなさいなッ!
※※※※※
さて、これで俺の騎士団が出来上がった訳だ。
しかし、ここで一つの問題が浮上してきた。それは───。
「名前は!? 騎士団の名前はどうするんだい!?」
「あー、騎士団名かぁ」
「カッコいいのを付けておくれよ? あんたとあたいの騎士団なんだからさ」
「......。い、いきなり、そう言われてもなぁ」
インカローズの唐突な催促に焦る。
ある部分についてはスルーだ、スルー。
(名付けとか苦手なんだよなぁ。なんだかセンスを問われているようでさ......)
無難なものを付ければ、「地味」と言われるかもしれない。
だが、奇抜に富んだものだと、「あ、はい」と呆れられるかもしれない。
結局、俺が出した答えは───。
「......伯爵はどう思います?」
モートマ伯爵に丸投げすることにした。
騎士団立ち上げを全面的に協力してくれるのはモートマ伯爵だ。
ならば、騎士団の名付け親はモートマ伯爵、当然の流れだろう。
「そうですな。ここは無難に『竜殺し騎士団』で良いのではないですかな?」
「え? まさかのそのままとか......さすがに地味過ぎませ───」
「良いじゃないかい、それで! いかにも、「あんたの騎士団」って感じがするよ!」
「えー。それでいいのか、インカローズ......」
誰もが始めに思い付きそうな、最も地味なものが好評とか。
(なんだよ、なんだよ。これじゃ、真剣に悩んでいた俺がバカみたいじゃないか)
あぁ、いいだろう。
だったら、俺もシンプルかつカッコいい名前を出してやるまでだ。
「『殺し』の部分を抜いて『竜騎士団』とかはどうだろう? こっちのほうがカッコいいと───」
「却下ですな」
「それはありえないね」
「なんで!?」
まさかの即却下。
俺のガラスのハートは粉々さ。HAHAHA。
「竜だけでは印象が悪過ぎますぞ? 竜族が真っ先に思い浮かびますからな。あやつらは人類の敵です」
「あんたは『竜殺し』だろ? なんで竜族なんぞに肩入れするのさ」
「......モリオンが聞いたら泣くぞ、これ」
当然と言えば当然なのかもしれないが、竜族への印象が悪過ぎる。
そして「そんな最悪な印象の名前を付けるのはどうかしている」ということらしい。
(はいはい。悪うござんしたね。『竜殺し騎士団』で良いよ、もう......)
ここ最近ずっとそうだ。
少し色を出そうとすると、全てが裏目となる。
「あ、いや。あくまで仮、『竜殺し騎士団(仮)』ですからな」
「そんな某ソシャゲ名などにしなくても大丈夫ですよ。『竜殺し騎士団』で」
「べ、別にさ、あんたに文句を言う訳じゃないんだよ?」
「......お気遣いどうも」
俺が拗ねてしまったことで慌てる二人。
その心遣いが、更に俺の惨めさを増長させるとは思いもせずに......。
・・・。
とにもかくにも、俺の騎士団は『竜殺し騎士団』と、そう命名された。
俺的には、あまりにもそのまま過ぎて気にはなるが......。
当の団員であるインカローズが気に入っているようなので、これで決定だ。
しかし、それに異を唱える者が現れ出した。
「なんかさー、語呂悪くないー?r(・ω・`;)」
そう、みんなご存じの、駄女神ことアテナだ。
せっかく場が収まりそうだったのに、改めて波風を立てるなんていつものことだ。
「語呂とかどうでもいいだろ」
「よくないでしょー。愛称はひつよーだよー(・ω・´*)」
「愛称......? 必要か、それ?」
「有名な団体には必ずあるでしょー? それだよー! 愛され騎士団にならないとさー(`・ω・´)」
「一理......あるか? じゃー、アテナが愛称を考えたらどうだ?」
「いいのー!? Σ(・ω・*ノ)ノ」
俺は「はいはい。勝手にどうぞ」と適当にあしらう。
所詮、愛称なんぞ周囲が勝手に決めるものだ。
俺達が今決めたところで無意味だろう。
そう考えていたら、アテナからは意外な愛称が返ってくることに───。
「じゃーねー、『りゅっころ団』とかー(`・ω・´) 」
「......は? なにその『くっころ』みたいなニュアンスは」
「それそれー! 「竜殺しっ、殺せ!」みたいなー! あーははははは( ´∀` )」
「まさかのそのままとか」
「ちゃーんと『竜殺し騎士団』をモジってるよー? それにねー、団員はみーんな女騎士でしょー? だったらー、ピッタリじゃなーい( ´∀` )b」
「意外と考えてた!?」
とは言え、さすがに『りゅっころ団』はない。
騎士団としての威厳もへったくれもないし、そもそも名前が変だ。
元より期待してはいなかったが、予想通りの結果に落ち着いたと言える。
(所詮、アテナ(笑)だもんなぁ)
しかし、事態は思わぬ展開へと移っていくことに───。
「良いのではないですかな? 非常に覚えやすいですし」
「あたいも良いと思う。あれだろ? 巷で話題のカッコかわいいってやつだろ?」
「え!? 二人とも本気で言ってるの!?」
「じゃー、『りゅっころ団』で決まりだねーo(≧∇≦)o」
「マジか......」
こうして、『竜殺し騎士団』───愛称『りゅっころ団』が結成されたのだった。
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