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第7章 躍進 -乙女豹アルテミス編-
第245歩目 ダンジョンデート!
しおりを挟む前回までのあらすじ
りゅっころ団、かわいいよねー(*´∀`*)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『騎士団の立ち上げ』
それは本当に国家プロジェクトになる様相を見せている。
家臣の方から聞いた話では、なんでもモートマ伯爵は相当息巻いているとか。
日々、酒樽を片手に「竜殺し殿がご滞在中の間に、ある程度の目処を付けるぞ!」と、自分と家臣を叱咤激励しつつ、政務室に籠りっきりで食事すらもまともにとってはいないらしい。
(というか、酒は呑んでいるかーい!)
その為、俺達はゲルゴナにて、ある程度の滞在を余儀無くされることになった。
具体的には1ヶ月ほどを予定している。
それ以上は無理。
とある都合上、先を急ぎたいので少し厳しい。
という訳で、ただモートマ伯爵の結果を待っているだけなのも退屈なので───。
「主、どこかに出掛けるのか?」
「あぁ、久しぶりにダンジョンにでも行ってこようかと」
「む。そうか」
ちなみに、騎士団立ち上げの件をドールに話した際は珍しく誉められた。
上機嫌で「やればできるではないか!」と、まるで俺が発起人でもあるかのように。
その時、俺がアテナとともに小躍りしたことは言うまでもないだろう。
ドールのような『特別デキる子』からのお褒めの言葉は、『普通でしかない俺』にとっては何よりも嬉しいものだからな。
男は誉めて伸ばす!
全てはこの一言に限る。
だから、もっと誉めて欲しい。
まぁ、そう言ったら、「図に乗るでない!」と叱られたけどさ。HAHAHA。
「悪いな。せっかく攻略の許しを貰っているんだ。無駄にしたくはない」
「みなまで言わずとも分かっておる。気を付けて行ってくるがよい」
「ありがとう。行ってくる」
俺は残念そうにしているドールを置いて、一人ダンジョンへと向かうことにした。
※※※※※
ダンジョン前までやってきた。
そして、俺はその大きさに思わず見上げてしまった。
「これがダンジョン......? いやいや! まるで城じゃねえか!」
「まるでというか、城さ」
目の前にそびえ立つは大きな城。
例えるなら、険阻な山を利用して築かれた城。
そう、戦国時代の山城がまさにピッタリな印象だ。
「ドワーフってのはモノを作るのが好きだからねぇ。ダンジョンも洞窟型よりかは、こうした城型や建物型が自然と多くなるのさ」
「な、なるほどなぁ」
モデルが戦国時代の山城というのは、きっと歴史好きな勇者の影響なのだろう。
ドワーフと勇者達は技術面においては提携を結んでいるというから、その流れで。
「こういう雰囲気が良い場所だと、自然とあたいも力が入るってもんさッ!」
「雰囲気が良い......?」
俺には全くそうとは思えない。
洞窟型よりも、より圧迫感というか威圧感を感じる。
というか、それ以前に───。
「......なんでここに居るんだ?」
「『あんたの居るところにあたい在り』さ!」
「お前はなんここの先生かよ!?」
「なんだい、それは?」
「くッ! やはり通じないか!」
冗談はさておき、インカローズがここに居たのは偶然らしい。
いや、必然的な偶然と言ったほうが正しいのかもしれない。
そもそも騎士団を立ち上げるにあたり、インカローズ及び女山賊達全員をモートマ伯爵の善意と好意により、再び冒険者登録することになった。
奉仕活動の主な目的は、何も地域ボランティアだけには留まらない。
時には冒険者達のお手伝いや自警団みたいなこともさせる予定でいる。
となると、「冒険者という身分はあったほうが良い」とのモートマ伯爵の判断。
「ちょうど今、試験が終わったところさ」
「あぁ、それでか」
結果、ダンジョンにも当然潜る可能性が出てくるという訳だ。
その為の試験を、今しがたインカローズは終えてきたらしい。
「どうだった?」
「余裕も余裕さ。あたいは元Sランカーだった訳だしね」
「だよな。聞いた俺がバカだった」
インカローズと戦ったことがある俺だからこそ分かる。
彼女の実力は他の女山賊達よりも頭2つ分以上は飛び抜けている。
それこそ、実質はSSランカーとまで言われている『紅蓮の蒼き戦斧』のメンバーに少しも見劣りしないほどの腕前なので、彼女自身も実質はSSランカー級だと見ていいかもしれない。
「これであたいもAランカー。あんたと一緒にダンジョンに潜れるって訳さ」
「いやいや。俺は一人で......」
「なに言ってるのさ。別に一緒でも良いだろ? 足手まといにはならないよ」
「待て待て。それじゃ、アテナ達を置いてきた意味が......」
「嫌だね。あたいも一緒に行く。もう遠慮はしないと決めたんだ」
「......」
どうやらインカローズの意志は固いようだ。
今は『虎猫の義賊団』元首領だった時の意志の揺るがない強い女性の顔をしている。
「それにさ、ダンジョンデートってのもまた乙なもんじゃないか! 楽しみだよ!」
「ダ、ダンジョンデート? お前な、それはさすがにどうかと思うぞ?」
「そうかい? あたいはあんたと一緒なら、どこでもデート気分さ!」
「グイグイくるなぁ、全く......」
「当たり前だろ? あんたを絶対堕としてやるんだからさッ!」
自信たっぷりに、そう宣言するインカローズ。
少し恥ずかしそうに「にししッ」と笑っているその姿はどこか可愛らしい。
「まぁ、この際別にいいか」
「そうこなくっちゃ! さすがあたいが見込んだ旦那様だよ!!」
「旦那、言うなッ!」
こうして、インカローズ曰く、ダンジョンデートが始まったのだった。
※※※※※
ブウンッ!
───GA?
豪快な風切り音とともに、縦に真っ二つに裂けていく魔物の姿。
それはさながら、まな板の上で包丁に切られた大根のように瑞々しい。
───GAAAAAAAAAAA!
そして、上がる断末魔。
それはまるで、台所から聞こえてくる「トントントントン」という料理音のようだ。
そう、舞台は戦場ではなく、インカローズの料理場へと変貌していた。
「どうだい?」
「お見事」
現在はダンジョンの中層とも言って良い場所となる。
元々心配などしてはいなかったが、やはり予想通りの結果となっていた。
(やるなぁ。相当強いぞ、これ)
俺が見てきた現地人の中では最強クラスだと言っても良いかもしれない。
それだけに本当に惜しい。
仮に道を外さず真っ当な人生を送っていたら今頃は、と思うと本当に。
かと言って、何が原因で山賊となったのかは知らないし、聞くつもりも一切ない。
山賊とはいえ義賊。余程の事情があったことだけはある程度なら推し量れる。
それに何よりも、事情を聞いてしまったことで別の情が沸いてしまいそうだから。
「だろ? 足手まといにはならないさ」
「甘い甘い。ここは中層だぞ? 本番はこれからだ」
「あぁ、分かっているさ。任せておきな!」
はい。とても男らしい返事を頂きました。
肩にドッシリと担いだ2m近くもある巨大な両刃斧がなんとも頼りになる。
本当に安心感を覚える、『紅蓮の蒼き戦斧』のお株を奪うような巨大な両刃斧には。
余談だが、実は『紅蓮の蒼き戦斧』のメンバーは誰一人として斧を扱ってはいない。
では、なぜPT名が『戦斧』なのかと言うと......「斧がカッコいいから」らしい。
(......斧がカッコいい?)
アテナもそうだったが、こっちの世界の人の美的感覚がよく分からない。
ハルバードならともかく、斧がカッコいいとはとても思えないだけに、特に......(※あくまで主人公の個人的な意見です)
閑話休題。
ともかく、インカローズの武器は巨大な両刃斧となる。
それをまるで小物の武器かのように軽々と扱うのだから驚かされる。
実際、インカローズに借りて持ってみたが、相当重い。
俺でもこうなのだから、恐らく並大抵の者では持ち上げることすらできないだろう。
しかも、見事なのはそれだけではない。
───GYAAAAAAAAAA!
───GYAAAAAAAAAA!
───GYAAAAAAAAAA!
複数の魔物が見事な動きで、インカローズの脇をすり抜けてこようとしている。
中層ともなると、複数の魔物が出てきて連携を取るのはもはやお馴染みの光景だ。
(さて、どう出る? インカローズ)
俺はすり抜けてきた魔物に備えるため、魔法を準備してインカローズの動向を見守る。
数は暴力にして厄介だ。
いくら実力があろうとも、数の暴力には対応できないことが往々にしてある。
かつてのモリオンがそうだった。
結果、モリオンは短気を起こして対応できずに、そのまま終わってしまった。
だが、インカローズは───。
「おっとぉ! こっから先は行かしゃしないよッ!」
それを確認すると驚くべき行動に出た。
正面の魔物を巨大な両刃斧で真っ二つに切り裂いたと思いきや、なんと自分の生命線である武器からは手を放し、真っ二つに切り裂いた体の勢いそのままに、その場でクルッと一回転。押し寄せる複数の魔物に見事な回し蹴りを次々と喰らわせていった。
その姿は、まるで解き放たれた回る独楽のように激しくも荒々しい。
そして、その回転の反動を利用して再び両刃斧を手にすると、また多くの魔物をまな板の上の大根のように「スパッ! スパッ!」と真っ二つに切り裂いていく。
それの繰り返しだ。
それをただひたすら繰り返して、見事に魔物の進行を全て防いでいる。
その鬼気迫る迫力には「猫一匹たりとも行かせはしない」という強い信念を感じる。
「竜殺しが見てるんだ! 行かせる訳がないだろ!」
「ん?」
「あたいのアピールの場の生贄にでもなっておきなッ!」
「......」
もう! この娘ったら恥ずかしい!
いちいちそういうことを言うんじゃありません!
インカローズの好き好きアピールは今日も元気だ。
(そ、それにしても見事なものだなぁ)
感心するというか魅入ってしまう。
確かに、インカローズの動きは元山賊だけあって荒々しい。
だが、荒々しい中にも洗練された動き、きちんと鍛えられた形跡が見てとれる。
(こうまで違うものなのか......)
俺の、力にかまけたなんちゃって剣術や体術とは一線を画している。
俺の場合は『力に使われている感』が非常に強い。
とはいえ、レベル制絶対主義の世界だから、それでも十分に適用してはいるのだが。
「おらおらおら! そんなもんかい? あたいをもっと楽しませなッ!」
だが、こうしてまともな武術を目の当たりにすると、確かに感じるものがある。
俺も誰かにきちんとした武術を習いたいなぁ、と。
(でも、インカローズではダメだな。条件を全然満たしてないもんなぁ)
最低でも俺よりかは強いこと。
その必須とも言える条件を全くと言っていいほど......。
「芸がないんだよ───っとぉ! バカの一つ覚えみたいに同じことの繰り返しでさ!」
「本当に見事なものだ。美しい」
再び、インカローズが回る独楽のように宙を舞う。
やはり、洗練された動きは美しい。
きちんと修めた武術は一つの芸術作品とも言える。
「ほ、本当かい!? (あたいは)そんなに美しいかい!?」
「あぁ、(洗練された動きは)美しい。そうだな......お前には『独楽姫』の称号を贈りたい」
「ひ、姫!? いやいやいや! 『独楽姫』ってさ、あんた......すごく微妙なんだけど?」
「そうか? 俺にしては言い得て妙な、ナイスネーミングだと思うんだけどなぁ」
新たな『独楽姫』の誕生。
誰かに武術を習いたいという高まる想い。
そんな中、俺とインカローズの初めてのダンジョンデートはまだまだ続いていく。
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