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さて、べランジェールから追加の支援金を受け取ったコルテオは、早速帰り道に必要な画材を揃えた。そして今までの鬱憤を晴らすかのように、作品づくりに取り掛かった。翌月末には王国展覧会に出す絵の応募締切があるため、そこを目指した。



しかし、コルテオの画家生活は順風満帆に進まなかった。



コルテオに200フランが支払われるようになって二回目の日のことである。

モデルをするためコルテオのアパルトマンに訪れたヴァネッサは異変に気づいた。前月も画材が充実していることに違和感を覚えていたのだが、コルテオの生活に余裕があるように見えている。コルテオの顔には生気があり、最新作の絵画たちが所狭しと並べられていた。


「ねえコルテオ。最近、絵は売れてる?」


ヴァネッサは部屋を見渡しながら探りを入れた。月半ばの十六日にいつもモデルを約束しているのは、コルテオの支援金支給日が毎月十五日だと知っているからである。加えて彼女は、支給金額も把握していた。自分に90フラン払っているコルテオに余裕があるはずないと思っている。

コルテオは愛しのヴァネッサが来た喜びで満面の笑顔になった。毎月一度の楽しみであり、コルテオの生きがいでもあった。


「ヴァネッサ、よく来たね! 絵は売れていないんだけど、ベランジェール様のところへは持っていってるし、同時並行でたくさん描いてるよ! 王国展覧会にも応募する作品もいよいよ最終仕上げさ! 渾身の力作だから、そのうちヴァネッサにも見てほしい」とコルテオは頬を赤らめつつ、自信たっぷりで言った。


「……なによりね。あなたの成功がわたしたちの未来をつくるんだから、頼りにしてるわよ。天才画家さん」


絵が売れていないのなら、どこからお金を手に入れたのだろう。ヴァネッサはコルテオをしげしげと見つめつつ、考えを巡らせた。一方のコルテオは「天才画家」と言われたことに感激し、興奮のあまりヴァネッサに抱きついた。しかし彼女はそれをやんわりと拒むようにし、「申し訳ないんだけど、今日はあまり時間がないから、早く描いてくれると嬉しい。勘違いしないでね、わたしも会えてすごく幸せなのよ」と言った。

コルテオは自分の行為が避けられてしまい、恥ずかしい気持ちになった。彼女の愛らしさの前にあって、出過ぎたことをしてしまったと反省した。


「うん、わかったよ! ヴァネッサは本当に可愛くて、何度見ても惚れ惚れとしてしまうよ。モデルで引っ張りだこになってるのも当然だ!」


実際のところ、ヴァネッサの容姿は普通かそれよりもちょっといいくらいに見られるのが世間の相場だった。なので彼女にとって、コルテオが「可愛い」と褒めてくれるのは純粋に嬉しかった。自分を一番だと思ってくれる人と一緒にいるのは、心地よいものである。しかし、彼女がコルテオに近づくようになったのは好意を抱いていたからでも、自尊心を満たすためでもなかった。

ある男の指示だったのである。
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