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皇子視点3 帝国の問題令嬢と婚約させられました
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パトリシア・ロウギル、俺と同じ15歳で今年16歳になる。この春からリーズ王国の王立学園に入学する。黒髪黒目で背は女性としては普通、見た目は地味な感じだった。
元々、彼女の母が彼女を生んで死んだので、男爵らから忌み嫌われて遠縁の親戚の元で育てられたそうだ。ちょうど俺が転移した時に同じ村の山手で生活していたのも確認した。
ただ、どうひいき目に見ても、彼女があのピンクの女神とは思えなかった。
しかし、彼女の連れていたペットはトカゲなどでなく、どう見ても古代竜の子供だ。
でも、あの卵なら、既に生まれてから7年くらい経っている。基本的にはもっと大きくなっているはずなのだ。
なのに、何であんなに小さいのだ?
それに、彼女がピンクの女神で無いのなら、古代竜の卵を拾って孵っただけなのか?
でも、あの古代竜の雛が何でもない平民の女になつくのか?
それはあり得ない話だ。まあ、俺たちが目指していた刷り込みが成功しただけかもしれないが……パティに抱かれている様子を見る限り完全になついていた。
その上、古代竜のガキは俺をチラ見して、フンっといかにも馬鹿にしたように見下したのだ。
俺の能力を見極めたように……
どういう事だ?
そのくせパティのない胸に顔を摺り寄せてピーピー鳴いて甘えているのだが。
そのギャップが酷いんだが……
パティの足取りを調べたところ、12歳の時に男爵家に引き取られた後、アープロース侯爵家のローズの所でお嬢様付きの侍女をしていた。そして、すぐにお嬢様とブラッドの仲を裂いたとして、実家に帰されているのだ。
でも、あの姿かたち、性格、どれをとっても侯爵家の嫡男、ブラッドを虜にしている理由が判らなかった。何しろあいつの容姿や地位を考えれば貴族の子女がほっておくわけは無いのだ。ほっておいても貴族の令嬢が寄ってくる中で、あの地味なパティに執着する意味が理解できなかった。それも、古くからの名門アープロース侯爵家の令嬢との婚約を解消してまで、近付く意味があるのか?
そもそも、男の俺から見てもローズ嬢の方が令嬢としても女としてとても魅力的なのだ。
何をトチ狂ったのかとほかの男どもからも馬鹿にされているのだ。
そこまであのブラッドを執着させる何かがあるのだろう! それが何かだ?
まあ、ローズ嬢は我儘として有名だったが、我が国の悪役令嬢に比べれば全然ましなはずだし。
その悪役令嬢がなぜかこの国にやってくるのだ。
「マチルダ嬢がそちらに行きたがっているから、後はよろしく」
と久々に父からもらった手紙に書かれていた内容に俺は目を見張った。
何故、疫病神がこの小国リーズ王国にやってくるのだ。
昔からあいつは第二皇子と結託して数々の悪戯をやっていた。しかし、こんな辺境の地にあいつがやってくる意味が判らなかった。
冷徹な鉄拳宰相のかつらを釣り上げた一件はいまだに帝国貴族界では伝説になっている。
宰相にとっては良い面の皮だったろう。マチルダの父で傲慢な態度が多い公爵が、なんと平謝りに謝っていたとか。
そんな奴がこんな小国にやってくればこの国にとっては天災以外の何物でもないだろう。
生徒会長の王太子なんて頭を抱えていた。
俺にも「何しに来るんだ? こんな辺境の地に?」
と聞いてきたが、俺も良く判らない。
帝国では、元々母が廃嫡されたこの国の王家の血筋を引いている地位の低い第三皇子の俺とはあまり接点が無かったし、この国に来てからは完全に没交渉だったのだから。
彼女の父の公爵からもくれぐれもよろしく頼むと大量の贈り物が贈られてきたんだけど、どういう事なのだろう?
その上、俺の屋敷の横に空いていた巨大な屋敷を買い取って本人が住むみたいだが、何故だ?
「若、これはチャンスですぞ! 是非とも公爵令嬢をものになさいませ」
帝国から俺についてきたじいはそんな事を言うが、あれだけは嫌だ。
結婚したら尻に敷かれて、あいつが行った数々の愚行の矢面に立たされるに違いないのだ。
それに、俺の未来の花嫁はピンクの女神と決めている。
「そのような夢物語など、寝ている時に言って欲しいですな」
じいには馬鹿にされたが、俺はあきらめきれなかった。
でも、思い返すに、あの地味なパティがピンクの女神なのか?
と思うと、何か違うと俺の本能が叫んでいるんだけど。
ピンクの女神は、もっと可憐で華奢だけど、神々しいのだ。あの躍動感のある躍りはピンクの舞として俺の脳裏に焼き付いていた。それと違いすぎるのだ。
「それよりもそのマチルダ様があいさつにいらっしゃいましたが」
俺は会いたくなかったが、じいに促されて、やむを得ず応接室に向かった。
「久しぶりね。ジル。相も変わらず、冴えない様子だこと」
マチルダは会うなり、こう言うと笑ってくれやがったのだ。
「ふんっ、相も変わらず、傲慢な女だな」
俺が思ったままを言うと
「それが未来の花嫁に言う言葉なの?」
色々突っ込みたいところがあったが、俺は花嫁の所で固まってしまった。
「はああああ! なんで俺がお前を娶らなければならない」
俺は叫んでいた。
「ああら、せっかく後ろ盾になってあげようとしたのに」
恩着けがましくマチルダが言うが、疫病神が取りつく未来しか見えない。
「いるか! 貴様は兄貴に何を言われて来たんだ?」
俺は第二皇子の介入を警戒したが、
「何も……それよりも、由緒正しき帝国の第三皇子が田舎の村長の娘にうつつを抜かしていると聞いて陛下が慌てたんじゃない?」
「何故親父が気にする。今まで見て見ぬふりをしていたではないか」
俺が聞くと
「ああら、陛下は、貴方の事を気にしておられるわよ。少なくとも私を婚約者にしようとするくらいには」
「だから、それは断る」
俺はマチルダに言い切った。
「ええええ! こんないい女を断ると言うの?」
「何がいい女だ。悪女の間違いだろう。陛下が俺の婚約者にしたいのはお前を帝国から厄介払いしたかったからだろう」
「まあ、失礼なことを言うわね。私とあなたが手を組めば帝位など簡単に手に入るわよ」
「別に帝位などいらん」
「あなたが要らなくても皆の思惑は別よ。皇帝にならくて生き残れると思うの?」
「ふんっ、その時はその時だ」
俺は心配そうにするマチルダに言ってやったのだ。
「まあ、古代竜の卵を盗もうとして、失敗したあんたなんて弱い奴は私の方も願い下げなんだけど」
馬鹿にしたようにマチルダが言ってくれた。
「何とでもいえ!」
こいつ、その件を何で知っていやがると思いはしたが、こいつも公爵家の娘、第二皇子とも親しいし、いろんな情報は手に入るんだろう。
「私も婚約なんて、どうでもいいんだけど、私のパティは渡さないからね」
「ぱ、パティ?」
何故こいつの口からパティの名前が出る? 名前が同じだけの他人か?
「パトリシア・ロウギルよ。彼女は私のお気に入りだから」
「ちょっと待て。マチルダ。お前、パティとどこで知り合ったんだ?」
「それは秘密よ」
マチルダは不敵に笑うと応接を出て行ったのだ。
「いや、ちょっと待て!」
止めようとした俺の手を躱すと何かを投げてよこして出て行ったのだ。
俺は唖然としてそれを見送った。
「えっ!」
その俺の手の中の書面を見て俺は思わず悲鳴を上げそうになった。
その書面は俺とマチルダの婚約書面だったのだ。そして、その中にははっきりと皇帝陛下とアラプール公爵のサインがなされていたのだった。
元々、彼女の母が彼女を生んで死んだので、男爵らから忌み嫌われて遠縁の親戚の元で育てられたそうだ。ちょうど俺が転移した時に同じ村の山手で生活していたのも確認した。
ただ、どうひいき目に見ても、彼女があのピンクの女神とは思えなかった。
しかし、彼女の連れていたペットはトカゲなどでなく、どう見ても古代竜の子供だ。
でも、あの卵なら、既に生まれてから7年くらい経っている。基本的にはもっと大きくなっているはずなのだ。
なのに、何であんなに小さいのだ?
それに、彼女がピンクの女神で無いのなら、古代竜の卵を拾って孵っただけなのか?
でも、あの古代竜の雛が何でもない平民の女になつくのか?
それはあり得ない話だ。まあ、俺たちが目指していた刷り込みが成功しただけかもしれないが……パティに抱かれている様子を見る限り完全になついていた。
その上、古代竜のガキは俺をチラ見して、フンっといかにも馬鹿にしたように見下したのだ。
俺の能力を見極めたように……
どういう事だ?
そのくせパティのない胸に顔を摺り寄せてピーピー鳴いて甘えているのだが。
そのギャップが酷いんだが……
パティの足取りを調べたところ、12歳の時に男爵家に引き取られた後、アープロース侯爵家のローズの所でお嬢様付きの侍女をしていた。そして、すぐにお嬢様とブラッドの仲を裂いたとして、実家に帰されているのだ。
でも、あの姿かたち、性格、どれをとっても侯爵家の嫡男、ブラッドを虜にしている理由が判らなかった。何しろあいつの容姿や地位を考えれば貴族の子女がほっておくわけは無いのだ。ほっておいても貴族の令嬢が寄ってくる中で、あの地味なパティに執着する意味が理解できなかった。それも、古くからの名門アープロース侯爵家の令嬢との婚約を解消してまで、近付く意味があるのか?
そもそも、男の俺から見てもローズ嬢の方が令嬢としても女としてとても魅力的なのだ。
何をトチ狂ったのかとほかの男どもからも馬鹿にされているのだ。
そこまであのブラッドを執着させる何かがあるのだろう! それが何かだ?
まあ、ローズ嬢は我儘として有名だったが、我が国の悪役令嬢に比べれば全然ましなはずだし。
その悪役令嬢がなぜかこの国にやってくるのだ。
「マチルダ嬢がそちらに行きたがっているから、後はよろしく」
と久々に父からもらった手紙に書かれていた内容に俺は目を見張った。
何故、疫病神がこの小国リーズ王国にやってくるのだ。
昔からあいつは第二皇子と結託して数々の悪戯をやっていた。しかし、こんな辺境の地にあいつがやってくる意味が判らなかった。
冷徹な鉄拳宰相のかつらを釣り上げた一件はいまだに帝国貴族界では伝説になっている。
宰相にとっては良い面の皮だったろう。マチルダの父で傲慢な態度が多い公爵が、なんと平謝りに謝っていたとか。
そんな奴がこんな小国にやってくればこの国にとっては天災以外の何物でもないだろう。
生徒会長の王太子なんて頭を抱えていた。
俺にも「何しに来るんだ? こんな辺境の地に?」
と聞いてきたが、俺も良く判らない。
帝国では、元々母が廃嫡されたこの国の王家の血筋を引いている地位の低い第三皇子の俺とはあまり接点が無かったし、この国に来てからは完全に没交渉だったのだから。
彼女の父の公爵からもくれぐれもよろしく頼むと大量の贈り物が贈られてきたんだけど、どういう事なのだろう?
その上、俺の屋敷の横に空いていた巨大な屋敷を買い取って本人が住むみたいだが、何故だ?
「若、これはチャンスですぞ! 是非とも公爵令嬢をものになさいませ」
帝国から俺についてきたじいはそんな事を言うが、あれだけは嫌だ。
結婚したら尻に敷かれて、あいつが行った数々の愚行の矢面に立たされるに違いないのだ。
それに、俺の未来の花嫁はピンクの女神と決めている。
「そのような夢物語など、寝ている時に言って欲しいですな」
じいには馬鹿にされたが、俺はあきらめきれなかった。
でも、思い返すに、あの地味なパティがピンクの女神なのか?
と思うと、何か違うと俺の本能が叫んでいるんだけど。
ピンクの女神は、もっと可憐で華奢だけど、神々しいのだ。あの躍動感のある躍りはピンクの舞として俺の脳裏に焼き付いていた。それと違いすぎるのだ。
「それよりもそのマチルダ様があいさつにいらっしゃいましたが」
俺は会いたくなかったが、じいに促されて、やむを得ず応接室に向かった。
「久しぶりね。ジル。相も変わらず、冴えない様子だこと」
マチルダは会うなり、こう言うと笑ってくれやがったのだ。
「ふんっ、相も変わらず、傲慢な女だな」
俺が思ったままを言うと
「それが未来の花嫁に言う言葉なの?」
色々突っ込みたいところがあったが、俺は花嫁の所で固まってしまった。
「はああああ! なんで俺がお前を娶らなければならない」
俺は叫んでいた。
「ああら、せっかく後ろ盾になってあげようとしたのに」
恩着けがましくマチルダが言うが、疫病神が取りつく未来しか見えない。
「いるか! 貴様は兄貴に何を言われて来たんだ?」
俺は第二皇子の介入を警戒したが、
「何も……それよりも、由緒正しき帝国の第三皇子が田舎の村長の娘にうつつを抜かしていると聞いて陛下が慌てたんじゃない?」
「何故親父が気にする。今まで見て見ぬふりをしていたではないか」
俺が聞くと
「ああら、陛下は、貴方の事を気にしておられるわよ。少なくとも私を婚約者にしようとするくらいには」
「だから、それは断る」
俺はマチルダに言い切った。
「ええええ! こんないい女を断ると言うの?」
「何がいい女だ。悪女の間違いだろう。陛下が俺の婚約者にしたいのはお前を帝国から厄介払いしたかったからだろう」
「まあ、失礼なことを言うわね。私とあなたが手を組めば帝位など簡単に手に入るわよ」
「別に帝位などいらん」
「あなたが要らなくても皆の思惑は別よ。皇帝にならくて生き残れると思うの?」
「ふんっ、その時はその時だ」
俺は心配そうにするマチルダに言ってやったのだ。
「まあ、古代竜の卵を盗もうとして、失敗したあんたなんて弱い奴は私の方も願い下げなんだけど」
馬鹿にしたようにマチルダが言ってくれた。
「何とでもいえ!」
こいつ、その件を何で知っていやがると思いはしたが、こいつも公爵家の娘、第二皇子とも親しいし、いろんな情報は手に入るんだろう。
「私も婚約なんて、どうでもいいんだけど、私のパティは渡さないからね」
「ぱ、パティ?」
何故こいつの口からパティの名前が出る? 名前が同じだけの他人か?
「パトリシア・ロウギルよ。彼女は私のお気に入りだから」
「ちょっと待て。マチルダ。お前、パティとどこで知り合ったんだ?」
「それは秘密よ」
マチルダは不敵に笑うと応接を出て行ったのだ。
「いや、ちょっと待て!」
止めようとした俺の手を躱すと何かを投げてよこして出て行ったのだ。
俺は唖然としてそれを見送った。
「えっ!」
その俺の手の中の書面を見て俺は思わず悲鳴を上げそうになった。
その書面は俺とマチルダの婚約書面だったのだ。そして、その中にははっきりと皇帝陛下とアラプール公爵のサインがなされていたのだった。
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