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しおりを挟む「ここの食事、老人向けで味が薄くて物足りないからさ、外で買ってきたんだ。乃海君の部屋で食べないか?」
石田さんは近所で旨いと評判の中華料理屋で持ち帰りの料理を買ってきてくれた。そして俺の泊まる部屋のテーブルの上に並べた。エビチリ、焼餃子、春巻き、チャーハン、酢豚、どれもよだれがでそう!
「めっちゃ旨そう!ありがとうございます。」
「俺こそお土産たくさんもらっちゃって、ありがとう。」
俺がもってきたお土産など、ほんとにたいしたことないのに、俺に気を使わせないようにしてくれる心配り、石田さんってほんといい人だよな…。
石田さんの買ってきてくれた中華は、見た目通りものすごく美味しかった。石田さんが言うには、今日は持ち帰りだから買わなかったが、麺類も美味しいらしい。今度食べにいってみよう。
「おじいさんの探し人は見つかった?」
石田さんがふいに言った。
「えっ!石田さんその事知ってるんですか?」
「おじいさんがコッソリ教えてくれたんだ。この施設の中ではこの事を知ってるの僕だけなんだよね。」
「そうだったんですか。まだ全然探せてないというか…探し始めてないというか…。この街に住んでるみたいなんですけどね。とりあえず今度、その人の実家の大黒堂を訪ねてみようかと思ってます。」
「そうなんだ。大変そうだね。」
石田さんは俺に気遣うように言った。
「今日じーちゃんからその人との思い出話を聞いて、なんかめっちゃいい話って思っちゃったんですよね…。本人たちは辛かったんだろうけど。最初じーちゃんから澄子さんのこと探して欲しいって頼まれたときは、正直面倒くさい、無理だろって思ってたんだけど、なんだかほんとに探し出してあげたいなって思うようになってきて…。」
「見つかるといいね。」
石田さんは俺に微笑んで言った。
「あの、話し違うんだけど、さっきこの部屋に来るまで廊下を歩いてて思ったんですけど、ここ夜とか怖くないですか?…その、出たりとかします?」
施設の中は、夜は大部分の電気が消されて薄暗くなる。窓の外は海で、昼間のそれとは全く違い暗闇に押し寄せる波もその音も恐ろしくてしかたがない。ここで亡くなった人もたくさんいるんだろうと思うと、幽霊がいてもおかしくない。鏡に映る自分を見るだけでゾっとする。ここで当直できる石田さんをすごいなと思った。
「出るよ。」
石田さんは何事もないようにサラっと言った。
俺は背筋がゾーっとした。
「マジですか…。ちなみに今もいたりします?」
「いるよ。」
またもや石田さんはサラっと言った。
俺は失神しそうになった。
「この部屋にはいないよ。大丈夫、安心して。」
石田さんはハハハと笑ってそう言った。
「ちなみにどんな霊がいるんですか。怨霊とかもいたりするんですか?」
「怨霊はここでは今まで見たことないけど…、ここで亡くなった人とか、ここにいる人に会いに来る霊とか…そんな感じかな。」
「会いに来る霊とかもいるんですか…。」
霊の世界にも友人宅訪問なんてのがあるのかなと思った。
「乃海君、来世の約束って聞いたことある?」
石田さんは真面目な顔をして俺に聞いた。
「来世の約束?知らないです。聞いたことないです。」
石田さんはビールをぐいっと飲んで、その話を始めた。
「だよね。いや、知らなくて当たり前だよ。俺ね、小さい頃から霊が見えて声とかも聞こえたりするんだよ。それって家系的なものらしくて、母親からは見えても見えないフリをしろ、声が聞こえても無視しろって言われてきたんだ。俺も実際怖かったからそうしてきた。それから大きくなって祖母が入院してからよく病院に行くことが増えて、病院ってやっぱ場所柄霊が多いんだよね。で、聞こえないフリしててもやっぱり聞こえてるわけで…。霊たちの声を聞いててその来世の約束の存在を知ったんだ。」
俺は聞きながら鳥肌がたってきた。
石田さんはビールをチビチビ飲みながら続けた。
「今生でものすごく惹かれあったけど結ばれなかった酷い後悔を抱えた二人が来世の約束をすると、生まれ変わってもまた会えるらしいんだ。生きている間に会えなくて約束が交わせなかったとしても、死んでからあの世に行くまでの間に猶予期間みたいなものがあるみたいなんだよね。多分四十九日とか言うだろ?あの間って、ほんとに霊はこの世をさまよっているみたいなんだ。体から出た魂は、思うところに自由にいけるから。ただその約束を交わすには、お互いがわかるキーワードみたいなものが必要らしいんだ。だから亡くなって魂になって相手のところに行っても相手は気付かず約束をかわせないことが多いみたいだよ。」
「そうなんですか…。」
信じられない話だけど、でもよく亡くなった人が夢枕に立つっていう話あるから、そういうことも有り得るのかもしれない。その時俺はハっと思った。
「もしかして…石田さんは澄子さんの霊を見たんじゃないですか?」
石田さんは俺をじっと見た。そして言った。
「見た。」
「と、いう事は…澄子さんはもうこの世にいないって事なんじゃないですか?」
「…そうとも限らない。俺が見たのは一瞬で、乃海君のおじいさんの部屋のドアの前に立っている女性の姿を見たんだ。次の瞬間もういなくて。霊が見えたからと言って、亡くなってなくてもその人の想いが強ければ生きていても魂がふと抜け出して飛んで行くこともあるんだよ。」
「生霊ってやつですか?」
「その響きはちょっと怖いけど、そういう事だろうね。その女性の姿が見えたのは一瞬だからどっちかわからなかったんだ。俺も人よりちょっと霊感があるってだけで、プロの霊能者って訳じゃないからね。」
石田さんはビールをグイっと飲んで、しばらく腕組して考え込んでから俺にこう言った。
「多分、澄子さんは…来世の約束の事を知っていて、君のおじいさんとその約束を交わしたいのかもしれないね。いずれにしろ、何となく俺の感では、澄子さんを探し出すのは速い方がいいかもしれない。根拠は無いんだけど、なんだかそんな気がするんだ…。」
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