約束

まんまるムーン

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 翌朝、じーちゃんと石田さんに見送られて施設を出た。じーちゃんには、昔大黒堂があった所に行ってみると伝えた。じーちゃんは、ありがとな、と言って喜んでいた。
 


 電車に乗る前に一箇所だけ宝探しをしようと思った。座標がちょうど駅を示していたからだ。その駅は歴史ある駅で、老朽化が進んでいた為、何年か前から保存修理工事をしていた。最近になって工事が完了し、その駅舎が建った大正時代の姿に再現された。駅の中は西洋と東洋がミックスされたようなノスタルジー溢れる雰囲気で、入るとタイムトリップしたような気分になった。



 俺は大正時代の建造物が好きだ。大正時代の建物の、優雅でロマンチックで、でもどこか哀愁が漂っているような雰囲気に惹かれる。大正って、時代的にも戦争に突き進んで行く、決して明るい時代じゃなかったような気がするし、若者たちは未来に希望なんて持てなかったような気がする。少なくとも自分がその時代に生まれていたら絶望感しかなかったと思う。そんな時代の建物が、今の建築よりもロマンチックで美しいというのが、なんだかすごく胸を締め付けられる。その美しさが当時の人たちの心の叫びのような気がしてならない。
 

 
 駅の裏手に昔の水飲み場らしきものがあった。この場所から戦地に赴く人々や戦後引き上げてきた人たちの喉を潤したという。どんな気持ちでこの水を飲んだのか。俺の両親もすでに戦争が過去の歴史の一つになって生まれてきた世代で、俺自身、この国が外国と戦ってきたなんて想像がつかない。だけど何故か俺は昔から戦争時代の本を読んだり、テレビで戦争のドキュメンタリーをやっていたら必ず見る。そういう物に触れるのは、正直ものすごく怖くて本当は目をそらしたくてたまらないのだが、何故か見てしまう。そしてその後トラウマでしばらく鬱っぽくなる。
 戦争で人が傷ついたり死んだりするのは本当に嫌だし、何より自分の思っていることを正直に言えない世の中が本当に嫌だ。上官から意味も無く殴られたりとか、連帯責任とか、考えただけで怒りが湧いてくる。現代にそういう考え方はあまり残っていないかもしれないけど、なんとなくそれを彷彿とさせてしまう体育系の部活の雰囲気が苦手で、運動は好きだし得意な種類のスポーツもあるけど、勧誘されてもずっと断ってきた。尊敬できる先輩は全く問題ないけど、尊敬できないヤツが学年が上というだけで偉そうにしたり下の者をイビったりするのは我慢が出来ない。俺は絶対手が出てしまうとわかっているので、最初から関わらないようにするのが正解だと思っている。
 
 そんなことを考えながら、あらためて水飲み場を見ると、やりきれないような怒りのような悲しみのような、暗く重い気持ちが込み上げてきた。俺は、自分は今の時代だから普通に生きていられるんだろうなと思った。
 スマホを取り出して座標を見ると、まさにこの水飲み場をさしているのに気付いた。俺は水飲み場の周りを探した。水飲み場そのものには、どこにも宝箱は無かった。その後ろに洗面所があって、そこの壁にランプがついてあった。ランプの後ろを探すと、壁に取り付いている板の窪みに宝箱を見つけた。

 箱を開けると、ミズハラノエルのクローバーのキーホルダーが入っていた!

 それまで戦争に想いを馳せて重く沈みこんでいた心が一瞬で暖かくなった。戦争時代に引きずり込まれていた自分を、ミズハラノエルのクローバーが平和な現代へ連れ帰ってくれたような気がした。今日はなんだかこのキーホルダーをまたもらいたい気分になって、自分の持っていたミニカーと取り替えた。記帳をする為にノートを開くと、そこには信じられない言葉が書いてあった。



― 22th Sep 2018 Noel Mizuhara
来世の約束を信じますか?

 

 三回連続で俺の前はミズハラノエルだった。そして石田さんがから聞いたばかりの来世の約束の事をノエルは知っていて、しかもここに書いている。こんな偶然が存在するのか?ミズハラノエルはもしかすると、俺にとって何か重要な関わりがある人間なのではないかと思わずにはいられなかった。


 震える手で俺は書いた。

― 23th Sep 2018 Noah Iwasaki
 信じます。





 電車に乗っている間、昨日からのいろんな事が頭を巡っていた。じーちゃんと澄子さんの話、石田さんが教えてくれた来世の約束、そして今日のミズハラノエルのメモ…。
 俺はなぜか、何か大事な事を思い出せないようなもどかしい気持ちになった。そしてそれは胸の奥のどこかをチクチク刺している。理由がわからない痛みを感じている。
 目を瞑ると何故かどこまでも広がる満天の星空が見えた。見たことも無いようなものすごい数の星が瞬いている。電灯なんか無い真っ暗闇じゃないと、こんな星空は見ることができない。こんな星空、俺は見たことあったか?その映像はだんだんハッキリしてきた。手が届くくらいの大きな星の煌きが見えた。手を伸ばすとつかめそうな煌く星たちが、次第に遠のいてまたぼんやりとしてきた。

 何故か俺は泣きそうな気持ちになった。


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