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君が大事だから
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予約公開の日。
僕は少しだけ落ち着かない気分で過ごしていた。
勿論ペンネームで書いたし、僕が小説サイトを利用していることを知る者もいない。
(だから大丈夫だ)
本当は非公開にしようかとも思った。
だけど折角書き上げたものだし、他の小説に紛れさせておきたかった。
(木を隠すには森の中、というしな)
それにもしかしたら自分のように誰かへの想いを巡らせた小説が紛れているのかもしれない。
そう考えると少しだけ気持ちが高揚するのを感じた。
(そう言えば他の人から見れば僕の書いたものは完全なフィクションに見えるんだろうな)
少しだけおかしくなった。
いや、楽しいのか。
そんな気持ちで授業を受けているうちに予約公開の時間が来た。
放課後、僕は人気のない屋上へ来ていた。
この高校では屋上への出入りは基本自由だ。
今日は部活動へ向かう生徒が多いためか、殆ど人がいなかった。
(この辺りでいいか)
人気がないのを確認してスマホのロックを解除する。
サイトを見るとちょうど僕の小説が公開されたところだった。
新着小説の欄に載せられた『バウムクーヘンエンド』。
それはすぐに後から来る新着小説で押し流されてしまったけれど。
(不思議な感じだな)
光への想いを忘れたくて書いたものなのに。
管理画面を開くと驚いたことにブックマークが一つ、付いていた。
(こんなこともあるんだな)
僕にとっては苦しい恋心で現実だけど、彼らにとっては全く違うものに写っている。
それと同時に自分の作品が評価された、誰かに気に入られたということでもあって。
こそばゆいような、そして少しだけ気持ちが楽になった気がした。
自分の恋心が遠くに行ったような気がして。
(この分ならきっと――)
「海斗、一緒に帰ろ」
「ああ」
ついいつも通りに返事をしてしまったが、彼女はいいんだろうか。
付き合っている恋人同士なら一緒に帰るものでは?
三石さんは、と口を開きかけて慌てて閉じる。
光から何も言われてないのにそれを聞くのは不自然なような気がしたから。
(幾ら噂になっているとはいっても当人が言わないのにこっちが言うのはおかしいよな)
適当に話を合わせているうちに光の家に着く。
(もう着いてしまった)
名残惜しいけれど断りの言葉を言おうとした時、どこか勢い込んだ光の声が響いた。
「今日、授業でちょっと分からないところがあったんだけど、少し見てくれる?」
少し下からいつも通りに見上げてくる光の目は少しだけ困っているようだった。
「分かったよ」
考える間もなく答えていた。
「いいの?」
「ああ」
そう答えて玄関に入りながらも、脳内はパニックだけど。
(あああっ、どうして頷いたんだっ!! 確か今日ってお母さんの紗耶香さんはパートで遅い日じゃなかったかっ!? ってことは二人きりなのかっ!?)
勝手知ったる光の部屋に通されて鞄を下ろす。
「……お邪魔します」
「ふふっ、どうしたの? いつもそんなこと言わないじゃない」
「いや、何か言った方がいいような気がしただけ」
動揺しまくりの僕に気付かないように光が相槌を打つ。
「ふうん」
教科書を出し、さっさと片づけようとする僕に光がのんびりと告げた。
「あ、今日のおやつ、何だったかな。ちょっと見てくるね」
僕の返答を待つ暇もなく扉が閉まり、そこで漸く息を付くことが出来た。
(緊張した。早く終わらせないと)
戻ってきた光はどら焼きの入った器と茶器の載った盆を手にしていた。
「どら焼きだった。もう海斗が和菓子好きなだからって和菓子率高すぎ」
「え、そうなのか」
「あれ、気付いてなかったの? 海斗って和菓子の時ってテンション上がるよね? だから和菓子率高いこと」
「え、あ。何かごめん」
「くっ、あははっ、何で海斗が謝んの? 用意したの母さんなのに」
いつも通りの会話に調子が戻って来た気がして、そっと心の底で息を吐く。
(このまま時が過ぎてくれればいいのに)
だから気付かなかった。
そんな僕の様子を光がじっと伺っていたことに。
僕は少しだけ落ち着かない気分で過ごしていた。
勿論ペンネームで書いたし、僕が小説サイトを利用していることを知る者もいない。
(だから大丈夫だ)
本当は非公開にしようかとも思った。
だけど折角書き上げたものだし、他の小説に紛れさせておきたかった。
(木を隠すには森の中、というしな)
それにもしかしたら自分のように誰かへの想いを巡らせた小説が紛れているのかもしれない。
そう考えると少しだけ気持ちが高揚するのを感じた。
(そう言えば他の人から見れば僕の書いたものは完全なフィクションに見えるんだろうな)
少しだけおかしくなった。
いや、楽しいのか。
そんな気持ちで授業を受けているうちに予約公開の時間が来た。
放課後、僕は人気のない屋上へ来ていた。
この高校では屋上への出入りは基本自由だ。
今日は部活動へ向かう生徒が多いためか、殆ど人がいなかった。
(この辺りでいいか)
人気がないのを確認してスマホのロックを解除する。
サイトを見るとちょうど僕の小説が公開されたところだった。
新着小説の欄に載せられた『バウムクーヘンエンド』。
それはすぐに後から来る新着小説で押し流されてしまったけれど。
(不思議な感じだな)
光への想いを忘れたくて書いたものなのに。
管理画面を開くと驚いたことにブックマークが一つ、付いていた。
(こんなこともあるんだな)
僕にとっては苦しい恋心で現実だけど、彼らにとっては全く違うものに写っている。
それと同時に自分の作品が評価された、誰かに気に入られたということでもあって。
こそばゆいような、そして少しだけ気持ちが楽になった気がした。
自分の恋心が遠くに行ったような気がして。
(この分ならきっと――)
「海斗、一緒に帰ろ」
「ああ」
ついいつも通りに返事をしてしまったが、彼女はいいんだろうか。
付き合っている恋人同士なら一緒に帰るものでは?
三石さんは、と口を開きかけて慌てて閉じる。
光から何も言われてないのにそれを聞くのは不自然なような気がしたから。
(幾ら噂になっているとはいっても当人が言わないのにこっちが言うのはおかしいよな)
適当に話を合わせているうちに光の家に着く。
(もう着いてしまった)
名残惜しいけれど断りの言葉を言おうとした時、どこか勢い込んだ光の声が響いた。
「今日、授業でちょっと分からないところがあったんだけど、少し見てくれる?」
少し下からいつも通りに見上げてくる光の目は少しだけ困っているようだった。
「分かったよ」
考える間もなく答えていた。
「いいの?」
「ああ」
そう答えて玄関に入りながらも、脳内はパニックだけど。
(あああっ、どうして頷いたんだっ!! 確か今日ってお母さんの紗耶香さんはパートで遅い日じゃなかったかっ!? ってことは二人きりなのかっ!?)
勝手知ったる光の部屋に通されて鞄を下ろす。
「……お邪魔します」
「ふふっ、どうしたの? いつもそんなこと言わないじゃない」
「いや、何か言った方がいいような気がしただけ」
動揺しまくりの僕に気付かないように光が相槌を打つ。
「ふうん」
教科書を出し、さっさと片づけようとする僕に光がのんびりと告げた。
「あ、今日のおやつ、何だったかな。ちょっと見てくるね」
僕の返答を待つ暇もなく扉が閉まり、そこで漸く息を付くことが出来た。
(緊張した。早く終わらせないと)
戻ってきた光はどら焼きの入った器と茶器の載った盆を手にしていた。
「どら焼きだった。もう海斗が和菓子好きなだからって和菓子率高すぎ」
「え、そうなのか」
「あれ、気付いてなかったの? 海斗って和菓子の時ってテンション上がるよね? だから和菓子率高いこと」
「え、あ。何かごめん」
「くっ、あははっ、何で海斗が謝んの? 用意したの母さんなのに」
いつも通りの会話に調子が戻って来た気がして、そっと心の底で息を吐く。
(このまま時が過ぎてくれればいいのに)
だから気付かなかった。
そんな僕の様子を光がじっと伺っていたことに。
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