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 異国情緒を漂わせる豪華な調度品に彩られた一室に、ソファに腰掛けて本を読む男性が一人。

 シンプルながらも美しい刺繍が施された服を着て、長い足を組み本を読む姿はまるで絵画のよう。
 ページをめくる長く白い指と髪の毛と同じ白いまつ毛に縁取られた瞳が瞬きをすることによって、彼が生きていることを証明する。

 彼の名前はライナルト・ファルケンハイン。
 
 この国の宰相にして獣人であるライナルトは、獣人の中でも希少種の竜人である。
 長寿種の竜人は数が少なく美しい容姿と絶対的な力を持っている。そのため、獣人達の間では神のように崇拝する者がいるほどだ。


 ライナルトは人生に退屈していた。
  
 『人生とは孤独だ』

 かつて出会った年老いた竜人が言っていた。若かったライナルトは年老いた竜人が言っている意味が分からなかったが、今なら分かる。

 
 戦場で友人を窮地から救った時も。建国して宰相となった時も。夜通しこの国について語らった時も。友人の結婚式に立ち会った時も。ライナルトの心が満たされることはなかった。


 そして、友人が青ざめた顔で倒れる番を胸に抱き涙を流す姿を見た時、ライナルトは番という存在が獣人にとって、どれほどかけがえのない存在なのかまざまざと見せられた。

 番とはたった一人の伴侶であり、獣人にとって自分の命より大切な存在。
 長い付き合いの中でライナルトが友人の涙を見るのは初めてのことだった。友人は戦場で大怪我を負って死にかけた時でさえ……、涙を流すことはなかったのに。

 自分の番のこととなると涙を流すその姿を見て、ライナルトは恐怖を覚えた。

 
 私の番は安全に暮らしているだろうか?
 ご飯を満足に食べれているだろうか?
 怪我や病気で苦しんだりしてないだろうか?

 ――私の番は生きているだろうか?
 

 友人と出会い宰相になるずっと前。世界を何も考えず旅していた時、ある竜人が言っていたことを思い出す。


『お前は怪物になってくれるな。俺は同胞を殺したくない』


 早く……見つけなければ。
 この世界のどこかにいる番を。

 ライナルトは狂ったように世界を飛び回った。何年も、何十年も。見送る友人の表情が曇るのを気付かないフリをして。


 そして、番を探しはじめてから数十年経ったある日。
 ライナルトは友人が宰相の仕事がしやすいようにとライナルトに与えた離宮を捨て、宮殿の一番高い部屋へと身を潜めた。
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