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しおりを挟む長い白髪の前髪から覗く金色の瞳の彫刻のように美しい男性が、窓の淵に腰掛けてパーティーの招待客達を冷めた目で見下ろしている。
浮き足立つ招待客達は、宮殿の一番高い部屋から見られていることに気付かないまま宮殿の中へと消えていく。
部屋の主人であり、パーティーの主役でもある男性はピクリと動くことなく、冷たい表情のまま時間だけがいたずらに過ぎていく。
「まだここにいるのか」
ノックもなく突然ドアが開くと、燃えるように赤い髪をした精悍な顔立ちの部屋の主人とは違った美しい男が呆れたように言った。
部屋の主人は来客に驚くどころか、窓の外から視線を動かそうとしない。
「…………」
反応のない無言の部屋の主人に赤髪の男性はため息をつく。
「ライナルト。今すぐ準備をしないとパーティーに間に合わなくなる」
「…………」
「今日はライナルトのためのパーティーだ。ダンスを踊れと言っている訳ではない。せめて、会場に顔を見せるだけでもしてくれ」
「私が顔を見せなくても王であるお前が勇ましく話すだけで招待客達は満足するだろう。過去の遺物など必要ないさ」
やっと話したかと思えばライナルトは気怠げに言った。
顔をこちらに向けようともしないライナルトに、赤髪の男性は髪に伸ばした手をパーティーのためにセットされていたことを思い出してグッと握る。
「ベアトリクスが街で当たると噂の占い師の話を聞いてパーティーに招待したらしい。部屋の準備をしたから宰相らしい服に着替えて会ってくれ」
「必要ない」
「そんなこと言うな。ベアトリクスがライナルトのことを思って占い師を招待したんだ。この際、パーティーには出なくてもいい。占いをしてもらえとは言わないから会うだけでもしてくれ」
旧知の友であり、愛妻家である王の言葉を無視することもできず、パーティーより占い師に会う方がいいかと思ったライナルトは重い腰を上げ部屋から出た。
準備された部屋で本を読みながら占い師を待つライナルトは、長い人生の中で忘れることのない日になることをまだ知らない――。
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